BY OGOTO WATANABE
「今年のテーマは『シャスタ』。サンスクリット語で「守護者」という意味の言葉です。生きていると、いろいろなことが起こります。この1年、世の中にも自分自身にも様々なことがありました。そんななか、ふりかえると自分が今までいかにいろいろな場面で守られているのかを痛感しました。目には見えないものも含め、自分を、私たちを、守ってくれるものの存在を強く感じ、感謝の気持ちが深くなったのです」。
シャスタといえば、カリフォルニア州北部にある聖山の名でもある。「シャスタ山は以前からずっと訪れてみたいと思っていて、年頭には今年こそ行くと決めていました。でも、諸事情で訪れることは不可能でした。そこで、気づいたのです。行ってないからつながれないということはなく、肉体的には行けなくても、思いはそこにあるということに」。
藤田のその“気づき”は、今作で「ブレイクスルーした作品」と自負する『ライト キャリア』にも通奏低音のように響いている。「私は月を見あげることが好きで、満月も何回となく描いてきました。満月が近づくと恋人に会えるかのようにウキウキしたりして。でもある夜、空が曇っていて見えなくてがっかりしたのです。この作品は、その日、夢にみたビジョンを描いたものです。月は見えなくてもそこにあるし、そのパワーは見えても見えなくても同じ。光は、たとえ見えなくても、内側にあるのです」。
「人は、今よりも未来に目を向けがちなところがありますよね。現在よりも未来のほうを気にかけてしまったり。でも、今この瞬間の連続が未来をつくるのです。”今ここ”に集中し、今を愛おしみ、この瞬間を大切にすることの連なりが、いい未来をつくるのだと思います」。
誰しもままならぬことがあるのが人生だが、藤田は言う。「この夏、愛する父を見送りました。今、生きていることのありがたさを、毎日感じているんです。朝、『目が覚めることができてありがとう』と思います。それは当たり前のようでいて当たり前ではないこと。『新しい一日をありがとう』、日々そんなふうに感じています」。
伊勢丹新宿店 アートギャラリーでの個展は、今年で31回目を迎える。絵の前で、対話するかのように長い時間たたずむ人。涙を流す人。藤田の絵は見るひとの感情の奥深くを揺らすようだ。「私の絵はコンセプチュアル・アートではありません。私の絵を見て元気になれた、生きる力になったと言ってくださる方の言葉をとてもうれしく思いますし、だからこそ私も全身全霊で絵に向かいます」。
世界各地が激動の渦中にあり、藤田が拠点にするアメリカも大きく揺れている。不安はないのかと尋ねると、「この数年間、この先どうなっちゃうんだろう?と案じることもありました。でもね、何ごとも永遠には続かないのです。必ず変化があるし、必ず希望はここ、私たちの内側にある。だから大丈夫、きっとこれからもどうにかなると思っています」。
藤田理麻 新作絵画展『Shasta~あなたを見守る存在たち~』
会期:2024年11月13(水)~11月19日(火)
会場:伊勢丹新宿店 本館6階 アートギャラリー
住所:新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店内
開館時間:10:00~20:00(最終日は18:00終了)
入場料:無料
電話:03(3225)2793<伊勢丹新宿店 アートギャラリー>
※アーティスト・トーク 11月16日(土)14時30分より 個展会場にて
公式サイトはこちら
藤田理麻(RIMA FUJITA)
画家。米国在住。長年、チベット難民の子どもたちに絵本を送る活動を続けてきた。2021年の夏には米国Wisdom Publicationsからダライ・ラマ14世の生涯を描く絵本を刊行。藤田は猊下のもとを何度も訪れ、2018年にはダラムサラにてロングインタビューも行った