BY AKIKO TOMITA
ひと目見たときから心にとどまり続け、幾度も反芻(はんすう)してしまう写真がある。パリを拠点に活躍するジェーン・エヴリン・アトウッドはそんな忘れ難い作品を撮る稀有な写真家の一人だが、彼女の原点も強烈な写真体験にあるという。それは、ニューヨークに生まれた彼女が1970年代はじめに、「よく知らないままニューヨーク近代美術館で開催されていたダイアン・アーバス展を見たこと」だ。ドキュメンタリー写真の奇才・アーバスはアウトサイダーたちを被写体にしたことで知られるが、「写真の中の人々が頭から離れなくなった」というアトウッドは、パリに移住してから写真を撮り始めた。
以来、「閉ざされ、抑えつけられた世界」に関心を寄せ、トランスジェンダーや盲学校の子どもたち等々を写真に捉えてきた彼女は、数々の賞を受賞するだけでなく、社会的議論の発端にもなってきた。たとえば、手錠をかけられたまま出産に臨む女囚の衝撃的な写真は、刑務所の環境改善にもつながったという。
そんなアトウッドの、被写体の真の姿を理解しようとする姿勢は、処女作の娼婦シリーズで確立されたようだ。「写真を始めたのは彼女たちのおかげ」と断言する彼女は、「娼婦たちはとても素晴らしく─人情があり、冗談を言いあって笑っていて──その派手な装いはまるで、かつて映画スターだったかのように見えました。私は彼女たちのことを知りたくなりました。写真に撮ることが、その手段になったのです」と語る。また、写真のすべてを「売春宿で、作品制作を通して学んだ」と、毎晩通い詰めた一年を振り返り、「自分はよそ者であり、彼女たちの人生をのぞかせてもらっている人間」であること、そして「私が常にそこにいることに意味」があることや「撮影すべきでない時」があることを学んだという。以後も彼女は一つのプロジェクトに対し、数年単位の歳月をかけてきた。長い時をともにした魂の交流があったからこそ、特異な境遇にありながら自らの人生をまっとうする人々の姿を写すことができたのだろう。
50年におよぶキャリア全般から作品が厳選されるという国内初個展で、彼女自ら展覧会名を『Soul(魂)』としたのは示唆的だ。作品が魂の交流の証しであるとするならば、この個展はその交流の軌跡によって紡がれていると言えるからだ。
『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』
会期:~5月8日(日)
会場:シャネル・ネクサス・ホール
住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
時間:11:00~19:00(最終入場は18:30まで)
入場料:無料
休館日:会期中無休
電話:03(6386)3071
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