歌舞伎ワールドへようこそ。劇場の扉、時空の扉、そして心の扉を開いて、絢爛たる異世界へと誘う連載の第三回は、尾上菊之助さんに歌舞伎舞踊の大曲『京鹿子娘道成寺』の楽しみ方をうかがった

BY MARI SHIMIZU

 美しい女方が大きな鐘の上でポーズしている姿や、衣裳が一瞬にして鮮やかに替わる様子、歌舞伎舞踊『京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)』は、写真や映像などを通してそのビジュアルを目にしている人は多いのではないだろうか。

 豊かな色彩美と心躍る音楽のなかで夢のようなひとときを味わえるその踊りは、まさに歌舞伎の華。いくつものパートが組曲のように連なりすべてを上演すれば1時間を超える大曲であることもあり、晴れの舞台で中心に立てるのは限られた者のみだ。それが歌舞伎座となればなおさらである。

画像: 『京鹿子娘道成寺』白拍子花子=尾上菊之助(2011年11月新橋演舞場) © SHOCHIKU

『京鹿子娘道成寺』白拍子花子=尾上菊之助(2011年11月新橋演舞場)
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 「團菊祭五月大歌舞伎」で歌舞伎座では初めてこの舞踊に取り組む尾上菊之助さんが、主人公である‟白拍子花子 実は清姫の霊“を初めてつとめたのは20年前のことだった。
「まずは何よりの課題は、道行(註)に始まるさまざまな踊りを最後まで踊りきる、ということでした」。所化(寺の僧)たちによる場面も挿入されているものの、メインの演者は長丁場をほぼひとりで踊りぬかなければならない。確かな技術とペース配分をコントロールできる体力が要求される踊りなのだ。

 瑞々しい若さでファースト・ステップをクリアした当時21歳の菊之助さん。だが、その2年後に、『道成寺』のバリエーションである『京鹿子娘二人道成寺(きょうかのこむすめににんどうじょうじ)』を父である尾上菊五郎さんと踊り、衝撃を受ける。
「自分の実力の至らなさを実感しました。どうすれば父のように身体を遣えるのか、細かい技術的なことを改めて教えていただきました」

画像: 五代目 尾上菊之助 © SHOCHIKU

五代目 尾上菊之助
© SHOCHIKU

 次なる課題は、衣裳や小道具を変えながら女性のさまざまな心情を見せてゆく各パートのスキルアップ。そのテクニックを身につけていくにはアスリートにも通じる修練が必要だ。菊五郎さんとの2度の舞台を経て、26歳の時には坂東玉三郎さんとの『京鹿子娘二人道成寺』を経験する。「玉三郎のおにいさんには技術に限らず、さまざまなことを教えていただきました」。そのひとつが切ない女心を描いた、「恋の手習い」という歌詞で始まるパートだ。

「自分の好きな人が隣にいるつもりで踊りなさい、というのがおにいさんの教えでした。ですからお客様には、実際にはそこに存在していない人物を想像していただけたらうれしく思います」。手ぬぐいを効果的に使っての艶やかな振りを、イマジネーション豊かに表現する鍵は歌詞にある。

 玉三郎さんから学んだ「歌詞に込められた思いを咀嚼して、身体でいかに表現できるか」は、生涯の課題だ。音楽だけでなく歌詞を意識する。それは観る側にとってもキーポイントとなる。身体表現そのものだけでなく、その奥にある世界を感じ取れればより深い感動に出会えるはずだ。

 

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