BY LINDSAY TALBOT, STILL LIFE BY MATTHEW AVIGNONE, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
航空機が飛ぶはるか前から、芸術家や発明家たちは空を飛ぶことを夢見てきた。中国には2千年以上も昔から、竹や紙、布でできた凧たこがあったと言われている。レオナルド・ダ・ヴィンチは、飛行機が発明される4世紀も前にオーニソプター(羽ばたき式飛行機)、つまりフットペダルとハンドレバーで羽を動かして空を飛ぶ、コウモリのような形の機械をスケッチしている。
1783年、ジョゼフ=ミシェルとジャック=エティエンヌのモンゴルフィエ兄弟が、世界初となる熱気球の飛行実験を行った。初めての空の旅に乗客として送り込まれたのは、羊とアヒル、ニワトリだった。
こういった空飛ぶ乗り物にまつわる豊かな想像力をインスピレーション源にして、1984年にフランスの画家ロイック・デュビジョンがエルメスのシルクスカーフを制作。「アルソー 大空の熱狂」と題されたスカーフには、カラフルな飛行船や球形のバルーン、風になびく帆船などが描かれている。
エルメスの新作ウォッチ「アルソー 大空の熱狂」は、このデュビジョンのスカーフと、飛行士の先駆け的存在となるものに着想を得ている。ベースとなる腕時計「アルソー」は、1978年にアンリ・ドリニーがデザインを手がけた。今ではエルメスを象徴するアイテムになっている。
この新作ではマザーオブパールの文字盤を大空に見立てており、そこに浮かぶピンクとグリーンの二つの熱気球は、ネオライト樹脂を手作業で彫り込んだもの。その下には、ホワイトゴールドにハンドペイントした、パステルカラーの大きな鳩の形のゴンドラがぶら下がっている。この空飛ぶ乗り物の上に浮かぶもうひとつのバルーンは、オレンジとブルーのストライプ柄で、手首の動きに合わせて動く仕組みだ。
ホワイトアリゲーターストラップのついたこの腕時計は、世界で24本のみの限定生産。まさに飛ぶように、あっという間に売れてしまうことであろう。
PHOTO ASSISTANT: MARIA TRAJTENBERG