ダミアン・ハーストの新作から、世界的に注目をあつめる森村泰昌やChim↑Pom from Smappa!Group、またピカソやモディリアーニ、日本画家・鏑木清方の企画展など。連休中に訪れたいアート展をピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

『ダミアン・ハースト 桜』|国立新美術館

画像: スタジオでのダミアン・ハースト PHOTOGRAPH BY PRUDENCE CUMING ASSOCIATES LTD © DAMIEN HIRST AND SCIENCE LTD. ALL RIGHTS RESERVED, DACS 2022

スタジオでのダミアン・ハースト
PHOTOGRAPH BY PRUDENCE CUMING ASSOCIATES LTD © DAMIEN HIRST AND SCIENCE LTD. ALL RIGHTS RESERVED, DACS 2022

 ホルマリン漬けにした牛の輪切り、8601個のダイヤモンドで覆ったスカルの彫刻、死んだ蝶の羽を使ったステンドグラス──。90年代以降、センセーショナルな作品で世界を沸かせてきた美術家ダミアン・ハーストの個展が国立新美術館で始まっている。

 出展作は「桜」シリーズ。2021年、カルティエ現代美術財団の個展で発表した最新作で、本展では107点からなる本シリーズのうちハースト自身が選んだ24点が会場を彩る。晴れやかなスカイブルーに、ピンクや白、なかには青や緑のドットで描かれた鮮やかな桜。カルティエ現代美術財団が公開した動画には、筆を大きく振って絵の具を画面に飛ばしたり、筆を長い棒の先につけて描いたりとアクション・ペインティングのようにキャンバスに対峙する姿も映されており、ポスト印象派や20世紀の抽象絵画といった西洋絵画史の要素を彼が独自に解釈したシリーズとも言える。美、そして生と死をテーマにしてきたハースト。春、美術館に彼が咲かせた桜の様相に人は何を思い浮かべるか。

『ダミアン・ハースト 桜』
会期:~5月23日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00~18:00(金・土曜は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜 ※ただし5月3日は開館
観覧料:一般 ¥1,500、大学生 ¥1,200、高校生¥600、中学生以下無料
電話:050(5541)8600(ハローダイヤル)
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『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』|森美術館

画像: Chim↑Pom《ビルバーガー》2018年 個人蔵(左)、展示風景:「グランドオープン」ANOMALY(東京/2018年) COURTESY OF ANOMALY, TOKYO PHOTOGRAPH BY KENJI MORITA

Chim↑Pom《ビルバーガー》2018年 
個人蔵(左)、展示風景:「グランドオープン」ANOMALY(東京/2018年)
COURTESY OF ANOMALY, TOKYO PHOTOGRAPH BY KENJI MORITA

 広島・原爆ドームの上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いたり、福島の帰還困難区域内でのエキシビションを立案したり。また、文字通り壁が作られたメキシコの国境沿いに、アメリカ側を覗くことができる高さのツリーハウスを作ったり。Chim↑Pom from Smappa!Groupは、グローバリズムや格差、震災、原発、移民といった現代の事象や問題をテーマとして扱いながら、社会に積極的に介入したメッセージ性の強い作品を発表してきた。

 森美術館で開かれている『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』では、彼らの初期から近年までの代表作を中心に、メンバーのひとりであるエリイの出産を機に構想された新作映像インスタレーションなどを見せる。ユニークなのは、本展のためにクラウドファンディングを使って実施された「くらいんぐみゅーじあむ」。これは、会場内にアートプロジェクトとして託児所を開設するというもので、子育て中の人が気軽に美術館を訪れアートを鑑賞するのをサポートすると同時に、“子育てに優しい環境づくり”という現代日本の課題のひとつを観賞者に突きつける。

『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』
会期:〜5月29日(日)
会場:森美術館ほか
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F
開館時間:10:00~22:00(火曜のみ17:00まで。5月3日は22:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
会期中無休
料金:[平日]一般 ¥1,800、シニア(65歳以上)¥1,500、大学・高校生 ¥1,200、中学生〜4歳 ¥600円、以下無料
[土・日・休日]一般 ¥2,000、シニア(65歳以上)¥1,700、大学・高校生 ¥1,300、中学生〜4歳 ¥700円、以下無料
※事前予約制(日時指定券)を導入。オンラインでの料金は異なります。詳細はこちら
電話:050(5541)8600(ハローダイヤル)
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『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』|国立新美術館

画像: クロード・モネ《睡蓮》1916‒19年 油彩/カンヴァス 130.2 × 200.7cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 GIFT OF LOUISE REINHARDT SMITH, 1983 / 1983.532

クロード・モネ《睡蓮》1916‒19年 油彩/カンヴァス 130.2 × 200.7cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館
GIFT OF LOUISE REINHARDT SMITH, 1983 / 1983.532

 アメリカ・ニューヨークにある世界最高峰の美術館のひとつ、メトロポリタン美術館。国立新美術館で開催されている本展は、同館のヨーロッパ絵画部門の所蔵作品から、選りすぐりの65点を紹介する企画展だ。出展作品はラファエロやエル・グレコ、レンブラントやフェルメール、モネ、ゴッホ、セザンヌといった巨匠たちの名画。15世紀の初期ルネサンスから19世紀のポスト印象派まで、西洋絵画史のハイライトとよぶべき500年を凝縮してみせる。

 65点のうち、なんと46点は日本初公開。ポール・セザンヌの《リンゴと洋ナシのある静物》、クロード・モネの《睡蓮》など、よく知られた題材ながらも意外に初公開だという作品も多い。後者の《睡蓮》は、モネが約30年間描き続けた「睡蓮」シリーズのひとつ。これを描き始めた当時、モネは白内障に侵されていたそうで、カンヴァスにはその目に映ったのだろう遠近感のない不思議な光景が広がっている。

『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』
会期:~5月30日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
住所:東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00〜18:00(金・土曜は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜 ※ただし5月3日は開館
料金:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,400、高校生 ¥1,000、中学生以下無料
※事前予約制。詳細はこちらから
電話:050-5541-8600( ハローダイヤル)
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『吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる』|東京都現代美術館

画像: 《大学セミナー・ハウス 本館》1965年 (撮影:1997年) PHOTOGRAPH BY EIJI KITADA

《大学セミナー・ハウス 本館》1965年 (撮影:1997年)
PHOTOGRAPH BY EIJI KITADA

 吉阪隆正は、戦後復興期から1980年に没するまで、日本の建築シーンに新たな風を起こした建築家だ。建築学者、民俗学研究者の今和次郎、近代建築の巨匠ル・コルビュジエに師事。自らのアトリエを持ったのち、日本建築学会賞を受賞した《アテネ・フランセ》、東京都選定歴史的建造物に指定された《大学セミナー・ハウス 本館》など、彫塑的な造形を持ったコンクリート建築の名作を多く残した。

 コスモポリタンな建築家だった。登山家であり冒険家、文明批評家でもあった。近いもの、遠いもの、小さいもの、大きいものーー世界のすみずみに関心を開き、自身の仕事を、個人住宅から公共建築、極地での生活を考えた山岳建築、地域計画にまで発展させていった。「吉阪隆正+U研究室」を組織し、集団で物事を考えることから、建築家の可能性をとらえ直した。本展は、そうした吉阪の素顔、また彼が手がけた約30の建築とプロジェクトを紹介する。「発見のための視点と視野 実現のための手段と工夫 どれがいいのか それをみんなでみつけよう」とは、展覧会の案内に引用されている吉阪の言葉だ。「みつけよう」。本展は、そのような能動的で開かれたビジョンを見る者に体感させる。

『吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる』
会期:~6月19日(日)
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜
料金:一般 ¥1,400、大学生・専門学校生・65歳以上 ¥1,000、高校・中学生 ¥500、小学生以下無料
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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『篠田桃紅展』|東京オペラシティ アートギャラリー

画像: 《熱望》2001年 公益財団法人岐阜現代美術財団 GIFU COLLECTION OF MODERN ARTS FOUNDATION

《熱望》2001年
公益財団法人岐阜現代美術財団
GIFU COLLECTION OF MODERN ARTS FOUNDATION

 昨年3月に107歳で死去した美術家・篠田桃紅。その70年にわたる創作活動の全貌をつまびらかにする回顧展が東京オペラシティ アートギャラリーで開かれる。首都圏での回顧展は本展が初めてのことになる。

 幼少より親しんできた「書」にはじまり、その伝統や「文字」という意味・かたちにとらわれない前衛書、そして抽象的な作品へ。また版画作品、丹下健三ら建築の巨匠たちとコラボレーションし壁書、壁画、陶壁なども展開した。世界的に高い評価を獲得する中で、篠田は感覚を研ぎ澄まして身近な自然や日々のくらしの“森羅万象”に向き合い、それを制作の糧として、晩年まで充実した制作を続けたという。近年、その自立した生き方や人生観に基づいたメッセージがメディアでも紹介され、広く愛されてきた篠田。貴重な作品からは、まだ広く知られていない、篠田桃紅の表現者としての姿をうかがい知ることができる。

『篠田桃紅展』
会期:~6月22日(水)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
開館時間:11:00〜19:00(入場は 18:30 まで)
休館日:月曜 ※ただし5月2日は開館
入館料:一般 ¥1,200、大学・高校生 ¥800、中学生以下無料
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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『没後50年 鏑木清方展』|東京国立近代美術館

画像: (左から)鏑木清方《浜町河岸》1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、絹本彩色・軸、173.5×74.0cm、《築地明石町》1927(昭和2)年、東京国立近代美術館、通期展示、絹本彩色・軸、173.5×74.0cm、《新富町》1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、絹本彩色・軸、173.5×74.0cm ⒸNEMOTO AKIO

(左から)鏑木清方《浜町河岸》1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、絹本彩色・軸、173.5×74.0cm、《築地明石町》1927(昭和2)年、東京国立近代美術館、通期展示、絹本彩色・軸、173.5×74.0cm、《新富町》1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、絹本彩色・軸、173.5×74.0cm
ⒸNEMOTO AKIO

 近代日本を代表する日本画家、鏑木清方。「美人画」の描き手として知られる鏑木だが、実は、晩年に至るまで、庶民の暮らしや文学、芸能のなかに広く作品の主題を求め続けていたという。没後50年を記念した本回顧展は、そうした清方の関心の「変わらなさ」に注目しながら、彼が残した日本画109点を見せる。

 みどころは、彼の代表作として知られ、長きにわたり所在不明だった《築地明石町》。本作を含め3部作として描かれた《新富町》《浜町河岸》とともに展示する。また、当時年中行事になっていた踏絵を題材に、着飾って踏み絵にのぞむ遊女を描いた《ためさるゝ日》にも注目したい。実は、この作品、左幅と右幅からなる左右対幅の絵画として描かれたものだったが、左右あわせて公開されるのは本展で30年ぶりのことである。ちなみに、清方はいつ、何を描いたかを記録した「制作控帳」を残しており、《ためさるゝ日》の左幅を「会心の作」だと記した。いうまでもなく、見るべき画家一押しの作品である。

『没後50年 鏑木清方展』
会期:~5月8日(日)
会場:東京国立近代美術館
※5月27日(金)より京都国立近代美術館に巡回。
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
時間:9:30~17:00(金・土曜は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜 ※ただし5月2日は開館
料金:一般 ¥1,800、大学生 ¥1,200、高校生 ¥700、以下無料
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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『本城直季 (un)real utopia』|東京都写真美術館

画像: 《Tokyo, Japan》 2005年(small planetシリーズより) ©NAOKI HONJO

《Tokyo, Japan》
2005年(small planetシリーズより)
©NAOKI HONJO

 写真家・本城直季の風景写真が見る者にどこか不思議な印象を与えるのは、「アオリ」と呼ばれるテクニックが使われていることが理由のひとつだ。この「アオリ」とは、蛇腹式のカメラのレンズ面とフィルムが置かれる撮像面の間に角度をつくることで、パースペクティブをゆるやかにしたり、ピントを“斜め”にあてたりできるアナログな手法。パースがきつくなる高い建築を自然に写すため建築写真の現場などでよく使われるこのテクニックーーある意味、自然に見えるように“調整”するためのテクニックを、本城は視覚表現のひとつの技法として使いこなし、リアルな俯瞰的風景を虚構的で箱庭のような世界へとつくり変えてきた。

 本展は本城にとって初の大規模な個展。新作・未発表作を含む約200点を展示し、これまでの作家としての仕事をまとめて見せる。よく知られた都市の箱庭的な写真作品から東日本大震災後の被災地や宝塚歌劇団の舞台を撮影したもの、またヘリを飛ばし、アフリカ・ケニアを上空から捉えた「kenya」シリーズなど、本城作品の幅の広さを実感できる内容だ。特に「kenya」シリーズは、自然の中に生きる象やキリンがまるで小さいミニチュアのように写されており、実に愛らしい。空を飛ぶフラミンゴの群れをさらに上空から捉えたカットは、無数の鳥がピンク色のかたまりのようにボケて表現され、空に舞う桜のようにも見えて、絵画のような美しさがある。

『本城直季 (un)real utopia』
会期:~5月15日(日)
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
時間:10:00〜18:00(木・金曜は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜 ※ただし5月2日は開館
料金:一般 ¥1,100、大学・専門学校生 ¥900、高校・中学生・65歳以上 ¥550、小学生以下無料
電話:03(3280)0099
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『上野リチ ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展』|三菱⼀号館美術館

画像: 上野リチ・リックス《プリント服地デザイン:ボンボン(2)》1925-35年頃 京都国立近代美術館 COURTESY OF THE NATIONAL MUSEUM OF MODERN ART, KYOTO

上野リチ・リックス《プリント服地デザイン:ボンボン(2)》1925-35年頃 京都国立近代美術館
COURTESY OF THE NATIONAL MUSEUM OF MODERN ART, KYOTO

 ウィーン生まれの女性デザイナー上野リチ(フェリーツェ・リックス)の作品と人生をつまびらかにする世界初の大規模な回顧展が三菱一号館美術館で始まった。リチはウィーン工芸学校において、クリムトとともにウィーン分離派を牽引したヨーゼフ・ホフマンに師事し、卒業後はホフマンが主宰したウィーン工房でデザイナーに。その後、ホフマンの建築事務所に勤務していた建築家・上野伊三郎と出会い、結婚し、京都へ移住した。

 以降、しばらくの間、日本とウィーンを行き来しながら次々と独自性のあるデザインを発表していったリチ。会場には、和のエッセンスが感じられるテキスタイルデザインや愛らしい小物類が並び、また晩年の代表作である日生劇場のレストラン「アクトレス」の壁画、京都の木屋町にあったカフェ・レストラン「リックス・ガーデン」の装飾ガラスや装飾タイルなども紹介する。「デザインには“ファンタジー”が大切」とは展覧会で紹介されているリチの言葉だ。このファンタジーの語源には「想像力」や「先を見通す」といった意味もあるそうだ。死後50年以上たった今でも、新鮮な魅力を放つリチのデザイン。想像力を発揮して独自性を獲得した彼女の仕事を目の当たりにしたい。

上野リチ ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展
会期:〜5⽉15⽇(⽇)※展示替えあり
会場:三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間:10:00〜18:00 (祝⽇をのぞく⾦曜と会期最終週平⽇、第2⽔曜、4⽉6⽇は21:00まで)
※⼊館は閉館の30分前まで
休館日:月曜 ※ただし5⽉2⽇、5⽉9⽇は開館
料金:一般 ¥1,900、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
電話:050(5541)8600(ハローダイヤル)
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『イスラエル博物館所蔵 ピカソ ーひらめきの原点ー』|パナソニック汐留美術館

画像: パブロ・ピカソ《座る女》 1949年 油彩・カンヴァス 100 x 81cm イスラエル博物館(エルサレム)蔵 GIFT OF ALEX MAGUY, PARIS PHOTO © THE ISRAEL MUSEUM, JERUSALEM BY ELIE POSNER © 2022 SUCCESSION PABLO PICASSO BCF (JAPAN)

パブロ・ピカソ《座る女》
1949年 油彩・カンヴァス 100 x 81cm イスラエル博物館(エルサレム)蔵
GIFT OF ALEX MAGUY, PARIS PHOTO © THE ISRAEL MUSEUM, JERUSALEM BY ELIE POSNER © 2022 SUCCESSION PABLO PICASSO BCF (JAPAN)

 青の時代、バラ色の時代、キュビスム、新古典主義、シュルリアリスム。時代の変化とともにめまぐるしく作風を更新しながら、20世紀の美術界を生きたパブロ・ピカソ。本展はピカソの世界有数のコレクションをもつイスラエル博物館から選りすぐりの作品を集め、その長く、豊饒な創作の軌跡をつまびらかにする。

 中心となるのは版画作品。実は、生涯にわたりピカソが創作意欲を注いだもののひとつが版画であった。若い頃からエッチングやリトグラフの作品を制作し、晩年にはリノカットと呼ばれる版画技法を追究。多彩かつ膨大な数の作品を残した。会場では、 青の時代の傑作銅版画《貧しい食事》を含む「サルタンバンク・シリーズ」、また代表作《ゲルニカ》を予示する銅版画《フランコの夢と嘘I、II》、86歳で取り組んだ版画連作「347シリーズ」などを展示。また絵画と版画の関連、モチーフや主題にもフォーカスし、ピカソのひらめきの原点を探る。

『イスラエル博物館所蔵 ピカソ ―ひらめきの原点―』
会期:~6月19日(日)
会場:パナソニック汐留美術館
住所:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4F
時間:10:00〜18:00(5月6日、6月3日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:水曜 ※ただし5月4日、5月18日(国際博物館の日)は開館
入館料:一般 ¥1,200、65歳以上 ¥1,100、大学生 ¥700、高校生 ¥500、中学生以下無料
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため日時指定予約を推奨。詳細はこちら
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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『浅田政志 だれかのベストアルバム』|水戸芸術館現代美術ギャラリー

画像: 『アルバムのチカラ』(2011-2021)より PHOTOGRAPH BY MASASHI ASADA

『アルバムのチカラ』(2011-2021)より
PHOTOGRAPH BY MASASHI ASADA

 浅田政志は、「家族」や「記念写真」をテーマに制作活動を展開してきた写真家だ。よく知られているのは、2008年に発表した「浅田家」シリーズ。自身の家族を消防士やラーメン屋、戦隊ヒーローなどに変装させて撮影した一風変わった家族写真で、写真集『浅田家』のあとがきには、家族が休みを合わせ、みんなでシーンや服装などを決めながら撮った、写真を通じてなんでもない日を記念日に変える作品でもあったと語っている。その後、他の家族を被写体にした作品、また東日本大震災後には、瓦礫の中から発見された写真やアルバムを洗浄し持ち主に返すという岩手県野田村でのボランティア活動に自ら参加しながら、同様の活動がされている他の地域も取材した「アルバムのチカラ」などを発表。こうした浅田の活動は、2021年に公開された映画『浅田家!』の着想源にもなった。

 水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中の個展『浅田政志 だれかのベストアルバム』は、彼の初期作品から最新作まで、浅田が作品や家族の思い出について綴った言葉を交えながら紹介する。コロナ禍の隔離生活を経験した現代人にとって、浅田の写真、浅田が作品に託した写真の力は特別な意味をもって受け止められるに違いない。また会場内にはアーティストユニットmagmaとコラボレーションした撮影スポットも設置。カメラを片手に家族や大切な人と訪れ、この日を記念にしてみるのもよいだろう。

『浅田政志 だれかのベストアルバム』
会期:~5月8日(日)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
開館時間:10:00〜18:00
※入場は17:30まで
休館日:月曜
料金:一般 ¥900、70歳以上および高校生以下は無料
電話:029(227)8111
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『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』|DIC川村記念美術館

画像: フリーデル・ズーバス《捕らわれたフェニックス》 1982年、オードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵 © 2022 FRIEDEL DZUBAS / ARS, NEW YORK / JASPAR, TOKYO G2749

フリーデル・ズーバス《捕らわれたフェニックス》
1982年、オードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵
© 2022 FRIEDEL DZUBAS / ARS, NEW YORK / JASPAR, TOKYO G2749

「カラーフィールド」とは、1950年代末から60年代にかけて、アメリカを中心に起こった抽象絵画の潮流のひとつ。このムーブメントを牽引した作家たちは、大きなキャンバス一面に色彩を用いて「場=フィールド」を創出させることで、広がりのある豊かな画面を目指した。またその過程で、作家たちは、変形的なシェイプドキャンバス、絵の具をキャンバスに染み込ませるステイニング技法、またスプレーガンの噴霧で色を蒸着させる画法など、新しい手法にチャレンジし、絵画の新しい地平を切り拓いた。

 DIC川村記念美術館ではじまった本展は、世界で最も質の高いカラーフィールド作品を所蔵している「オードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ・コレクション」を中心に、このトレンドに関連した9名の作家の作品約50点を紹介する。ジャック・ブッシュからフランク・ステラまで、床置きの立体作品や横幅5メートルを超える大型絵画なども並び、作家たちが挑んだ「色彩の豊かな広がり」をストレートに堪能できる作品構成だ。また展示にあたり、企画チームは各部屋ごとの明るさを、作品テーマに合わせ微妙にコントロールしたという。本展全体を通してゆらめく色の海を回遊するような鑑賞体験を味わえる。

『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』
会期:~9月4日(日)
会場:DIC川村記念美術館
住所:千葉県佐倉市坂戸631
時間:9:30〜17:00 (入館は16:30まで)
休廊日:月曜(※ただし7月18日は開館)、7月19日(火)
入館料:一般 ¥1,500、大学・専門学校生・65歳以上 ¥1,300、高校・中学・小学生 ¥600
※事前予約制。詳細はこちら
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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『モディリアーニ ー愛と創作に捧げた35年ー』|大阪中之島美術館

画像: アメデオ・モディリアーニ《若い女性の肖像》 1917年頃、テート PHOTO: ©TATE

アメデオ・モディリアーニ《若い女性の肖像》
1917年頃、テート
PHOTO: ©TATE

 アメデオ・モディリアーニはイタリア生まれの画家・彫刻家。21歳でパリにわたり、エコール・ド・パリ(当時パリを拠点に活動した外国人アーティストたちのつながり)の一員としてピカソや藤田嗣治などとともに活躍した。広く知られているのは、アーモンド型のうつろな眼と細長い首をした女性の肖像画だ。

 35歳で夭折したモディリアーニが残した作品はあまり多くない。本展では、そのなかでもフランス、イギリス、ベルギー、デンマーク、スイス、アメリカなどから選りすぐりを集め、さらに国内美術館等が所蔵する油彩画や水彩、素描など約40点が一堂に会する。またあわせて、仲間ともよぶべきエコール・ド・パリの作家たちの作品も紹介し、時代の変化、そして彼らとの交流のなかで醸成されていったモディリアーニ芸術の軌跡に迫る。もちろん彼の代名詞である肖像画も見どころだ。そのひとつ《少女の肖像》は、女優グレタ・ガルボが生涯にわたって愛蔵した作品であり、本展が世界初公開の場となる。

大阪中之島美術館 開館記念特別展『モディリアーニ ―愛と創作に捧げた35年―』
会期:~7月18日(月・祝)
会場:大阪中之島美術館
住所:大阪府大阪市北区中之島4-3-1
時間:10:00〜17:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜 ※ただし5月2日、7月18日は開館
料金:一般 ¥1,800、大学・高校生 ¥1,500、中・小学生 ¥500
電話:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター なにわコール)
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『森村泰昌:ワタシの迷宮劇場』|京都市京セラ美術館

画像: 森村泰昌《ワタシの迷宮劇場 M149》1987年 © YASUMASA MORIMURA

森村泰昌《ワタシの迷宮劇場 M149》1987年
© YASUMASA MORIMURA

 森村泰昌は、名画に登場する人物や女優、偉人などに扮したセルフポートレイト作品で知られる現代美術家だ。「西洋美術史になった私」シリーズではモナ・リザやフリーダ・カーロなどに、「日本美術史になった私」では写楽が描いた奴・江戸兵衛などに、「女優になった私」ではマリリン・モンローやマレーネ・ディートリッヒらにーー。そうした「自画像的作品」を通じて、ときにジェンダーや人種、年齢というものを含んだアイデンティティの多様性を視覚化し、また「私」の個人史と歴史の交錯点を表現してきた。

 京都市京セラ美術館では、森村の35年を超えるキャリアを総括する大規模個展が開催中だ。メインの展示作品は、1985年のデビュー時から撮り溜められてきた秘蔵のインスタント写真、約800枚。森村にとって、制作における試行錯誤の痕跡のような存在で、彼の作品におけるバックグラウンドの全貌をうかがい知ることができる。また、新たな試みとして《影の顔の声》と題した作品も披露する。これは1994年に森村が自作の小説を自ら朗読して制作したCD《顔》を発展させた、いわば「声の劇場」。展示室に特設の音響空間をしつらえ、無人朗読劇として上映する。

 なお、同美術館の向かいにある京都国立近代美術館では、コレクション・ギャラリー内で二人展『合わせ鏡の対話/不在の間――森村泰昌とドミニク・ゴンザレス=フォルステル』が開催中。本展で展示されたインスタント写真から制作された実際の作品もいくつか展示されている。

『京都市京セラ美術館開館1周年記念展 森村泰昌:ワタシの迷宮劇場』
会期:~6月5日(日)
会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜 ※ただし5月2日は開館
料金:一般 ¥2,000、大学・専門学校生 ¥1,600、高校生 ¥1,200、中・小学生 ¥800、未就学児無料
電話:075(771)4334
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『川人綾:斜めの領域』|京都市京セラ美術館

画像: 『織(Ori)Scopic』イムラアートギャラリー(京都)での展示風景 2021年 PHOTOGRAPH BY AKIHITO YOSHIDA

『織(Ori)Scopic』イムラアートギャラリー(京都)での展示風景 2021年
PHOTOGRAPH BY AKIHITO YOSHIDA

 グリッド状の単純なモチーフを何層にも重ねながら手で描くことで生じる「ズレ」。川人綾はそこに、人間のコントロールできる領域を超えた美しさを見出し、見る者の目を惑わすような絵画やインスタレーション作品などを発表してきた。大学では染織を専攻。神経科学者の父の影響を受け、錯視効果をはじめ視覚と認知のメカニズムにも関心を寄せて育った。彼女の作品を特徴づける「ズレ」とは、染織の手作業の過程で生じるズレ、そして捉える対象とイメージの視覚認知的なズレを含んでおり、いわば工芸と科学の両方に対する関心が作品の魅力として現れている。

 京都市京セラ美術館 ザ・トライアングルで開かれている個展では、絵画作品のほか、ガラス張りの展示空間を利用したインスタレーションも発表。ガラス面全体を垂線と斜線で形作られたグリッドのペインティングで覆い、見る位置、見る角度によって変化し、またモチーフが揺れ動くような視覚体験を鑑賞者に促すという作品だ。

『川人綾:斜めの領域』
会期:〜5月15日(日)
会場:京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月曜 ※ただし5月2日は開館
観覧料:無料
電話:075(771)4334
公式サイトはこちら

『ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術』|兵庫県立美術館

画像: ソル・ルウィット《モデュラー・ストラクチャーのためのワーキング・ドローイング》 1970年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館 © 2021 THE LEWITT ESTATE; FOTO: ACHIM KUKULIES, DÜSSELDORF

ソル・ルウィット《モデュラー・ストラクチャーのためのワーキング・ドローイング》
1970年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館
© 2021 THE LEWITT ESTATE; FOTO: ACHIM KUKULIES, DÜSSELDORF

 1960年代から70年代にかけてアメリカで興ったミニマリスムとコンセプチュアリスム。本展は、今日のアートシーンにも大きく影響を与えているこの2つのムーブメントを、18組の作家の作品を通じて振り返る企画展だ。

 ミニマリスムは、主に60年代、作家の手仕事やその痕跡を排除し、工業用素材や既製品を用いて、単純で幾何学的な形やその反復によって構成される作品を目指したもの。この潮流に続いて、国際的に広まったコンセプチュアリスムは、ものとしての制作物以上に、その構成を決めるコンセプトやアイディアを重視するもので、特定の形式に縛られることなく、言葉や印刷物、日用品、作家自身の行為、それを記録する写真や映像など、多様な媒体が用いられた。

 この美術動向にいち早く注目し、世界に伝えたドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻のコレクションを中心に、本展では、日本国内に所蔵される主要作品、また当時の作家たちが残した書簡や制作のための指示書といった貴重な資料も展示される。美術史を大きく動かした作品とアーティストたちの思考のプロセスを体感できるという意味で、現代アートファンにも入門者にもおすすめの展覧会だ。

『ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術』
会期:~5月29日(日)
会場:兵庫県立美術館
住所:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1 HAT神戸内
時間:10:00〜18:00 (入館は閉館の30分前まで)
休廊日:月曜
入館料:一般 ¥1,600、70歳以上 ¥800、大学生 ¥1,200、高校生以下無料
電話:078-262-1011
公式サイトはこちら

※新型コロナウイルス感染予防に関する来館時の注意、最新情報は各施設の公式サイトを確認ください

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