BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

「SABOTEN MISSILE(サボテン ミサイル)」の長閑な陽だまりをで寛ぐのは、「サバコ」の愛称で親しまれている野良猫
《BUY》「SABOTEN MISSILE(サボテン ミサイル)」
開放的なガレージで出合うアートな多肉植物

店名にもなっているサボテンは、多種多様な顔ぶれが揃う
一宮川と並行するように街道沿いを車で走ると、カーナビが目的地到着の旨を告げる。ところが、イメージしていた緑溢れる植物店が見当たらない。目の前にあるのは、柵の内側で気まぐれに空を仰ぐサボテンと無機質なガレージだけ。確信が持てないまま駐車場から建物へ近づくと、その印象は一変する。
ここ「SABOTEN MISSILE(サボテン ミサイル)」は、多肉植物とサボテンの専門店だ。入り口には背の高いサボテンが居並び、手前の温室のようなエリアには、バリエーション豊富な多肉植物が互いの個性を引き立てるように棚にひしめく。ガレージ内はロフトを設えた開放的な空間で、個性豊かな植物が自由なオーラを放っている。

鉄工所倉庫をリノベーションして、オフィスとショップをビルトイン

植物はもちろん、鉢カバーのセンスも光る
サボテンをはじめどの植物もハンサム揃い。その理由を尋ねると、「アート感覚で選んでいただけるように、躍動的なフォルムや樹形を見極め、全てを僕たちの目を通してバイイングしています」とオーナーの杉木康人氏。聞けば、植物の卸問屋まで足を運ぶことはもちろん、生産者の元へも直接出向き独自のルートを開拓。 “観葉植物は、どの店で買ってもさして変わりない”と思っていた先入観が覆ると同時に、個々の“パーソナリティ”に魅せられていった。

スリット状の組み天井からは多彩な植物が下げられて。テイストもサイズも様々なオブジェのような鉢カバーにも目移りする
絵画作品がフレームによってガラリと表情を変えるように、植物も身を置く器によってナチュラルにもモダンにもなりうる。プリミティブな陶器から高台や脚つきのフォルム、オブジェのようなデザインまで、「SABOTEN MISSILE」では多彩な植木鉢や鉢カバーを扱う。ディスプレイされているコーディネートは一例で、別のカバーを選んで購入することも、植え替えをお願いすることも可能。また、インテリア空間と植物のコーディネートを見据え、日本の古道具やヨーロッパやアメリカの70〜80’sのものを中心としたビンテージの家具まで扱っている。
取材をしながら、心の端で自宅のインテリアを思い浮かべ、この日は小さなサボテンを連れ帰ることに。焼き物の植木鉢から、黒いスチール製のものへ植え替えてもらい、今は我が家の窓辺に佇んでいる。この細やかな存在は、外房の旅の途上を思い起こす“栞”のような存在として暮らしに溶け込みながら、時折、穏やかな海風の記憶を手繰り寄せてくれる。

ストアマネージャーの金原さん。育て方のコツなども細やかに教えてもらえる
住所:千葉県長生郡一宮町一宮358-2
電話:0475-36-2339
公式サイトはこちら
《BUY》「Sghrスガハラ ファクトリーショップ」
ガラスがもたらす暮らしの変化球

リサイクルガラスから作られた一期一会のガラス器。その影さえも美しい
マテリアルの儚さに、厚みのある時間を紡ぐ「Sghrスガハラ」のガラス器。長年、日々愛用してきて感じるのは、一見シンプルでありながら “心地よい違和感”が潜んでいることだ。そんなモノ作りの現場を見てみたいと、ずっと心に留め置いていたのが、ここ九十九里にある「Sghrスガハラ ファクトリー ショップ」である。

この地に工房を構えたのは1968年。飾り気のない建造物が、真っ直ぐなモノ作りの心意気を語るよう。手前はファクトリーショップ

宇宙船のような溶解窯。工房の様子はオンライン工房見学にて、リアルな躍動感を垣間見ることができる
熱気を帯びた工房では、10代から70代まで約30名の職人が巨大な溶解窯を囲む。坩堝から適量のガラスのタネを竿に巻きつけ、温度が下がらないよう素早く自分の持ち場に戻り、型吹きで手早く整形したのち、竿から造形物を切り離す。この一連の工程が、流れるような所作で黙々と進行していく。互いの動きが重ならないよう、阿吽の呼吸によってリズミカルに動く職人の光景は、まるで前衛的なモダンダンスの群舞を眺めるようだ。

無駄のない動きに魅せられた最年長の職人、塚本衛さん

多彩な顔ぶれが揃うファクトリーショップ
創業から90余年を迎える「Sghrスガハラ」には、圧倒的な数が揃う。ファクトリーでは、旗艦店には置かれていないものもあり、その数なんと4000種類。職人をはじめ誰でも企画を発表できる機会を月に一度のペースで設けており、毎年80〜100点に及ぶ新作が誕生する。
作り手の感性を何よりも大切にした商品企画は、たとえばこんな風。人気のコレクション「UR(ウル)」は、「冬のある朝、バケツにはった氷から発想した」という職人の暮らしの体験に基づく。飲み物を注ぐと光の屈折で表情が一変する「幻GEN」は、制作過程の失敗からアイディアが生まれた。さらに、芽吹きから想起した「Haruna」のコレクション名は職人の孫の名前だと聞くと、春を迎える木々の喜びに孫を愛でる高揚感が重なる。商品の美しさもさることながら、背景のエピソードにリアリティのある温もりが宿る。また、商品化されていない職人の自由演技による作品や、工房で出る端材を再利用したリサイクルガラスの器と出合えるのも、ファクトリー直営ならではの一期一会。

カフェではすべてのメニューが自社製品で提供される
ストーリーのあるガラスの世界を堪能したあとは、ファクトリー直営の「Sghr cafe」へ。朝からスタートした取材も昼時分を迎え、ケークサレをオーダーした。料理を待つ間、店内を見回すと照明からドアノブに至るまで自社のガラス製品が散りばめられている。待ちかねたケークサレは、窪みのあるガラスのドームケースの内に恭しく鎮座。その窪みはミネストローネで満たされていた。優しい味わいとともに、新鮮な器の提案に気持ちまで満腹となったのは言うまでもない。

バターを使わずヘルシーに仕上げたケークサレ。器のコーディネートも目を潤す
住所:千葉県山武郡九十九里町藤下797
電話:0475-67-1021
公式サイトはこちら

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。
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