BY ASATO SAKAMOTO JULY 06,2018
アール・ヌーヴォー様式のジュエリーデザイナーとして才能を開花させ、その後ガラス工芸家、装飾家としてアール・デコの興隆にも大きな影響を与えた芸術家、ルネ=ジュール・ラリック。いきいきとした動植物や優美な女性をモチーフに、神秘的な作品を生み出してきた。ラリックの「アートを日々の生活の一部として共存させたい」という思いは、彼がこの世を去ったあとも後世へと引き継がれ、“ラリック”という名は圧倒的な職人技術と高い創造性を兼ね備えたライフスタイルメゾンとして広く認知されることになった。ラリック社は、世界最高峰とも言われるクリスタル製品をはじめ、ジュエリー、香水、インテリア、アート、ワインなどの分野でラリックのフィロソフィーを伝えてきた。
そのラリック社が、創業130周年を迎える今年、東京・銀座に旗艦店となる「ラリック銀座店」をオープンした。店内では、グラスや香水、ジュエリーなどの小さなプロダクツから貴重なアートピース、ソファまで、ラリックのラグジュアリーかつダイナミックな世界観をさまざまなカテゴリーで体感することができる。去る6月27日、グランドオープンに合わせて来日したラリックグループ会長のシルヴィオ・デンツ氏に話を聞いた。いま東京に店を構えるということ、そして、ここからラリック社が改めて伝えたいこととは――。
―― 日本では初めての実店舗ですが、銀座という街を選んだ理由は?
「世界的に見ても東京といえば銀座ですし、昨年、MIKIMOTOの銀座本店がオープンした際にはブライダルサロンのシャンデリアをラリックが製作したりと、私たちにはなじみ深い街でもあります。つねに進化している場所で、最近では若い人も多く訪れていることも魅力的ですね」
―― 銀座店は、日常的に使える小さなプロダクツからインテリアまで、ライフスタイルブランドとしてのラリックの魅力が凝縮された空間になっています。内装やインテリアで特に工夫したのはどんなところですか。
「基本的なコンセプトはBlack&White。白と黒を基調としたインテリアにすることで、クリスタルがもつ深い透明性を最大限に際立たせる空間を目指しました。また、照明にも注力しました。照明のひとつひとつに、クリスタルの輝きを引き出すための細かな配慮が詰め込まれています」
―― 店舗オープンに合わせて「ラリックジャパン」を設立されました。“組織”も日本にあるべきだという思いはどこから来ているのでしょうか。
「日本には熱心なラリック・コレクターがたくさんいらっしゃり、その方々に直接、私たちの製品を届けたいという思いをずっと持ち続けていました。また、ルネ・ラリック自身が日本の文化から多くのインスピレーションを受けたというのも理由のひとつです。箱根には『ラリック美術館』という、森と一体化したような素敵な美術館もありますが、創業当時から日本とラリックは深いつながりがあるのです」
―― ラリックのクリスタル製品は、1921年に初めての工場を設立して以来、今も変わらずアルザスの工房で一点一点手作りされています。フィロソフィーや技術を職人やスタッフへ伝えていくために、特別な教育プログラムやノウハウがあるのでしょうか。
「特別変わったものではないかもしれませんが、毎年、私たちが考えた“見習いプログラム”に参加していただける方を募集し、その中から毎年10名ほどを技術者として採用しています。プログラムの途中でドロップアウトしてしまう人もいるのですが、大変なのはそこから。マスター・クラフトマンと呼ばれるようになるには、最低でも14年はかかります」
―― 技術だけでなく、集中力や精神力も必要ですね。
「もちろん、そういったメンタルも大事ですが、大切なのはやはり才能だと思っています。“見習いプログラム”や下積み期にそれを見抜けるかどうか。フィロソフィーやテクニックは、年配のマスター・クラフトマンたちの熱心な指導によって習得することができます」