BY KIMIKO ANZAI
近年、世界における日本ワインの活躍が目覚ましい。権威ある国際ワインコンクールで次々と受賞を重ね、日本には素晴らしいワインがあることを世界のワイン愛好家たちに認識されるようになってきた。世界的和食ブームも追い風となって、日本ワインはますます発展…… と思っていたところに、ワイン界にとって大きなニュースが飛び込んできた。今度は、ワイン単体でなく、ワイナリーに対する受賞である。長野県上田市にある「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」が「ワールド・ベスト・ヴィンヤード 2020」において世界第30位、そして“ベストアジア”に選出されたのだ。
この賞のすごさはあまり知られていない。英国のウィリアム・リード・ビジネス・メディア主催による“世界最高のワイナリー ベスト50”を選出するアワードで、世界のワインや食、旅行業界のスペシャリストたちが、ワイナリーでのツアー、ワイン、食事、スタッフの対応、景観、コストパフォーマンスなど多岐に渡る基準から投票をとって選考されるもの。2020年度のノミネートは1,800以上、その中からベスト50が選ばれた。
受賞ワイナリーには世界に名だたる名門がずらり。カリフォルニアの「ロバート・モンダヴィ ワイナリー」は第5位、ボルドーの「シャトー・マルゴー」が22位、シャンパーニュの「テタンジェ」が第28位、そして「シャトー・メルシャン」が第30位にランク・イン。その後には第31位にボルドーの世界最高の貴腐ワインと評される「シャトー・ディケム」、33位にボルドー・五大シャトーの「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」が入っているのだから驚いてしまう。
たとえるならば、かつてのパリ・コレクションのランウェイに山口小夜子が現れ、世界を魅了したようなインパクト、といえばわかりやすいだろうか。シャトー・メルシャン 椀子ワイナリーは、ヴィンヤードとしての開園は2003年で「マリコ・ヴィンヤード」シリーズをリリースしていたが、本格的なワインツーリズムが体験できるワイナリーとして開園したのは2019年9月のこと。いわゆる“ニューフェイス”であった上に、コロナの影響で、ワイナリーは一時クローズし、再開してからもビジターは激減といった困難な状況下での受賞だった。
今回の受賞に際し、ワイナリー長の小林弘憲氏に話を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「ある日、ワイナリーに差出人に心当たりのない小包が届き、おそるおそる開けてみると賞状とトロフィーが入っていました。もしや『受賞されましたので、よろしければ協賛金を』といった怪しげなものかと思い、マーケティングチームに問い合わせたところ、『やっと届きましたか』と(笑)。主催者からは賞状がとどくまで極秘にと言われていたそうです」。マーケティングチームから詳細を聞き、小林氏はようやく実感がわいたという。
「確かに、思い当たるふしはありました。開園直後、海外からのゲストを多く迎えました。彼らは勝沼ワイナリーと桔梗ヶ原ワイナリーを同時期に訪問していましたから、椀子ワイナリーは『シャトー・メルシャン』を代表しての受賞だったと、自分では認識しています」と笑顔を見せる。
受賞に際し、評価されたポイントは下記の3つ。
1.日本最古の民間ワイン会社をルーツに持ち、世界で評価されるワインを生み出す日本のリーディング・ブランドのワイナリーであること。
2.広大なブドウ畑と大自然のパノラマを見下ろせる壮観なテラス、そこで提供されるのは多彩なワインと地元産の食材を使ったおつまみ。
3.8種類の多様な品種を栽培し、その畑とワイナリーを巡る趣向を凝らしたツアー。一般のワイン愛好家たちがワインツーリズムを楽しめる設備とプログラムが充実しているのだ。
今回の受賞は、“ワインツーリズム”にフォーカスされたものだったが、それには「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」設立についての3つのミッション、「地域との共生・自然との共生・未来との共生」との相乗効果もあったのではないかと、小林氏は推察する。
「“地域との共生”とは、簡単に言えば地元における土地の活用でしょうか。ここは、以前は桑畑だったのですが、長い間、遊休農地になっていました。そこにブドウを植え、垣根栽培の畑にしたのです。そうすることで、自然との共生が叶うようになりました。耕作地を作ると、そこに日本品種の種が運ばれます。すると虫が戻り、それを狙って鳥が戻り、自然の生態系を作り出す。これは、日本古来の“里山の生態系”でもあります。“未来との共生”とは、地域の子どもたちの育成に関わっていくこと。塩川小学校の児童の食育教育の一環として、ヴィンヤードの一角にジャガイモ畑を作って子どもたちが収穫体験をしたり、ブドウの収穫時期には地元の小・中・高校の子どもたちに収穫を手伝ってもらったりと、ともに自然に向き合う時間を過ごしています。また、ワイナリーでは、高校生の職業体験なども受け入れています。地域の子どもたちの育成に、さりげなく寄り添っていけたらと考えています」
「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」から生まれるワインは、当然ながら世界でも高い評価を受けている。「椀子シャルドネ」、「椀子メルロー」などはコンクールの金賞の常連だ。椀子ヴィンヤードのテロワールをすべて表すというシリーズ最高峰の「椀子 オムニス」もここから生まれる。
もう少し、気軽に旅ができるようになったら、シャトー・メルシャン 椀子ワイナリーを訪ねてみたい。ブドウ畑を360度見渡すテラスでワインを楽しめば、心も解放され、自然に溶け込んでいる自分に気づくことだろう。
問い合わせ先
シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー
住所:長野県上田市長瀬146-2
電話:0268(75)8790
公式サイト
※ 新型コロナウイルスの感染・拡散防止のための営業時間やツアー内容などは、随時公式サイトをご確認ください。