夢で見た強烈なビジョンをひたすらに描き続ける画家・藤田理麻。新宿伊勢丹本店アートギャラリーにて30回目となる個展が、11月8日より開催中だ。唯一無二の作品が生まれる背景と、作品に映し出される願いについて、藤田さんに話を聞いた

BY OGOTO WATANABE

画像: 「20代の頃から「目」は私のシンボルでした。真実を観るためには両目を閉じることが大切かも知れません。でも、この物質の世界で物事を観るには目をしっかり開くことが必要です」  『守られて〜信頼〜愛の光』©RIMA FUJITA <30x40.5cm> ミクストメディア/キャンバス

「20代の頃から「目」は私のシンボルでした。真実を観るためには両目を閉じることが大切かも知れません。でも、この物質の世界で物事を観るには目をしっかり開くことが必要です」

『守られて〜信頼〜愛の光』©RIMA FUJITA <30x40.5cm> ミクストメディア/キャンバス 

「私たちは学び成長するために、生まれてくる。そのために人生においてあらゆるレッスンが与えられる。――古来、賢人たちはそう言います。でも、大人になると、自分の内なる成長は目に見えにくく、測りにくいものになってしまいます」と藤田さんは言う。「今の社会では、SNSの評価で自分を測ってしまいがち。今日の投稿に「いいね!」がいくつ付いたか、フォロワー数はいかほどか。自分のバリューを、刹那的に他人の物差しでジャッジする。そんなことを続けていると、本当の意味での自分に対する信頼や自信は育まれないのではないかと案じています。薄っぺらなバリューにアップダウンする日々を重ねることはヘルシーではないし、幸福に生きることにつながらない。“自分は、本当は誰なんだ?”と立ち止まり、見つめなおすことが大事だと思うのです」

「朝ご飯にバナナを食べたら、そのあとのことはいちいち考えないですよね? でも、内臓も細胞も黙々と働き、消化活動を行う。体は自然とやってくれているのです。それって実はすごいこと。そこに成長がないわけがない。両足で立って毎日生きているだけでものすごいことだと、私は思います。毎日をただこなしていくのに精いっぱいで、なんでもない日の繰り返しに思えたとしても、必ず何か進んでいることはあるはずです。自分がその日何をして、どんなことを考えたかを見つめ、一日の終わりには自分自身をいたわる。それを大事にしてほしい」

「自分への真の愛は、自分で与えるもの」と、藤田さんは言い切る。「もちろん、他人と自分を比べてしまうのは人間の本能。私も、若い頃は、サクセスフルな仲間と比べて自分だけ置いてけぼりだと落ち込んだりしました。でも、人は、自分だけの道を歩くために生まれてきたのだと気づいたのです。誰ひとり、同じ道はないのです。私の仕事は私にしかできない。お互いに足を引っ張るのではなく、応援し合う。そう思うようになってから、人生が豊かでラクで楽しくなってきました」

 だが、自分が何をしたらよいかわからない人や、自分のための時間など持てない暮らしを余儀なくされる人も少なくない。「“本当にしたいことができていない”、そう気がつくだけで第一歩。じっくり時間をかけて探していいのです。一方で、体力もメンタルのエナジーもすり減らして誰かのために何かをして自分の時間のない人は、それがいかに貴いことかをまず自分で認める。自分を抱きしめ、自分をいたわる。それを毎日、もうリチュアルとして、やるのです。何か特別な存在にならないと価値がないと思っている人が多いのですが、ひとりの人間としていきているだけで、十二分の価値があるのです。そこに気づくのに、他人の評価に頼るのではなく、自分で自分に愛を注ぎ、変えていくのです」

「たとえ、自分の成長が実感できなくても、必ず成長しているのです。螺旋を描きながら、ゆっくり上昇している。そのことをしっかり信頼し、愛を育んでください」。藤田さんのその強い想いが、今回の個展のテーマ「Spiral Upwards~無条件に~」の源となっている。同時にそれは、螺旋を描きながら現在に至る、彼女自身の魂の軌跡でもあるのだろう。

画像: 「今回の展覧会のなかでも、個人的に特に思い入れの強い作品です。切られた大木の根っこを女神が担いでいます。何があってもまた立ち上がり、命を繋いでいく。パワフルでポジティブ、強い希望に満ちています」 『木の女神』 ©RIMA FUJITA <51x40cm>ミクストメディア/キャンバス

「今回の展覧会のなかでも、個人的に特に思い入れの強い作品です。切られた大木の根っこを女神が担いでいます。何があってもまた立ち上がり、命を繋いでいく。パワフルでポジティブ、強い希望に満ちています」

『木の女神』 ©RIMA FUJITA <51x40cm>ミクストメディア/キャンバス

 幼少より夢で見る鮮やかなビジョン。いつしかそれらをキャンバスに描くようになったのだ、と藤田さんは言う。「描いているときは無心です。何も考えず、夢で見たビジョンをひたすら描いています」。スランプはないのかと聞くと、「人間である以上、スランプはやってきます。ビジョンを見ても、それを絵にしたくないときもあります。コツは、スランプとの付き合い方。その時できることをするだけです」

『木の女神』という作品では、伐採された木の切り株に花が一輪咲いている。「命を奪われるような壊滅的で絶望的な状況にあってもへこたれずに再起し、新しい命を芽吹かせ、未来へつないでいく。まさにレジリエンス。耐えながらも未来へと持続していくポジティブな力を、このビジョンから感じたのです」 

 藤田さんは、毎朝、目が覚めると、窓の外の木々に心を向ける。「木も人と同じく、かけがえのない存在。考えなしに木を切ってはならないと思います。木を切らなければならないときは、周囲に影響が及ぶことを予測し、全体のバランスを考える必要があります。ビジョンのなかの『木の女神』は、大木を背負うごとく森を守っているようでした。木を守るということは人間を守るということ。それを知るべき時はとっくに過ぎています」

画像: 「近代化や資本主義によって世界中の多くの聖地が次々と姿を消しています。この春に久々に訪れたヒマラヤの街も、驚くほど車が増え商業化が進んでいました。そんな中でも必死で神聖な文化と歴史を守り抜こうとしている人たちがいます。時代の変化と共に変えて行くべき伝統と、いつまでも守り続けるべき伝統があります」  『聖なる場所』©RIMA FUJITA <30x40.5cm> ミクストメディア/キャンバス

「近代化や資本主義によって世界中の多くの聖地が次々と姿を消しています。この春に久々に訪れたヒマラヤの街も、驚くほど車が増え商業化が進んでいました。そんな中でも必死で神聖な文化と歴史を守り抜こうとしている人たちがいます。時代の変化と共に変えて行くべき伝統と、いつまでも守り続けるべき伝統があります」

『聖なる場所』©RIMA FUJITA <30x40.5cm> ミクストメディア/キャンバス

 この30年間、絵を描くことと同じく、藤田さんがライフワークとして取り組んできたことがある。チベット難民の子どもたちの教育支援である。チベット語で書いた絵本を作り、インドやネパールに済むチベット難民孤児たちに届けてきた。2021年にはダライ・ラマ法王の一生を描いた絵本『The Extraordinari Life of H.H.The Fourteenth Dalai Lama』を米国の出版社から出した。

 今年の3月にはその絵本を携え、ヒマラヤの麓ダラムサラへ赴き、ダライ・ラマ法王に謁見の機会を得た。「お歳を召されていても、人々のために行動したいという猊下の思いやりの心と行動力に、今回もまた強く心打たれました」と藤田さん。久々に訪れたダラムサラの変化に戸惑うと同時に、その中で人々が、何千年にも及ぶ大切な文化と伝統を、懸命に守ろうとする姿にも触れ、感銘を受けたと言う。「さらに上へ上へと、高く連なるヒマラヤの峰々を仰ぎながら、この聖地を人々はきっと守り抜いていけるはずだ、とポジティブな気持ちになりました」

 今回の個展では、新作のほか、藤田さんが個人的に保管していた旧作なども沢山される。前へと進んでいるのか戻っているのかも時にわからなくなる螺旋の軌跡上を、それでもわたしたちは、ゆっくりと進みながら上昇しているーー。画家・藤田理麻さんの歩んできた30年を映し出す作品との出会いを通し、内なる自分との対話を楽しんでみたい。

藤田理麻30周年記念絵画個展「Spiral Upwards~無条件に~」
会期:2023年11月8日(水)~11月14日(火)(※最終日は18時まで)
会場:新宿伊勢丹本店6階 アートギャラリー
入場:無料
公式サイトはこちらから

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.