「マスクが日常に根付いている日本から、世界中の人たちにマスクの大切さを伝えたい。」青山の「Le charme de fifi et fafa」のデザイナー、幾田桃子さんが始めたキャンペーンが各国で反響を呼んでいる

BY OGOTO WATANABE

「買い付けなどで様々な国を訪れますが、海外でマスクは定着していませんでした。新型コロナウイルスに限らず、風邪などで体調が悪いとき、ほかの人へなるべく移さない心遣いとしてマスクは重要。公の場でマスクをつける習慣を、ファッションの力を通じて世界に広められたらと考えました」と幾田さん。

 幾田さんは南カリフォルニア大学で国際政治学と女性学を学び、在学中に起業。2003年に南青山に「Le charme de fifi et fafa(ル シャルム ドゥ フィーフィー エ ファーファー)」をオープン。SDGsという言葉もない当時からずっと、“セールをしない”、“在庫消化率99%でゴミを出さない”、“美を育み、職人を守る”を掲げてきた。また、同店を単なるブティックではなく、政治や哲学、芸術などを語り合える知的交流の場として機能するよう、さまざまな試みを重ねている。「社会にはいろいろと改善すべきことが溢れています。人々の多くはその影響を受けて生きづらさを感じています。社会問題をファッションやアートを通じて引き寄せ、人々の関心と意識に訴えたい。そう願い、夫の千々松 由貴とともに『MOMOKO CHIJIMATSU』を立ち上げ、性教育や人種差別問題などについて、教育と社会活動を続けてきました」

画像: 幾田桃子(左)と千々松 由貴(ちぢまつ ゆたか) このキャンペーン用に制作したマスクを着用。「欧米では、マスクは重病の人や医療従事者のもの、かつ“ダサい”という意識が根強かったんです。アフターコロナにも、様々な感染症の予防に大切な習慣として、マスク着用を継続してほしい。また、世界中で使い捨てマスクを使用すると膨大なゴミが出ます。布マスクも併用し、できるだけゴミを増やさない努力も必要です」 http://momokochijimatsu.com PHOTOGRAPH BY KATSUHIKO KIMURA

幾田桃子(左)と千々松 由貴(ちぢまつ ゆたか)
このキャンペーン用に制作したマスクを着用。「欧米では、マスクは重病の人や医療従事者のもの、かつ“ダサい”という意識が根強かったんです。アフターコロナにも、様々な感染症の予防に大切な習慣として、マスク着用を継続してほしい。また、世界中で使い捨てマスクを使用すると膨大なゴミが出ます。布マスクも併用し、できるだけゴミを増やさない努力も必要です」
http://momokochijimatsu.com
PHOTOGRAPH BY KATSUHIKO KIMURA

 4月21日より、ふたりは「MASKS FOR ALL 世界キャンペーン」を開始。環境にも配慮したオーガニック素材を用いて布マスクを作成し、プロジェクトに賛同する世界各地のデザイナーに送る。デザイナーたちは自宅やアトリエで思い思いのスタイルでマスクを着用し、インスタグラムにメッセージと写真をアップしていく。Netflixの『ネクスト イン ファッション』で優勝した韓国のデザイナー、キム・ミンジュ、イタリアからはバーバリーのグローバルキャンペーンの帽子をデザインしたフランチェスコ・バレストラッツィ、フィンランドからは同性カップルに育てられ、サンナ・マリン首相やレディー・ガガの靴を手がけるミナ・パリッカ。マスクのバトンはどんどんつながり、インドネシア、マレーシア、ウクライナ、スペイン、アメリカへ広がっている。

画像: デムナ・ヴァザリアの活躍以来、東ヨーロッパ出身の新進デザイナーが注目されている。そのひとつ、テオ(THEO)は、テオ・デカンとオクサナ・デニス(写真)のふたりが手がけるブランド。デカンもマスクを着用した姿をインスタグラムにアップしている COURTESY OF OKSANA DENNIS

デムナ・ヴァザリアの活躍以来、東ヨーロッパ出身の新進デザイナーが注目されている。そのひとつ、テオ(THEO)は、テオ・デカンとオクサナ・デニス(写真)のふたりが手がけるブランド。デカンもマスクを着用した姿をインスタグラムにアップしている
COURTESY OF OKSANA DENNIS

 イギリスでは、ドレスデザイナーのアリス・アーチャー、ヘッドピースデザイナーのハーヴィー・サントスらの参加に続き、スティ―ブン・ジョーンズが理事長を務めるヘッドピースデザイナーの組織「ブリティッシュ・ハット・ギルド」もこのキャンペーンに賛同し、公式インスタグラムにて紹介した。ちなみにこの組織は、NHS(イギリスの国営医療サービス)から依頼を受け、PPE(個人防護具)の作成をサポートしている。

画像: ALICE ARCHER(アリス・アーチャー) ドリス ヴァン ノッテンで刺繍のデザインを手がけた後、独立。ロンドンのブラウンズのブライダルドレスのデザイナーも務める。美しい刺繍を施したドレスに定評があり、愛用者にはファッション評論家のスージー・メンケスも www.alicearcher.co.uk COURTESY OF ALICE ARCHER

ALICE ARCHER(アリス・アーチャー)
ドリス ヴァン ノッテンで刺繍のデザインを手がけた後、独立。ロンドンのブラウンズのブライダルドレスのデザイナーも務める。美しい刺繍を施したドレスに定評があり、愛用者にはファッション評論家のスージー・メンケスも
www.alicearcher.co.uk
COURTESY OF ALICE ARCHER

 キャンペーンを開始して約3週間。どんな反響があるか幾田さんに聞いてみた。「以前はマスク着用に抵抗があったけれど、コロナ対策だけでなくマスクの重要性がわかった」「マスクって変じゃない、着けても素敵になれる。アートにもなるんだね!」「マスクは自分を守るだけでなく、ほかの人への思いやりということを知った」など、世界各国からたくさんのダイレクトメッセージを受け取っていると言う。このキャンペーンでは着古したTシャツからマスクを作る方法も伝えているが、アフリカから「学校のみんなに作ってあげたいからもう少し作り方の相談をさせて」というメッセージもあり、現在対応中だ。

 直接の知人ではないがアメリカのバッグブランドbywaystudioが、MOMOKO CHIJIMATSUのものを手本に、実験的にマスクを作成中とのニュースも。bywaystudioは、医療関係者の助言をもとにマスク作成用のパターンを無料でダウンロードできるよう に試作を重ねているとのこと。「キャンペーン用に作った私たちのマスクは売り物ではないので、このように知らない方がパターンを作成し、無料で提供して、皆に広めてくれるのはとてもうれしい」と幾田さんは語る。

画像: HARVY SANTOS(ハーヴィー・サントス) 元バレエダンサーという異色の経歴だが、マーク・ジェイコブスの帽子なども手がけるホープ。スティーブン・ジョーンズが率いるブリティッシュ・ハット・ギルドのメンバーでもある http://harvysantos.com COURTESY OF HARVY SANTOS

HARVY SANTOS(ハーヴィー・サントス)
元バレエダンサーという異色の経歴だが、マーク・ジェイコブスの帽子なども手がけるホープ。スティーブン・ジョーンズが率いるブリティッシュ・ハット・ギルドのメンバーでもある
http://harvysantos.com
COURTESY OF HARVY SANTOS

 現在、そして近未来のモード界を支えるデザイナーたちがキラ星のごとくつながるこのキャンペーン。「皆さん、今は多方面で活躍していますが、最初に出会ったころはお金がなかったり自信がなかったり。でも、それぞれが心を揺さぶる美しいデザイン力とポテンシャルを秘めていました。私は美しいものが大好きで、ただもうみんなに幸せに仕事を続けてほしいと願い、話を聞いたりサポートしたりしてきました。そんな仲間の活躍ぶりを世界に発信できるのもうれしい。今は離れていても、世界は小さく、つながって助け合っていこうとみんなに伝えています」と幾田さん。

「ファッションやアートは消費するだけでなく、美しい世界を生んでみんなをワクワクさせたり、大切なことをシェアするきっかけになるものだと思います。キャンペーンの反応から、そのことをあらためて感じています。手を洗い、マスクをし、外出を自粛して感染から自分や周囲の大切な人を守るのは大事なこと。でも、それだけでは健康は維持できないと思うのです。不安やストレスで心が不健康だと、周囲に対し攻撃的になったり自暴自棄になったりしかねない。心の健康は、薬やマスク、手洗いだけでは予防できない。心をすこやかに穏やかに保つのに、美しいものは大きな働きをすると考えています。以前から、ファッションやアートを心のケアに活用する方法を進歩的な精神科医の方々と定期的にお話を重ね、探ってきました。実践に向けて準備をすすめているところです」

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