アダム・ポーグは大胆な柄と色合わせと、手仕事で作られるダイナミックなキルトでインスタから火がつき、テキスタイル・アーティストとして活躍中だ。そんな彼に質素でユニークな暮らしぶりについて聞いた

BY JULIA FELSENTHAL, PHOTOGRAPH BY PHILIP CHEUNG, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

 テキスタイル・アーティストのアダム・ポーグ(41歳)にとって、つねに必要は発明の母である。「お金はなくても、自分の住まいをおしゃれな空間にしたかった」。彼はロサンゼルスにあるアパートメントに飾るものを自分で作り始めた。ソファには古着屋で買ったデニムを日本のボロ・スタイル風パッチワークにして張りつけた。床には自分で編んだラグを敷いた。

 部屋の間仕切りとして、目隠しカーテンを作った。大学で建築と彫刻を学んだポーグは、自分が手作りしてきたものを発展させたら、もっと大きなプロジェクトになるのではないかと思い、2015年頃から平日の夜や週末にキルトを制作し始めた。彼自身が「バウハウス風」と称する明るい色(マゼンタ、イエロー、ブルーなど)を組み合わせた作品をインスタグラムに投稿したところ、あまりにも反響が大きかったため、彼は定職を捨てる覚悟を決めた。「キルトには普遍的な魅力がある」と、気づいたのだという。「僕自身が美しいと思うものを作れば、ほかの人も気に入って使ってくれる」

画像: アダム・ポーグの作品。 (左)≪オレンジ・キルト≫(2018年)。ヘンプ麻に綿とキャンバスをミックスして作られている。 (右)≪ファースト・キルト≫(2016年)。デニム、塗装用の養生布シート、ヴィンテージの信号旗を使用。敷物やカーテン、壁掛けも、彼の作品 ADAM POGUE’S “ORANGE QUILT,” $8,000, AND “FIRST QUILT,” $8,750, THE FUTURE PERFECT.COM ALL COMMISSIONS AVAILABLE THROUGH COMMUNE DESIGN

アダム・ポーグの作品。
(左)≪オレンジ・キルト≫(2018年)。ヘンプ麻に綿とキャンバスをミックスして作られている。
(右)≪ファースト・キルト≫(2016年)。デニム、塗装用の養生布シート、ヴィンテージの信号旗を使用。敷物やカーテン、壁掛けも、彼の作品

ADAM POGUE’S “ORANGE QUILT,” $8,000, AND “FIRST QUILT,” $8,750, THE FUTURE PERFECT.COM ALL COMMISSIONS AVAILABLE THROUGH COMMUNE DESIGN

 彼はそのキルトを、ロサンゼルスにあるデザイン事務所「コミューン」の共同設立者であるローマン・アロンソにも見せた。「紛れもなく、アダムはアーティストです」とアロンソは話す。彼はロスフェリズ(クリエイターが多く住むエリア)にある自宅のダイニングを飾るカーテンの制作をポーグに依頼し、「ステンドグラスのような感じにしてほしい」と注文をつけた。このときポーグの頭にぱっと浮かんだのは、韓国の伝統的な布「ポジャギ」。手縫いで継ぎ合わせる四角い布のパッチワークだ。キルトといえば、通常は綿を詰めるので布が重なっているが、ポジャギであれば光を通す一枚の布として、両面仕上げにできる。明かりにかざすと、その縫い目の見え方は、ステンドグラスのパネルをハンダ付けしたときにできる線を彷彿させる。ポジャギの手法を機械で再現する技を体得し、ポーグは3枚のパネルを完成させた。テトリスのブロックみたいな形と、斬新でポップな配色。まるでフランク・ロイド・ライトの作風に、ほんの少しロシアの画家カジミール・マレーヴィチを加味したようなポジャギだ。

 ポーグのパッチワークキルト、オットマン(足置き)、クッションは、現在は「コミューン」を通じて販売されており、時にはアロンソが旅先で見つけたヴィンテージのテキスタイルを使って作る。彼は、ほかにも同事務所が手がけるプロジェクトにいくつも関わっている。たとえば、ロサンゼルスで間もなく開館する美術館に入店するレストランや、来年京都にオープンする予定のエース ホテルのカーテンを制作中だ。また、コミューンの顧客のサンフランシスコの邸宅に置かれた巨大なシステムソファに、日本の藍染めでアプリケを施している。ポーグは今もなお、自宅――ロサンゼルスのダウンタウンにあるロフト――を仕事場にしており、ここには彼自身による手作りの家具がたくさん置いてある。美術家のドナルド・ジャッドにインスパイアされて作った合板のソファベッドも、そのひとつだ。そして、質素なライフスタイルも変わらない。隣人が譲ってくれたアンティークの着物を“アップサイクル”(素材を活かして新たな価値を創造すること)したり、米軍の払い下げ物資を売る店で買った郵袋を利用したりしている。玉ねぎの皮を取っておいて、市販の生地を買うときは、それを使って染める。

 ポーグの作品は、緻密さと遊び心のバランスが絶妙だ。「どの部分にも、思いがこもっている」と言う。彼自身が使うターンテーブル用に作った刺しゅう入りの布カバーもそうだし、ディケンズの小説に登場するナイトキャップをかぶせたように見えるオットマンもそうだ。キルトといえば、アラバマ州ジーズ・ベンドでアフリカ系アメリカ人によって作られてきたものが有名だが、彼らのキルトと同様に、ポーグの布合わせも絵画的で抽象的で、型にとらわれず、直感的だ。「ジーズ・ベンドからも大きな影響を受けた」と言う。「彼には(服作りに向く)本能的なものが備わっています」とアロンソは言うが、ポーグ自身の見方は少々異なるようだ。やがては服作りも手がけたいかと問うと、「数学的要素が多すぎる」という言葉が返ってきた。「僕はパンを焼く職人よりも調理人に近い。どんな味になるかわからないけど、とりあえず鍋にいろんなものを入れてみるんだ」

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