豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。郷土で愛されるソウルフードから、地元に溶け込んだ温かくもハイセンスなスポットまで……その場所を訪れなければ出逢えないニッポンの「ローカルトレジャー」を探す旅へ出かけたい。秋の彩りを求めて日本海を渡たり辿り着いた先は、新潟県の佐渡島。世界農業遺産にも認定され、海の幸、大地の稔、森の恵みに満ちたこの島では、移住者が紡ぐカルチャーと地場の文化が、互いの個性をリスペクトしながら隣り合っていた

BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

 離島への旅の計画を立てたら、真っ先にリザーブしたいのが滞在先である。窓から見える景色さえも一幅の絵画のように感じる、海辺のホテルとゲストハウスをセレクトした。

《STAY》「HOTEL OOSADO(おおさど)」
日本海の夕陽と溶け合う唯一無二のホテル

画像: エントランスに設えた「水のテラス」が夕焼けに染まる時間はまさにマジックアワー COURTESY OF HOTEL OOSADO

エントランスに設えた「水のテラス」が夕焼けに染まる時間はまさにマジックアワー
COURTESY OF HOTEL OOSADO

 佐渡島の西南に位置する春日崎。夕陽の名勝地としても名高い春日崎は、江戸初期から能楽の文化が根付いた「佐渡における能の発祥の地」としても知られる。このアカデミックな歴史を秘めた海沿いで、断崖を見下ろし風格を放つのがご紹介の「HOTEL OOSADO」だ。2023年春、大幅なリニューアルが施され、約60年の歴史を持つ由緒あるホテルに新たな魅力が加わった。特筆すべき一つが、車寄せから最初の自動ドアが開いた先に現れる広大な「水のテラス」だ。水鏡に映る建物と空、その先へと続く日本海がすべて一体となる光景は、現世と異次元が交錯する能の世界のようにも感じられる。そんな幻想的な景色をエントランスから通り過ぎるだけでなく、心ゆくまで堪能できるようにと、エクステリアには足湯を新設。リクライニングチェアに身を委ねると、目線の高さにまで水辺の空間が迫る。能舞台をイメージした「サンセットラウンジ」でドリンクをオーダーし、足湯に浸りながら刻々と表情を変える情景を海風とともに五感で受けとめると、旅の疲れが静かにほどけ心地よい浮遊感に包まれる。

画像: 建物を映し出す「水のテラス」。時間帯や天気によって様々な表情を魅せてくれる COURTESY OF HOTEL OOSADO

建物を映し出す「水のテラス」。時間帯や天気によって様々な表情を魅せてくれる
COURTESY OF HOTEL OOSADO

画像: 宿泊棟の最上階には、ゆったりとした2室のプレミアムスイートルームを新設

宿泊棟の最上階には、ゆったりとした2室のプレミアムスイートルームを新設

画像: プレミアムスイートには、専用の露天風呂も

プレミアムスイートには、専用の露天風呂も

 リニューアルのもう一つのトピックは、最上階に新設されたプレミアムスイートである。海に面して横長にデザインされた開放感のあるリビング、壁際に設えたモダンなベッドルーム、そして専用露天風呂を備えた広いテラス。その何処からも日本海の気配を感じられるように設計。お待ちかねの食事においても、夕食、朝食ともにプレミアムスイートに宿泊すると、特別に構築されたメニューをいただける。夕食は懐石仕立ての和食コースだ。彩り豊かな八寸からはじまり、佐渡で水揚げされた紅ズワイ蟹から鮑の肝ソース鍋、ノドグロのソテーから新潟のブランド牛である村上牛のローストビーフまで、地産地消の創作料理がテーブルを飾る。

 朝食は和洋をチョイスでき、洋食では佐渡産のきのこや玉ねぎをゴロリと包んだオムレツをメインに。シャンパングラスで出されるフレッシュ野菜のスムージーや潮の香りに満ちたワカメスープを飲むと、胃袋がゆっくりと目覚める。一方、和朝食では地元の真鱈が滋味豊かな出汁となった湯豆腐が味わえる。佐渡産こしひかりでフィナーレを迎えると、1日のエネルギーが漲るようだ。佐渡名産の柿のデザートに頬を緩めながら、取材で訪れた日には望めなかった夕陽を妄想し、再びこのホテルで極上の時間を過ごしたいと願った。

画像: 頭と尾を2時間かけて低温で二度揚げしたノドグロのソテー。地元の銘酒「至」とのマリアージュも絶妙

頭と尾を2時間かけて低温で二度揚げしたノドグロのソテー。地元の銘酒「至」とのマリアージュも絶妙

画像: 土鍋で炊き上げられたご飯は、噛むほどに米の甘さが口に広がり食が進む

土鍋で炊き上げられたご飯は、噛むほどに米の甘さが口に広がり食が進む

画像: 天候に恵まれたら、水のテラスからはドラマティックな茜色に染まる夕陽が眺められる COURTESY OF HOTEL OOSADO

天候に恵まれたら、水のテラスからはドラマティックな茜色に染まる夕陽が眺められる
COURTESY OF HOTEL OOSADO

住所:新潟県佐渡市相川鹿伏288-2
電話:0259-74-3300
公式サイトはこちら

《STAY》「Guest Villa On the 美一(ビイチ)」
海沿いのモダンヴィラで格別な“眠り”に浸る

画像: 真野湾を一望する共有スペースのリビングダイニング COURTESY OF GUEST VILLA ON THE BI-ICHI

真野湾を一望する共有スペースのリビングダイニング
COURTESY OF GUEST VILLA ON THE BI-ICHI

 大佐渡と小佐渡の繋ぎ目、大地がダイナミックに入り組んだ真野湾に沿って車を走らせる。牧歌的な海辺の景色が連なるなか、突如として現れるキューブ型のソリッドな建物が「Guest Villa On the 美一」である。ここは、1階にフレンチレストランとファンクションルームを据え、2階をゲストハウスに、離れをリトリートルームとして展開する。家主は横浜やハワイでホテル業界に身を置き、洗練されたおもてなしの最前線を経験した山内三信さん。

 佐渡へ移住したのは23年前のこと。妻の実家が営む海産物の会社へ転身、4代目を継承する修行を積む傍ら、自らの生きがいとして2015年にヴィラを開業。父「美一(よしかず)」さんの名前を「beach」の響きに重ね、真野湾随一の美しい止まり木を築いた。ホテルや民宿が主流の離島において、あえてゲストハウスというスタイルを選択したのには、「島外の方だけでなく、佐渡に住まう人たちに非日常を感じてもらえる空間を作りたかった」という想いもあった。オープンからほどなく、佐渡では異質なモダン空間の存在が知れ渡ると、今では別荘感覚で滞在する地元の人も多いという。

画像: 早朝の浜辺を散策するとこの開放感を目の当たりにする

早朝の浜辺を散策するとこの開放感を目の当たりにする

画像: 海に面した南側と山から日の出を迎える東側は、天井までガラス張りという贅沢な設計。降り注ぐ彩光がリビングを心地よく満たして

海に面した南側と山から日の出を迎える東側は、天井までガラス張りという贅沢な設計。降り注ぐ彩光がリビングを心地よく満たして

 遠く海外からもリピーターが絶えない訳を、2階のゲストハウスゾーンに上がってすぐに納得した。階段を上り切った視線の先には、北国らしい凜とした空気を纏った海岸線が広がり、思わず窓辺に歩み寄ってしまうほど清々しい。L字型にソファを配した共有スペースは、4人がけのテーブルセットを伴ったアイランドキッチンと一続きに隣り合い、天井の高さが一層の開放感をもたらす。ベッドルームは、ツインルームが2室、ダブルルームが3室。外出先から戻った旅人が最も大切にするのが“眠りにつく”ひとときだと考え、ヴィラを設計する段階から、眠ることに最も重きを置いた。

 その最たる象徴は、ヘッドボードを天井までつなげ“巣篭もり”のような安心感を演出したベッドまわりのデザインだ。全てのベッドはウッドスプリングを特徴とするオーストリアの「リラックス社」製を導入。寝返りを打ちやすい左右アシンメトリーな枕から、オーガニックコットンのナイトウェアまで、微に入り細に入り快眠環境が整えられている。また、2023年3月にはヨモギ蒸しによるセルフスタイルのボタニカルサウナもスタート、眠りにつく前に1日の疲れをデトックスすることも叶う。実際に宿泊し、翌朝の目覚めが爽快だったことは言うまでもない。日の出とともに海辺の遊歩道をそぞろ歩き、寄せては返す波を見つめていると、人生とは絶えざる日常と非日常の闘いの一コマなのかもしれないと、心の奥底の声が聞こえてきた。

画像: 左右非対称の枕は、金沢のブランドのもの。肌を優しく包むナイトウエアも穏やかな眠りを誘う

左右非対称の枕は、金沢のブランドのもの。肌を優しく包むナイトウエアも穏やかな眠りを誘う

画像: 天然ゴムを用いたウッドスプリングが3Dに動き、睡眠の快適性を高めている

天然ゴムを用いたウッドスプリングが3Dに動き、睡眠の快適性を高めている

画像: ヘッドボードを天井までのばしたようなデザインは、木に包まれているような安心感がある COURTESY OF GUEST VILLA ON THE BI-ICHI

ヘッドボードを天井までのばしたようなデザインは、木に包まれているような安心感がある
COURTESY OF GUEST VILLA ON THE BI-ICHI

住所:新潟県佐渡市河原田諏訪町207-76
電話:0259-58-7077
公式サイトはこちら

画像: 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

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