写真家・鋤田正義を追ったドキュメンタリー映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』が公開になる。数々の著名人に彩られたその創作人生とデヴィッド・ボウイとの秘話について、改めて鋤田本人が語った

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 自身の写真展にて、ボウイについて語る鋤田

自身の写真展にて、ボウイについて語る鋤田

 この写真を鋤田が気に入っている理由はほかにもある。「このときは、夢中になってたくさん写真を撮ったんです。その一連の写真の中に、革ジャンの下に彼が履いた自前のスラックスが写っているものもありました」。それは“すごくボロボロ”だった。「世間の脚光を浴びた初期のころ、グラムロックの全盛期に、デザイナーの衣装を着てメイクをして、“ジギー・スターダスト”と名乗っていた彼には、こんなスラックスを履いたままカメラの前に立つなんて考えられなかったはず。やがてそのイメージを苦しみながら捨て去り、改めて自分を見直したボウイを、この写真は捉えた。メジャーだけどインディーズ的でもあり、誰かの言葉やルールに固定されない“ボウイらしさ”を、今でも僕はこの写真に感じるんです」

 ボウイの死後、鋤田は映画のカメラクルーと一緒に、英国のグラフィックデザイナー、ジョナサン・バーンブルックのアトリエを訪れた。ジョナサンはボウイのアルバム『ネクスト デイ』(2013年)のジャケットデザインを担当したデザイナーである。鋤田が撮影した『ヒーローズ』の写真に白い紙を置いてボウイの顔を隠し、白地に『ネクスト デイ』の文字を記したジャケットだ。「晩年、ボウイはこの『ヒーローズ』の写真に決別したわけです。でも、それはネガティブではなく、圧倒的なプラス思考だと思う。年をとっても、彼は新しく変わることをやめなかったのですから」

画像: (写真左から)イギー・ポップ、鋤田正義、デヴィッド・ボウイ

(写真左から)イギー・ポップ、鋤田正義、デヴィッド・ボウイ

画像: ボウイの死後、彼にゆかりのある場所を取材してまわった PHOTOGRAPHS: © 2018「SUKITA」PARTNERS

ボウイの死後、彼にゆかりのある場所を取材してまわった
PHOTOGRAPHS: © 2018「SUKITA」PARTNERS

 鋤田は今年、80歳になった。「でもまだまだいっぱいやることがあるんです」と言う。そのひとつは、日常を撮影したスナップ写真だ。「高校生の時、母にカメラを買ってもらってから60年以上も写真を撮りためています。ヨーロッパのギャラリーや美術館からも、“SUKITAのスナップ写真を見たい”という声もいただいている。ボウイを撮った男が、どんなスナップ写真を撮っているのか興味があるんでしょう」

 映画のなかでも、カメラを片手に東京の下町や生まれ故郷である福岡県直方市を撮影してまわる鋤田の姿が印象的に記録されている。「僕としては、“スナップ写真”とか“風景写真”とか“ポートレイト”とか、既存のジャンルや言葉を超えた写真を見せたい。それができるまで、腰をじっくり据えて続けようかと。ボウイもそうであったように、僕もなかなか完成されないなって、つくづく思いますね」

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
2018年5月19日(土)より、新宿武蔵館、
YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国公開
公式サイト

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.