シャネルが、2022/23年 メティエダール コレクションを再演するレプリカショーを東京ビッグサイトで開催した。ラグジュアリーメゾンの作品を支える職人技を讃えるショーを、シャネルは毎年一回、発表している。卓越した手仕事を守り育む意義と意図は何か、シャネル ファッション部門 兼 シャネル SAS プレジデントのブルーノ・パブロスフキーに尋ねた

BY MAKIKO TAKAHASHI

画像: 類い稀な職人の技によるみごとなレース編みのセットアップ COURTESY OF CHANEL

類い稀な職人の技によるみごとなレース編みのセットアップ

COURTESY OF CHANEL

 最近よく耳にする「サヴォアフェール」という言葉をご存知だろうか。「伝統的な匠の技」といった意味のフランス語で、特にハイブランドの伝統技について使われることが多い。
そのサヴォアフェールの存続と未来への発展に特に注力しているブランドのひとつが、シャネルだ。オートクチュールなどで培われてきたフランスの伝統的な手仕事の継承を目的に、1980年代から刺繍や羽根細工などの工房を自らの傘下に収めてきた。いまやその数は40にものぼる。

 その工房の技術を結集させた「メティエダール(フランス語で芸術的な手仕事の意)コレクション」が毎年発表されていて、今年は6月1日に、東京では6年ぶりとなるショーが披露された。ショーを機に来日したシャネルのファッション部門のプレジデント、ブルーノ・パブロフスキー氏に、伝統技をいかに次世代へ継承していくか、尋ねた。実は6年前にも、パリ・コレのバックステージで話を聞いたことがあって、インタビューは2回目。終始笑顔で時に熱弁をふるう、きさくなムードは今回も同じだった。

画像1: COURTESY OF CHANEL

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 このコレクションは昨年12月にアフリカ、セネガルの首都ダ・カールで最初に発表された。ショーでは、ダ・カールと同様に地元の若者たちによる躍動感あふれるダンスのパフォーマンスが行われた。「一般的な服の新作発表ということ以上のものを見せたかったのです。音楽やダンスなどダ・カールと日本のエネルギーをミックスすることで生まれる新たなパワーを体感して欲しかった。メティエダールの素晴らしさもそうしたエネルギーのミックスにあるから」とパブロフスキー氏は語る。

 ショーの冒頭、3月に亡くなった音楽家、坂本龍一氏の名曲「戦場のメリークリスマス」がライブ演奏されるなど日本の文化に寄りそうようなエモーショナルな演出も。シャネルと日本は1970年代からビジネスなどでつながりがある。3年以上に渡ったコロナ禍を経て、「日本の人々ともう一度強くつながりたかった」とも。

画像2: COURTESY OF CHANEL

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 作品は、アフリカらしいプリミティブな幾何学柄のモチーフが、極めて立体的な刺繍など手の込んだ手仕事で表現されていた。パブロフスキー氏によると、このメティエダールこそがブランドのDNAであり、将来につながる大切な柱だと考えているという。「ブランドの独自性を作るのに欠かせないのが職人技。技を革新的に進化させてフランスのファッションをさらに発展させ、世界に影響を与える数少ない存在であり続けたい」

 では、その技の継承については、どのように実践しているのだろうか。シャネルは昨年、傘下の工房を集めた巨大な施設「le 19M」をパリに設立した。各工房は、これまで通りなるべくベテランが若手職人と同じ場で作業し、技を教えるように務めているという。また、ブランドのサヴォアフェールを守ることを目的に、30歳以下の若者1,200人を雇用し、技術の習得や職人の養成の機会を与えている。
「単に表面的に技を教えるのではなく、服のデザインから糸作り、製品に至るまでの全ての過程で、最高のものであり得なければならないことを見てもらいます。また、それがグローバルなビジネスを展開できる組織力につながることを、実感を持って知ってもらうことが重要」とパブロフスキー氏。

 ショーの翌日、学生を対象にしたトークイベントが開催された。前日のショーに登場した作品の展示と共に、ものづくりの難しさや課題が語られ、音楽など他分野のアーティストとの協業も紹介、質疑応答も行われた。「次代を担う若い人たちに、ファッションのものづくりはひとりではできない、オーケストラのように皆が強い絆で結ばれてこそ初めて完成するものなのだということを伝えたい。ひとつの商品にどれだけのクリエイティビティが必要なのか、感じて欲しいのです」

画像3: COURTESY OF CHANEL

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 ところで、どんなに並外れて優れた手の技も、驚異的に発展するAI(人工知能)には叶わなくなる可能性はないだろうか? そう尋ねると「AIには作れない重要なものが、ファッションにはある。それは様々な人たちが集まり、チームで作ることから生まれる魅力」だと言う。

 必ずしも完璧なものではないからこそ、人を魅了することもある。「我々が目差すのはAIとは対極にある、生身の人間にしか出来ないもの。作品を通じて肌で感じるユニークな体験。20年後だって、人間によるクラフトマンシップは続いていると私は思う」と力強く語った。

画像: ブルーノ・パブロスフキー。シャネル ファッション部門 兼 シャネル SAS プレジデント COURTESY OF CHANEL

ブルーノ・パブロスフキー。シャネル ファッション部門 兼 シャネル SAS プレジデント

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