BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA
旅の醍醐味は、明るいうちから“ちょい飲み”が叶うこと。昼ビールから、サウナで汗を流したあとの一杯、トワイライトタイムに訪れたいスペインバルまで、佐渡のほろ酔いを楽しみたい。
《DRINK & BUY》「t0ki brewery (トキブルワリー)」
一期一会のクラフトビール
両津港のほど近く、佐渡初のマイクロブロワリー(小規模ビール醸造所)を訪れた。元ITエンジニアだったというオーナーの藤原敬弘さんは、「海外のビアパブで、仕事終わりに個性豊かなビールを気軽に楽しむ」という自身の体験からクラフトビールに開眼。一念発起してアメリカンスタイルのビール作りに挑んだ。ビールの原料となるモルトはドイツから、香りの決め手となるホップはアメリカ輸入。15ℓの小型タンクで試作を繰り返しながら理想の味を追い求め、2022年4月に「t0ki brewery」のオープンを迎えた。
店名の「t0ki」は、大切な仲間と「時」を過ごす場所であって欲しいという願いと、佐渡が国内で唯一「朱鷺(トキ)」が生息する土地であることを重ねている。ビールは常時7~8種類の用意があるが、あえて定番をつくらない。「季節や気候によって微妙に味わいが変化することがクラフトビールの魅力ですから」と藤原さん。現地に訪れた「時」にしかない味わいを求めるなら、タップルームで至福の一杯を。モルトの5%を焙煎することでエスプレッソのような風味とドライな喉越しが楽しめる「Black IPA」や、佐渡の日本酒蔵の米麹を混ぜフルーティな味わいが際立つ「Hazy IPA」、トロピカルな風味が昼のみに最適な「West Coast IPA」など。佐渡のテロワールをビールで表現した気鋭のクラフトビールは、テイクアウト用ボトルで持ち帰ることもできる。巡る先々で手に入れた珍味とともに、佐渡時間の余韻を味わいたい。
住所:新潟県佐渡市加茂歌代458
電話:090-1305-7148
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《DRINK & STAY》「HOSTEL perch (パーチ)」
蔵サウナで心身を整え、格別の一杯を
大正時代から続く旅館をリノベーションし、2018年にゲストハウスとして誕生した「HOSTEL Perch」。初夏から初秋にかけて観光のピークを迎える佐渡島において、“冬”に吸引力となるスポットを作りたいと考え抜いた末、辿り着いたのが敷地に隣接した明治期の蔵を利用したサウナだった。昔ながらの旅館の引き戸を開けると、パチパチと薪が燃えるストーブの温かさに迎えられ、ラウンジを兼ねたノスタルジックなバー空間が広がる。2階にコワーキングスペースを備えていることもあり、ここは様々な人と情報が交差するスポットでもあるという。サウナで一汗かく前に、まずは喉を潤したいとオーダーしたのは、生姜やシナモン、八角を佐渡名産の黒イチジクとともに漬け込んだ自家製シロップのソーダ割り。スパイシーなアクセントとイチジクの優しい風味が溶け合い、旅の疲れを優しく包み込むようだ。
一息ついたところで向かったのは、母屋に隣接した蔵サウナである。明治期の木造建築はまるで蔵そのものが呼吸しているかのよう。断熱性に優れた土壁はサウナにうってつけだとか。扉を開けると1階の中央奥に煉瓦でフレーミングされた薪ストーブ、その天面にはサウナストーンが置かれ、本格的なフィンランド式のサウナが鎮座する。薪のサウナは火力があり、110℃まで室温を高められ、ロウリュで室内に水蒸気を満たせば一層の発汗作用が促される。蔵の外には漁港で使われているダンベと呼ばれるプラスチック桶を利用した水風呂や、デッキチェア、さらに特製の蓬茶まで用意。自分のペースでゆっくりと「整う」うちに、冬の佐渡巡りで冷えた体が芯から温まる。
たっぷりと汗を搾り出したあとには、待ちかねた一献を傾けたい。リカーラックを眺めると、モダンなデザインのホワイトリカーが目に止まる。聞けば新潟県上越市で約50年に及び薬草を使った酵素ドリンクを開発してきた越後薬草が手がけるジン「THE HERBALIST YASO GIN」だという。蓬やドクダミ、スギナや海藻、果物など80種類の原材料を発酵、熟成させたものを、蒸留器を用いて清涼飲料水を作る過程で、副産物として生まれるアルコールにジュニパーを加えたものである。異次元のサウナでデトックスした体にジンの複雑な味わいと澄んだ香りがゆっくりと駆け巡る。日本には、まだ知らなかったことが沢山ある……心の扉を開き思い切ってローカルへ向かえば、こんなにも地味豊かな美酒に出会えるのだ。
住所:新潟県佐渡市河原田諏訪町4番地
問い合わせ:info@s-perch.com
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《EAT》「MANOCAMINO(マノカミーノ)」
“佐渡巡礼”で立ち寄りたいスペインバル
“私は食いしん坊ではない。食べ物の冒険家だ──”とは、20世紀半ばにアメリカの家庭生活をユーモラスなタッチで綴り絶大な人気を博した作家、アーマ・ボンベックの名言。彼女の言葉を自らの言い訳に、旅先で膨らむ“食の冒険心”に身を委ねて訪れた先は「MANOCAMINO」である。夜が長く感じられる旅時間で、ホテルに帰る前に“ちょっと一杯”を求めて扉を開いた。店名とともにガラス戸に描かれたホタテは、スペインの聖地サンティアゴ巡礼の象徴。オーナーの瀬下要さんは、その魅力にはまりバックパッカーで3度巡礼を果たしたほど。旅先で出会ったタパスの味を表現したいと考え、2021年に同店をオープン。
早速、オーダーしたのはガリシアで味わうスペインバルの代名詞ともいえる「プルポ・ア・フェイラ」。柔らかくボイルした佐渡産のタコにジャガイモを添え、ミネラルをたっぷり含んだ佐渡の「おけさ花塩」とオリーブオイル、パプリカパウダーでシンプルに食すものである。「ただ、これを味わっていただきたくて店をはじめたようなものです」という瀬下さんの語りを聞いて、フォークを置き、スペイン風にピンチョスでいただく。ワインを注いだ茶碗のような器は、ガリシア地方伝統のクンカという酒器。それを佐渡の無名異(むみょうい)焼の工房にオーダーし、オリジナルに誂えたものだという。島外に持ち出すことができないという鉄分を多く含んだ佐渡の赤土は、水を滑らかにする作用もあるという。そんな説明を受けると心なしかワインが円やかに感じられ、近隣の漁港で水揚げされた新鮮なイナダの酢漬けに手を伸ばしては、またワインで流し込む。
お酒が少々進むと不思議と小腹がすいてくる。撮影を言い訳にランチメニューから巡礼食の定番といえる「ボカティージョ」を注文。今宵は、チョリソーとスペイン産のチーズ、玉ねぎとトマトをたっぷりとサンドしたものをセレクト。 “ちょい飲み”のつもりが、スペインの鮮烈な陽光を感じさせる地産地消のタパスにすっかり魅了されてしまった。冬の佐渡で、北国の身の引き締まった魚介を赤ワインで流し込むのも快味であった。お腹が満たされると、彼の地の巡礼者のマインドがじんわり押し寄せ、今日1日、無事に“佐渡巡礼”を終えたことへの感謝に包まれる。
住所:新潟県佐渡市真野新町487
電話:080-5722-7042
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