現代アーティスト、レアンドロ・エルリッヒの作品はフォトジェニックだ。ビジュアルがコミュニケーションの重要な役割を果たす時代に、彼の視覚体験型の作品が伝えることとは

BY MASANOBU MATSUMOTO

 写真や動画など、ソーシャルメディアにおけるビジュアルコンテンツの比重が高まっている昨今、視覚的なインパクトや新鮮さをもつアート作品は、抜群の「インスタ映え」するコミュニケーションアイテムとしても重宝されている。実際、Instagramにポストされている写真やストーリーには、アート作品単体や参加型のインスタレーションでのセルフィーが目立ち、一方で、スペース内で撮影可能な展覧会も増えている。

 特にいま、「インスタ映え」する展覧会として話題をさらっているのが、森美術館で始まっている『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』だ。レアンドロ・エルリッヒは、アルゼンチン・ブエノスアイレス出身の現代アーティスト。金沢21世紀美術館に恒久展示されている《スイミング・プール》のように、参加型で遊戯性が高く、何よりフォトジェニックな作品を制作してきた。本展では6点の大型のインスタレーションを含む44作品を展示。すべての作品は写真、動画の撮影ができる。

画像: 《スイミング・プール》 2004年 所蔵:金沢21世紀美術館 PHOTOGRAPH BY KIOKU KEIZO COURTESY OF 21ST CENTURY MUSEUM OF CONTEMPORARY ART

《スイミング・プール》 2004年
所蔵:金沢21世紀美術館
PHOTOGRAPH BY KIOKU KEIZO
COURTESY OF 21ST CENTURY MUSEUM OF CONTEMPORARY ART
 

 レアンドロの作品の狙いは、鑑賞者に「見るという行為がいかに曖昧で、惰性的で、既成概念に縛られているのか」を再認識させることにあるという。それをよく象徴するのが、本会場のいちばんはじめに展示されるインスターレーション作品《反射する港》だ。船が浮んだ港の風景を再現した作品だが、そこには目に見える水などない。水面に反射しているように見える部分は、揺れをコンピューターで計算し立体化したもの。作品は、「水面に映るイメージは歪んで見える」という思い込みが生み出したイメージと現実のズレを浮き彫りにする。鑑賞者参加型の作品《試着室》もユニークだ。試着室がいくつも連結されており、各部屋には姿見が置かれていたり、姿見があると思いきやそれが隣に繋がる通路になっていたりする。ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』で、主人公が足を踏み入れた鏡の迷宮を思わせる体験だ。

画像: 《反射する港》2014年 PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

《反射する港》2014年
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO
 

画像: 《試着室》 2008年 展示風景:イグアテミ・ショッピングモール、サンパウロ、2016年 PHOTOGRAPH BY LUCIANA PREZIA COURTESY OF IGUATEMI SHOPPING MALL, KUCIANA BRITO GALERIA

《試着室》 2008年
展示風景:イグアテミ・ショッピングモール、サンパウロ、2016年
PHOTOGRAPH BY LUCIANA PREZIA
COURTESY OF IGUATEMI SHOPPING MALL, KUCIANA BRITO GALERIA
 

 彼の作品が面白いのは、VR(仮想空間)やAR(拡張空間)、インタラクティブな装置などテクノロジーを駆使したものではなく、ガラスや鏡、テレビモニタなど現代生活の身近にある素材を使い、日常感をキープしたトリックを施していること。そして、その仕掛けが、誰にもわかるほど単純でわかりやすいことだろう。本展の目玉である《建物》は、鑑賞者が映画やテレビ番組で使われるような巨大なセットに入り、建物から落下しそうな自分自身のジェスチャーを鏡を見ながら楽しむというものだが、この作品にいたってはトリックが丸見え。“ネタバレ”していても十分に楽しめる視覚体験としての強度があり、だからこそ、そこで参加者が得られる気づきもある。

画像: 《建物》 2004年 展示風景:ニュイ・ブランシュ、パリ、2004年 COURTESY OF ARTIST

《建物》 2004年
展示風景:ニュイ・ブランシュ、パリ、2004年
COURTESY OF ARTIST
 

 ソーシャルメディアでのコミュニケーションが活発になり、誰もが主人公として世界を見ている現代性を、レアンドロは意識している。その上で作品のトリックをあえて開示し、最終的には、作品体験だけではなく、普段リアルな日常や現代社会さえ本当は構造化されているのかもしれないということを鑑賞者に考えさせる。
 物事の本当の仕組みとは? 仕組み化されたものを曇りのない目で見るためにすべきことは? ――そういったネタバレの先で起こる、参加者のイマジネーションのかたちにこそ、レアンドロが作品に託すビジョンがある。

 

レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル
会場:森美術館
住所: 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
会期:〜2018年4月1日(月)
開館時間:10:00~22:00(火曜は~17:00)
休館日:無休
入場料:一般 ¥1,800、シニア(65歳以上)¥1,500、大学・高校生 ¥1,200、
    中学生〜4歳 ¥600、以下無料
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

 

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