BY HIROKO NARUSE
前代未聞の原石を発掘
標高3100m、鉱山としては世界一の高地にあるレツェング鉱山で、2018年1月、史上5番目の910カラットの原石が発掘された。ダイヤモンドの鑑定基準に照合すると、この石は“完璧”。10倍のルーペで見ても全くインクルージョンのないフローレスの可能性を秘め、カラーは最上級のD。窒素の含有量はゼロで、最高品質といわれるタイプ2Aの鮮烈な輝きと透明度を備えていた。この原石は、長年ヴァン クリーフ&アーペルと密接な関係を保ってきたダイヤモンドディーラーを経由して、メゾンの手に渡ることになった。通常ジュエラーが原石から関わるケースは非常に少なく、原石の特異性を含め稀有なケースとして話題をよんだ。
カットと研磨を経て裸石(ルース)誕生
その後原石は、アントワープにあるダイヤモンドカッターへ送られた。そこで3Dソフトウェアを使って、原石から取り出す石の形と重さの組み合わせを分析。カットには、ダイヤモンドの劈開を利用した伝統的な手法と、レーザーによる最新技術が併用された。取り出されたのは、原石の約半分の合計441.75ct、67石。さらにカット職人がそれぞれにファセットをつけて研磨を施し、デザイナーの創造性をよびさますにふさわしい、多彩なフォルムのダイヤモンドルースが誕生した。それらの石は、ヴァンドーム広場にあるメゾンのアトリエに運びこまれた。
ダイヤモンドの美を引き出す、メゾンならではのデザイン
次のステップはデザイン。デザインスタジオは、格別なオーラを放つダイヤモンドにエメラルドやルビーの鮮明な色彩を組み合わせた、メゾンらしさ溢れる25点の作品を創作した。そのすべてに施されることになったのが、1933年に特許を取得して以来。メゾンの代名詞となったミステリーセット。アトリエには、その制作ノウハウを知り尽くした「マンドール(黄金の手)」と呼ばれる、卓越した技術を受け継ぐ職人たちが揃っている。彼らは延べ3万時間以上におよぶ手作業によって、デザイン画に表現されたイメージを立体のハイジュエリーピースに落とし込んだ。
匠の技を積み重ねて、完璧な仕上がりを実現
作品に施された匠の技を代表するのは、メゾンの象徴であるミステリーセット技法だ。宝石の鮮やかな色彩を際立たせるように、金属のパーツは完全に隠される。爪が見えない秘密は、作品の内側に配されたゴールドのレールと、そこに緻密に加工した石をはめ込む熟練の技巧にある。メゾンは1990年代以降次々と新しいテクニックを開発し、現在では作品ごとに最適なミステリーセットを選べるほどに。制作過程では、金細工職人が作った台座に、セッティング職人が宝石を留めてゆく。それぞれの技の完成度の高さに加えて、ふたりの匠の連携がパーフェクトな仕上がりを生む。
歴史に残るトランスフォーマブルなハイジュエリーが完成
宝石のセッティングが終わったピースは、研磨仕上げを施され、プロジェクトのディレクターのチェックを経て完成となる。この「レジェンド オブ ダイヤモンド」コレクションでは、トランスフォーマブルなデザインが際立っている。ネックレス2点にそれぞれイヤリング、リングと、いずれにもペンダントチェーンがセットされて、場の品格や雰囲気に合わせてそれらを活用することで、多彩な着用法が可能になる。これまでメゾンが手がけてきた、世界中の王族や貴族のために制作されてきた至宝というべきダイヤモンドジュエリーと肩を並べる、独創的なデザインの逸品だ。ダイヤモンドの存在感とシンボリックなセッティングが融合したユニークピースは、メゾンの伝統を未来へ受け継ぐ新たな伝説になる。
ヴァン クリーフ&アーペル デスク
TEL. 0120-10-1906