エルメスから新たな家具のコレクション「エキリーブル・ドゥ・エルメス」が登場。エルメスのホームコレクション部門のアーティスティック・ディレクター、シャルロット・マコー・ペレルマンとアレクシィ・ファブリ、そしてデザインを手がけたジャスパー・モリソンに話を聞いた

BY KANAE HASEGAWA

 1997年にモリソンが修道院のためにデザインした椅子、そして、このたびエルメスとともに作った椅子。そのどちらも、時代の息吹や潮流よりも、使う人のふるまいや心地よさに重きを置いてつくられたものだ。そのものづくりの姿勢こそが、タイムレスな価値を放つものを生みだすのだろう。当のデザイナー、ジャスパー・モリソンは、四半世紀前の自身のデザインを見直すにあたりどのような取り組み方をしたのだろうか。本人に尋ねてみた。

画像: JASPER MORRISON(ジャスパー・モリソン) 英国のプロダクト・デザイナー。1986年、ロンドンに自身のデザインオフィスを設立。家具、テーブルウェア、家電、照明製品、電子機器から公共空間のデザインにいたるまで幅広く手がける。“その土地で長年使われてきた道具の形にデザインの本質がある”という信念のもとリサーチを重ね、普遍的なデザインを心掛ける PHOTOGRAPH BY ELENA MAHUGO

JASPER MORRISON(ジャスパー・モリソン)
英国のプロダクト・デザイナー。1986年、ロンドンに自身のデザインオフィスを設立。家具、テーブルウェア、家電、照明製品、電子機器から公共空間のデザインにいたるまで幅広く手がける。“その土地で長年使われてきた道具の形にデザインの本質がある”という信念のもとリサーチを重ね、普遍的なデザインを心掛ける
PHOTOGRAPH BY ELENA MAHUGO

―― 1997年のデザインをもとに今回、新しい家具をつくるにあたり、どんな点が刷新されたのでしょうか。

モリソン:20年以上前に修道院のための椅子をデザインした頃は、私自身が座り心地の良さに対する知識を十分に持ち合わせていませんでした。今となれば明らかに改善した方がよい箇所がいくつもあったのです。また、昔と今とでは人間工学の基準がずいぶん異なります。たとえば1950年代、60年代の椅子は人が背筋を伸ばして座ることがよい姿勢だという念頭のもと、椅子の背は座面に対して直角になるようにデザインされていました。現代では、人は座っている間、いろんな体勢を取り、むしろ背もたれは背後に傾斜している方が背中に良いということがわかっているのです。

画像: 《エキリーブル・ドゥ・エルメス》アームチェア¥992,200 <D52.5 × W59 × H80.9 cm>オーク材、着脱可能なレザーシート付 PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

《エキリーブル・ドゥ・エルメス》アームチェア¥992,200
<D52.5 × W59 × H80.9 cm>オーク材、着脱可能なレザーシート付
PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

――「エキリーブル・ドゥ・エルメス」の椅子を初めて見たとき、“簡素な椅子”という印象をもちました。ところが、実際は椅子の細部には緩やかなカーブが施されており、複雑なデザインです。こうした緻密なデザインは、強度や座り心地を追求した結果、生まれたものなのでしょうか?

モリソン:機能上、必要だった部分もあれば、直感的に美しいと思ってデザインの線を加えたところもあります。

―― 多くの人が、あなたがデザインしたものとは「エモーショナルな関係を持つ」と言います。その意味が分かった気がします。あなた自身が本能的に引かれるデザインを求めているからなのですね。今回、エルメスの職人と仕事をしたことでどのような発見がありましたか?

モリソン:外部のデザイナーとして様々な企業のものづくりに関わっていると、その企業らしさや得意とするものが、自ずとそのデザインに反映されるものです。その意味でエルメスとの仕事は特別だった気がします。ずいぶん前にエルメスのアーカイブを見学させてもらったとき、エルメスのもつ価値観とは何なのかを意識したことを覚えています。今回「エキリーブル・ドゥ・エルメス」をデザインするとき、そのときの印象がずっと脳裏にありました。ほかの家具メーカーとの仕事では生まれなかったデザインです。

画像: 《エキリーブル・ドゥ・エルメス》テーブル レクタンギュラーLarge¥2,673,000 <W270 × D100 × H74.3cm>オーク材 PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

《エキリーブル・ドゥ・エルメス》テーブル レクタンギュラーLarge¥2,673,000
<W270 × D100 × H74.3cm>オーク材
PHOTOGRAPH BY MAXIME VERRET, © HERMÈS2020

 1986年以来、数え切れないほどの椅子やテーブルをデザインしてきたモリソン。「モリソンはユーザーとの関係において一種の謙虚さがあり、どのように使用されるのか細心の注意を払います。強い表現で新しいデザインに落とし込むのではなく、小さな調整で実用的に仕上げています」とは、ファブリの言葉だ。モリソンが貫いてきた姿勢が、エルメスの職人たちとの邂逅により、さらなる高みへと昇華され、具現化されたということだろうか。

 こうして生まれ変わった家具は、修道院のストイックな佇まいを崩すことなく、現代の私たちの住空間にしっくりと合う。この椅子の佇まいには、時を超えて生き続けるものの凛とした軸の強さとしなやかさとが感じられる。

問い合わせ
エルメス・ジャポン
TEL. 03(3569)3300
公式サイト

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