BY MASANOBU MATSUMOTO
T.REXのマーク・ボランやデヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、YMO、忌野清志郎……。そうそうたるアーティストのポートレイトを撮影してきたロック写真の先駆者が、鋤田正義だ。彼が撮影したマーク・ボランのモノクロ写真を見て、布袋寅泰はギタリストを志したという逸話もある。布袋いわく、「僕のロックンロールのイメージの中には、いつも鋤田さんの写真があった」
このたび完成した鋤田のドキュメンタリー映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』は、約1年半にわたる鋤田への密着取材と関係者へのインタビューによって構成されている。YMOの細野晴臣や坂本龍一、高橋幸宏、布袋寅泰やMIYAVIなどのミュージシャン、俳優の永瀬正敏といった、鋤田の被写体になってきたアーティストに加え、映画監督のジム・ジャームッシュや是枝裕和などのクリエイターも登場。それぞれが鋤田への思いや特別なエピソードを語る。また、YMOのアルバムジャケットをはじめ、多くの人の記憶に残る鋤田写真の意外な誕生秘話を知ることができるのも、本作の見どころだ。
劇中、印象的だったのはコピーライター、日暮真三の証言だ。1960年代、ファッションや広告のカメラマンとして注目を集めていた鋤田との仕事を振り返りながら、「鋤田さんの写真はすでにしゃべっている。だからキャッチコピーがつけにくかった」という。その写真言語はどこからきているのか。鋤田に改めて問うと、こう答えてくれた。
「若い頃から、僕はずっと文字に対してコンプレックスがありました。大学受験にも失敗しましたから。そのコンプレックスをポジティブに反転したものが、写真だったのもかもしれません」。と同時に、鋤田は言葉によって自身の写真のスタイルが決められてしまうのを嫌がる。「たとえば“鋤田はスタジオ写真が上手いフォトグラファーだ”なんて言われたくないですね。それは今でもそう。ライブ会場でも街中でも写真を撮る。誰をどんなスタイルで撮るかということより、自分が“面白いと思ったこと”、好奇心から、写真を撮ることをスタートさせてきました」
ただ、デヴィッド・ボウイに関しては別格なのだろう。「40年間も彼を撮影してきましたから」と鋤田自身が語るように、ボウイの写真の第一人者という形容は、フォトグラファー鋤田正義と切っても切り離せない。なかでも伝説的と呼ばれるのが、ボウイが革ジャンを着てパントマイムのような身振りしている写真だ。アルバム『ヒーローズ』のカバーとして世界的に知られるこの写真は、もともとジャケットや宣伝用に撮られたものではなかったという。
「1977年、ボウイがイギー・ポップのプロモーションで日本に来ることになって、たまたま時間があったからフォトセッションをやったんです。前日くらいにスケジュールが決まって、当日用意した衣装は革ジャン2〜3枚だけ。スタジオも間に合わず、商品撮影をするようなすごく小さなスペースにボウイを呼んだんです」。後になって、ボウイから「あの時の写真を、アルバムジャケットに使いたい」という連絡が入った。「僕も気に入っていたカットだったので、すごく嬉しかったのを覚えています」