プレスツアーに誘われ、初めて訪れた香川県。国立公園の高台に佇む「時の納屋」を軸に、この地の“トレジャー”を探そうと過ごした1泊2日。クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子の目に映ったものとは——

BY TAKAKO KABASAWA

画像: 瀬戸内海の島々が茜色に染まるマジックアワー。駐車場から続くメインのアプローチは“時の小径”と呼ばれている COURTESY OF TOKI NO NAYA

瀬戸内海の島々が茜色に染まるマジックアワー。駐車場から続くメインのアプローチは“時の小径”と呼ばれている

COURTESY OF TOKI NO NAYA

《SEE&CAFE》「時の納屋」
壮大なランドスケープに溶け合う美しき小屋

画像: ベーハー屋根が特徴の木造平屋建築 COURTESY OF TOKI NO NAYA

ベーハー屋根が特徴の木造平屋建築

COURTESY OF TOKI NO NAYA

“瀬戸内リトリート体験”と題し、編集部へプレスツアーへのお誘いが届いた。メインの会場となるのは香川県さぬき市の北端に位置する国立公園・大串自然公園の高台に立つ「時の納屋」。大串半島の活性化の中核をなす施設として、2024年6月にオープンを迎えた木造平屋建ての建物である。設計を手がけたのは、景観と自然との共生や原風景の継承をテーマにした建築を真髄とする堀部安嗣。同施設にも、建物を介して瀬戸内の自然を豊かに切り取る仕掛けが随所にほどこされている。

 最初の見どころは、駐車場から建物へと向かうメインアプローチにある。“時の小径”と名づけられた道は緩やかな登り坂になっており、下からは青空と独創的な二重構造のベーハー屋根が見えるのみ。この時点で、海の気配はまったく感じられない。だんだんと歩みを進めていくと建物の全貌が姿を現し、舞台背景が一瞬にして転換。視線の隅から隅まで、穏やかな瀬戸内海が広がっていた。海を臨む施設と聞いてはいたものの、一度視界を遮られることで、鮮やかな青が目に映ったときの喜びに一層胸が高鳴った。はっとする心の動きをもたらす、心憎いランドスケープデザインに建物に入る前から魅了されてしまった。

画像: 国際的な視点で魅力を評価する「クールジャパンアワード2025」のインバウンド部門で、県内で初めて受賞対象に認定された PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

国際的な視点で魅力を評価する「クールジャパンアワード2025」のインバウンド部門で、県内で初めて受賞対象に認定された

PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

画像: 小豆島や淡路島を望む絶景に、過ぎゆく時間を忘れるほど PHOTOGRAPH BY TAKAKO KABASAWA

小豆島や淡路島を望む絶景に、過ぎゆく時間を忘れるほど

PHOTOGRAPH BY TAKAKO KABASAWA

 建物内に足を踏み入れてさらに感動するのは、海に面した窓の設計だ。引き戸を戸袋に収納することで、木の窓枠と低く迫り出した屋根に切り取られ、穏やかな瀬戸内海の情景が、一幅の屏風絵を眺めているかのように映し出される。窓際に佇むと、海を行き交う船や空を舞う鳥の声、吹き抜ける海風に包まれ、“今”この瞬間が優しく深まっていくように感じられた。

 太古の人々も眺めた豊かな自然を語り、目の前に広がる“今”を感じて、この美しい景色が次世代の人々の原風景にもなることへ思いを馳せる。建築家・堀部の「ここを訪れた人たちの、心の中の過去・現在・未来をしまっておけるような場所にしたい」という願いから、「時の納屋」と名づけられたという。

画像: 向かいの山々へ太陽が沈む頃、「さぬき市野外音楽広場(テアトロン)」へ向かう COURTESY OF THEATRON

向かいの山々へ太陽が沈む頃、「さぬき市野外音楽広場(テアトロン)」へ向かう

COURTESY OF THEATRON

画像: サヌカイト奏者の小松玲子による幻想的な響きの中に身を委ねた PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

サヌカイト奏者の小松玲子による幻想的な響きの中に身を委ねた

PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

 この日のもうひとつのお楽しみは「時の納屋」からほど近い、「さぬき市野外音楽広場テアトロン(以下、テアトロン)」での演奏会。テアトロンは香川特有の庵治石(あじいし)で築かれた、日本が誇る石の音楽堂として知られる。山肌に沿った半円形の観客席が取り囲むギリシャ劇場のような様式で、ステージの後方には瀬戸内海を望むことができる。演奏は、約1400万年前の火山活動がもたらした「サヌカイト」と呼ばれる緻密な安山岩(あんざんがん)からなる打楽器が主役。サヌカイト奏者の小松玲子が奏でる、冴えた音色が庵治石と共鳴し、神秘的な世界観を創出した。

 演奏後、ふたたび「時の納屋」へと戻ると、窓と並行してくし型にテーブルセッティングが施され、木の温もりに包まれたパーティ会場へと一変。料理の腕をふるうのは、フランス・ジュラ地方の星付きレストランで修行した経験をもち、ヒルトングループのニセコにて総料理長を務めたシェフ。香川に魅せられIターンで出張料理人としてリスタートをきった鉄 邦男だ。多彩なフランス料理へと昇華された香川の山海の幸は、夜が更けゆくのも忘れさせるほど、一皿一皿に創意と遊び心が詰まっていた。満点の星に見送られ帰路につく道すがら、「時の納屋」という場が、この地を訪れた人々の心を照らす“宿木”のような存在になることを願わずにはいられなかった。

画像: 前菜は讃岐オリーブハマチやスモークサーモンのカルパッチョを、瑞々しい季節野菜が彩りを添えて PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

前菜は讃岐オリーブハマチやスモークサーモンのカルパッチョを、瑞々しい季節野菜が彩りを添えて

PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

画像: 周囲に建物がないため、ライトアップされた店内が漆黒の世界から浮かび上がるように輝きを放つ。今後はウエディングやプライベートパーティの場としても活用されるという PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

周囲に建物がないため、ライトアップされた店内が漆黒の世界から浮かび上がるように輝きを放つ。今後はウエディングやプライベートパーティの場としても活用されるという

PHOTOGRAPH BY MAKOTO NAKAGAWA

時の納屋
住所:香川県さぬき市小田2671番地75

テアトロン
住所:香川県さぬき市鴨庄1-20

ともに問い合せ先
THE LUXE PARTIES
公式ホームページ

画像: 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

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