花は、人に喜びを与え、人を癒やす。そんな花のエネルギーを、本を通じて人に手渡す書店「草船あんとす号」。東京都小平市小川町で、人と植物を優しくつなぐ場を営む、宮岡絵里さんを訪ねた

BY NAOKO ANDO,PHOTOGRAPHS BY NORIO KIDERA

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植物を知り、自分を知るための、
小さな本屋さんができるまで

画像: 元は、建材卸会社のガーデンハウスとして建てられたという6 畳ほどの建物。入り口の金柵と同じデザインのステンドグラスが4 カ所の窓に設置され、店内を照らす。ZINE(ジン)や絵はがき、ポスターなども販売。

元は、建材卸会社のガーデンハウスとして建てられたという6 畳ほどの建物。入り口の金柵と同じデザインのステンドグラスが4 カ所の窓に設置され、店内を照らす。ZINE(ジン)や絵はがき、ポスターなども販売。

「草舟あんとす号」は、植物にまつわる本を集めた、小さな書店だ。東京都小平市小川町の住宅地にある建築資材倉庫の敷地内。形が異なる3 軒の小さな建物が並び、「ホーリーガーデン」と名付けられている。手前が「草舟あんとす号」で、焼き菓子店「コナフェ」、生花店「コトリ花店」が並ぶ。
 新刊本を中心に、植物にまつわる本だけを扱う書店は、世界でも珍しい。この店を営む宮岡絵里は、どんな道筋でこのコンセプトに至ったのだろう。

すべての本が宮岡によって選ばれ、書棚に並べられている。「小説では、梨木香歩さんの作品の人気が高いですね。今後は海外の花図鑑なども並べられるようになりたいです」。イベントや展覧会も不定期で開催している。

宮岡絵里(みやおか・えり)
埼玉県で生まれ育つ。武蔵野美術大学を卒業後、ハーブガーデンでガーデナーを務めながらバッチフラワーレメディを学ぶ。退社後、フラワーレメディとタロットのセッションを行いながら、東京・西荻窪の1 階がオーガニックの野菜店、2階がレストランという「ほびっと村」の3 階にあった書店「ナワ・プラサード」で働く。2017年4 月「植物の本屋 草舟あんとす号」を開店。

「熊井明子さんのポプリの本が大好きで、犬の散歩の途中、道端の草を摘んでビンに詰めたりする子どもでした。大人になってフラワーレメディに興味をもったときに、座学に加えて生きた植物を育てるとより深く学べるのではないかと思い、ハーブガーデンで約6 年間ガーデナーとして働きました。ところが園芸の知識を得るのに精いっぱいで、植物のもつ生命力や叡智についてまでは考えが及ばず、世話をしながらも、植物との関係性にはまだ距離がありました」

画像: 大切な本2 冊。バーネットの『秘密の花園』と、茶道を通じて日本人の美意識や精神性を紹介するため、アメリカで英語で出版された岡倉天心の『茶の本』。「切り花を"花を殺す"と表現し、美を追求するため、覚悟をもって花に貢献してもらうと書かれた『茶の本』は、最初はうまく飲み込めなかったものの、強く印象に残っています」

大切な本2 冊。バーネットの『秘密の花園』と、茶道を通じて日本人の美意識や精神性を紹介するため、アメリカで英語で出版された岡倉天心の『茶の本』。「切り花を"花を殺す"と表現し、美を追求するため、覚悟をもって花に貢献してもらうと書かれた『茶の本』は、最初はうまく飲み込めなかったものの、強く印象に残っています」

 その頃に出合った本が、フランシス・ホジソン・バーネットの『秘密の花園』だ。
「心にダメージを負っている人々が、庭を再生することによって本来の自分を取り戻していくという内容です。登場人物のコリンという男の子の『魔法は僕のなかにある!』というセリフが好きですね。物語のなかで流れる冬から春の季節が、自分がこの本を読んでいた時期と重なっていたこともあり、"今、自分も秘密の花園をやっているのだ"と感じました。そして、ふと、"この本が、書店の園芸コーナーに置かれていたらいいのに" と思いました。花が好きな人なら、この本も好きなのではないかと。そこから、植物の本の書店をやってみたいという気持ちが芽生えたのです。ただ、調べてみると書店経営にはさまざまな条件があることがわかり、もしできたとしても20〜30年後の遠い未来かなと考えていました」

 そんなとき、東日本大震災が起きた。
「植物と自分の命について、きちんと考え直したいと思いました。体力的に無理を重ねていたこともあり、一度立ち止まろうと、ハーブガーデンの仕事を辞めました」
 学んできたフラワーレメディとタロットを組み合わせたセッションを不定期で開催しながら、西荻窪の小さな書店「ナワ・プラサード」でアルバイトを始めた。
「そこで、仕入れや運営のしかたを少しずつ学ぶことができました。小規模書店にも本を卸してくれる取次があることを知り、もしかしたらもう少し早く自分の夢をかなえられるかもしれないと思っていたところ、セッションの活動で知り合った『コトリ花店』さんに、このスペースがもうすぐ空くと教えてもらったのです」

画像: 外観。手前が「草舟あんとす号」、3 軒がウッドデッキでつながっている。

外観。手前が「草舟あんとす号」、3 軒がウッドデッキでつながっている。

 選んできたことがぴたりと合わさり、2017年、「草舟あんとす号」を開店。ギリシャ語で"花" を意味する"Anthos" は、セラピストの屋号としてすでに名乗っていた。店の住所が小川町のため、「小川に浮かぶ小さな草舟」をイメージして、店名を決めたという。
「扱うのは、"人間と植物との考えうる接点"すべてについて書かれた本です。置いているのは750冊くらいでしょうか」
 その接点を、宮岡は以下のように分類している。知る/調べる、育てる、食べる/飲む、使う、住む、空想する/思う、飾る、描く/観察する、仕事する、環境、贈る、その他。改めて、人間と植物とのかかわりが広く深いことに気づかされる。店内では、予約制でフラワーレメディとタロットのセ
ッションを受けることもできる。

お店の前に置かれた「種の交換会」のためのバスケット。誰かとシェアしたい種を置いたり、もらったりできる。この日は「ハクウンボク」の種が置かれていた。植物の種も販売している。

「植物と人間は、互いにケアしあう相互関係にあると思います。植物と共鳴することで"ずれ" が正され、本来の自分の姿を知り、安心して過ごすことができるでしょう」
 植物を知り、自分を知るための小さな書店。訪れた人は必ず「こんな本屋さんがあったなんて」と驚き、うれしくなるだろう。

ロゴマークと店名は、「フランスガム」として創作活動を行うイラストレーターの小林晃さんに描いてもらった。

植物の本屋 草舟あんとす号
住:東京都小平市小川町2 の2051 
営:12時〜17時 
休:水・木曜
https://kusafune-anthos.shop-pro.jp

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