BY EMI ARITA, PHOTOGRAPHS BY MAKOTO NAKAGAWA
「好きで集めたものはすべてが“一軍”。だから、仕舞い込んだり、処分するっていうマインドがないんです」と言う古牧ゆかりさんの部屋は、世界55カ国を旅して集めてきたもの、パリ暮らし時代に蚤の市で買ったもの、近所の店で見つけたものと、「これはどこで手に入れたの?」とついつい聞きたくなる素敵なものたちで溢れている。
“好きなものだから仕舞い込まない”というその言葉を象徴するように、LDKの一角は、壁いっぱいにアートが飾られている。ジョルジュ・ブラックのリトグラフ、フォトグラファーの友人の作品、あるいはパリの蚤の市で買ったものと、さまざまなアーティストの作品で埋め尽くされ、その様はまるでギャラリーのようだ。大判のアートブックも本棚に仕舞い込まず、“ギャラリー”の一員として床にずらりと並べている。
「ただただ『いい!』と感じた作品をお迎えしているのですが、動物の絵が好きなので、動物をモチーフにした作品が多いですね。特に鳥モチーフが好きで、ついつい“鳥もの”ばかり買ってしまうんです」
部屋にはドローイングからオブジェまで、たくさんの動物たちの姿がある。最近この部屋にやってきたというのは、ソファの前に置かれたヒバ製のスツールに佇む“カラスくん”だ。イームズの『ハウスバード』のレプリカで、友人から手頃な値段で譲ってもらったものだそう。「はたしてこの部屋に置く場所があるかと迷ったのですが、お迎えしてここに置いてみたら、嬉しそうに微笑んでいるように見えたんです。だから『うちに来てよかったね』と」
LDKにあるヴィンテージの天童木工のキャビネットの上にも、ペンギンやシロクマ、ヒツジやライオンなど、たくさんの動物たちの姿が見える。“カラスくん”と同様になんだか楽しげで、耳を澄ますと、彼らの鳴き声や話し声が今にも聞こえてきそうだ。
「以前、ある方に『自分が気に入ったものを買っているようで、実はものに選ばれている』と言われたことがあるのですが、確かにそうかもしれません。ものから『買って、買って』という声が聞こえて、じゃあ『うちに来る?』という感じかな」
窓辺のグリーンのそばには、形も大きさもさまざまなクリスタルや石がさりげなく置かれている。窓の光を受け、キラキラと煌めく様も美しい。「旅先でただ拾っただけの石もありますが、クリスタルは海外のスピリチュアルスポットを旅していたときに、セドナやカリフォルニアのシャスタ山など各地で購入したものです。旅の思い出でもあり、グリーンたちと同じように、心を癒してくれる存在でもあります」
暮らしに必要なものだけを置くのが好きな人もいるが、古牧さんは「ものがない部屋は考えられない」と言い、アートも、動物たちのオブジェも、そしてグリーンや石たちも、すべてを慈しむように、その部屋に存在させている。新しいものを迎えては、ワクワクしながら居場所を考え、いつもそこにあるものも、飾る花に合わせて置き場を変えて楽しむ。その時々により、それぞれのものたちが輝ける場所を与えられているからこそ、いつも美しく、心地のよい景色を描いてくれるのだろう。「それに、たとえ他人にとってくだらないものであっても、自分にとってくだるものであればいいんです。好きなものに二軍なんてないんです」
古牧ゆかり
スタイリスト/ビジュアルディレクター。ファッション誌で活躍後、渡仏。パリに暮らす。帰国後『エル・ジャポン』のファッションエディターに。現在はフリーでファッション、インテリアのスタイリングや動画制作のビジュアルディレクションを手がける。本誌ファッション特集でも活躍中。
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