エルメスから新たな家具のコレクション「エキリーブル・ドゥ・エルメス」が登場。エルメスのホームコレクション部門のアーティスティック・ディレクター、シャルロット・マコー・ペレルマンとアレクシィ・ファブリ、そしてデザインを手がけたジャスパー・モリソンに話を聞いた

BY KANAE HASEGAWA

 エルメスから新たな家具コレクションが登場した。コレクション名の「エキリーブル」は“バランス”を意味するフランス語であり、エルメスがそのものづくりの哲学において大切にしていることでもある。この椅子のデザインを手がけたのは英国のプロダクト・デザイナー、ジャスパー・モリソンだ。彼が1997年にリヨン郊外に建つラ・トゥーレット修道院の食堂のためにデザインした椅子をもとに今回、再構築したという。四半世紀前にデザインした家具を今、作り直すことの狙いはどこにあるのだろう。エルメスのホームコレクション部門のアーティスティック・ディレクターを務めるシャルロット・マコー・ペレルマンとアレクシィ・ファブリに、コレクション誕生のいきさつを尋ねた。

画像: 《エキリーブル・ドゥ・エルメス》¥839,300 <D50.6 × W45.7 × H80.9 cm>オーク材、シートはレザー タイムレスな魅力を放つ一脚。もとは修道院のためにデザインされた椅子をベースに新たにデザインされたチェア PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

《エキリーブル・ドゥ・エルメス》¥839,300
<D50.6 × W45.7 × H80.9 cm>オーク材、シートはレザー
タイムレスな魅力を放つ一脚。もとは修道院のためにデザインされた椅子をベースに新たにデザインされたチェア
PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

―― ダイニングチェア、アームチェア、そしてテーブルから成る「エキリーブル・ドゥ・エルメス」コレクションは、1997年にジャスパー・モリソンがフランス・リヨン郊外に立つラ・トゥーレット修道院のためにデザインした椅子がきっかけだそうですね。なぜ1997年の椅子を今の時代、エルメスが再考しようと思われたのですか?

ペレルマン:もともとジャスパー・モリソンのデザインに対する姿勢に共感を抱いていました。彼がデザインする家具は一見するとミニマムで簡素です。これ見よがしに主張するデザインではないけれど、形にする上で高度な職人の技を必要とします。それはエルメスのオブジェにも言えることです。ものづくりにおいてエルメスが大切にしてきたのは、オブジェを通して、高度な職人の手業を世に伝えることです。でも、声高にではなく、控え目に伝えること。1997年にジャスパー・モリソンがデザインした椅子もそういった存在で、控え目なデザインだけれども、心を動かすものでした。こうした椅子を通してエルメスを語りたいと思っていました。そのことをジャスパー・モリソンに伝えると、新しいデザインを考えるよりも、修道院の椅子をいま一度再考したいと話してくれたのです。

画像: アレクシィ・ファブリ(左)とシャルロット・マコー・ペレルマン(右) エルメス アーティスティック・ディレクター、ピエール=アレクシィ・デュマのもと、2014 年11月にエルメス メゾン・ユニバース(ホームコレクション部門)、サンルイ、ピュイフォルカアーティスティック・ディレクターに就任 PHOTOGRAPH BY MATTHIAS ZIEGLER, © HERMÈS

アレクシィ・ファブリ(左)とシャルロット・マコー・ペレルマン(右)
エルメス アーティスティック・ディレクター、ピエール=アレクシィ・デュマのもと、2014 年11月にエルメス メゾン・ユニバース(ホームコレクション部門)、サンルイ、ピュイフォルカアーティスティック・ディレクターに就任
PHOTOGRAPH BY MATTHIAS ZIEGLER, © HERMÈS

―― 初めて「エキリーブル・ドゥ・エルメス」の椅子を見たとき、ソリを連想してしまいました。というのも、床面と接する椅子の脚部分が、雪面をなめらかに進むためのソリのレールのイメージと重なったからです。でも、もとは修道院のために作られた椅子と知り、床面に接する脚が椅子を引いたときに、音を立てることなく動かすことができるように配慮したデザインであることが腑に落ちました。一見するとストイックでミニマムなデザインですが、制作する上で高度な技術を要すると聞きました。制作にはどのくらいの技術や時間を要するのでしょうか。

ファブリ:一脚のダイニングチェアは16カ所の接合箇所をもち、その制作には7日間を要します。ミニマムなデザインですが、よく見ると直線ではなく細部に緩やかなカーブが多く施されています。いくもの接合箇所をぴったり合わせたるためにも、パーツにバラつきがないように仕上げる必要があり、非常に高度な木工技術を必要とします。

画像: 工房にて。チェアの前脚にあたるバーツの側面をカンナで整える職人の手元 PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

工房にて。チェアの前脚にあたるバーツの側面をカンナで整える職人の手元
PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

―― もととなった椅子を今の時代に作り直すために、どんなことに取り組んだのですか?

ファブリ:エルメスの家具として発表するためには、修道院の食堂という当初の環境とは異なり、お客様が様々な使い方をすることを想定する必要がありました。そのためにはより耐久性を持たせることが必要でした。特定の用途から、より幅広い用途に応じるための調整は、非常に知的好奇心と創作意欲をかきたてられるものでした。

ペレルマン:1990年代に椅子をデザインしたときも、ジャスパーが最も配慮したのは、“使う人にとって使いやすいか”、“生活に馴染むか”ということだと思います。今回、エルメスのコレクションとして誕生した椅子も、試作品が出来上がると彼自身が座り、改良を加えてはまた椅子の背にもたれかかり、何度となく座り心地や、座面の裏に手をかけて椅子を引くときの感触を確かめていました。人が椅子を使うときのあらゆる体勢を検証し、どんな気持ちになるかまで目配りをする。その姿勢は、エルメスのものづくりの真髄に通じることです。

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