個性的な風貌と実力でフランスで絶大な人気を誇るロマン・デュリス。妻に突然家出され、仕事と子育てで孤軍奮闘する“仕事一筋でちょっとダメなところもある心優しき父親”を演じた新作について語った

BY REIKO KUBO, PORTRAIT BY MASATO SETO

 ジャック・オディアール監督の『真夜中のピアニスト』や、フランソワ・オゾン監督の『彼は秘密の女ともだち』など、複雑な役柄にも挑みながら、『スパニッシュ・アパートメント』に刻み付けたシャイな青年の雰囲気をいまだに残す俳優ロマン・デュリス。そんな彼が、久々に等身大の主人公をナチュラルな魅力全開で演じた映画『パパは奮闘中!』が現在公開中だ。

画像: ロマン・デュリス(ROMAIN DURIS) 1974年パリ生まれ。94年に『青春シンドローム』で映画界入り。以来、セドリック・クラピッシュ監督の『スパニッシュ・アパートメント』シリーズやトニー・ガトリフ監督の『ガッジョ・ディーロ』で人気を博す。またリドリー・スコットの『ゲティ家の身代金』などハリウッド映画にも進出。フランスを代表する俳優として、幅広い作品で活躍中

ロマン・デュリス(ROMAIN DURIS)
1974年パリ生まれ。94年に『青春シンドローム』で映画界入り。以来、セドリック・クラピッシュ監督の『スパニッシュ・アパートメント』シリーズやトニー・ガトリフ監督の『ガッジョ・ディーロ』で人気を博す。またリドリー・スコットの『ゲティ家の身代金』などハリウッド映画にも進出。フランスを代表する俳優として、幅広い作品で活躍中

 彼の役どころは、妻の失踪によって突然シングル・ファーザーとなったオリヴィエ。妻を案じながらも、待ったなしの子育てと仕事の板挟みに悪戦苦闘するオリヴィエの心の内を、デュリスは切実かつチャーミングに演じて観る者のハートを掴む。言葉に詰まったり、顔を赤らめたり、じつに自然なその表情は、地で演じているの!? と思うほど。彼だけでなく、突然母親に去られた兄妹役の子役も映画初出演とは思えないほど複雑や状況をのびのびと演じているし、『若い女』のレティシア・ドッシュも、まるでドキュメンタリーのように、見る者を時折はっとさせる表情を見せる。

 とはいえ、当のデュリスは「僕は常にキャラクターの背景を考え抜いて役に入るタイプなので、地で演じることなんてないよ」とさらり。「今回の芝居は、ギヨーム・セネズ監督の演出法のたまものだよ。毎朝、彼から数行のプロットをもらい、子どもたちも含めて俳優全員が共演者のセリフに耳を傾け、意見交換しながらアドリブで演じた。リスクはあるけれど、僕のような俳優も、演技初挑戦の子役も、みんな同じ条件で演技をすることで、新鮮で純粋なものが立ち現れるんだ」

画像: オンライン販売会社の巨大倉庫で働くオリヴィエは、部下からの信頼が厚い一方で、家庭のことは妻に任せっきり。ある日、妻が突然失踪し、傷ついた幼い息子と娘を抱えてシングル・ファーザーの悪戦苦闘の日々が始まる

オンライン販売会社の巨大倉庫で働くオリヴィエは、部下からの信頼が厚い一方で、家庭のことは妻に任せっきり。ある日、妻が突然失踪し、傷ついた幼い息子と娘を抱えてシングル・ファーザーの悪戦苦闘の日々が始まる

 さらに映画は、オンライン販売の出荷担当チーフとして働くオリヴィエが部下や上司と交わす会話や、24時間止まることのないベルトコンベアーとともに働く人々の風景も、さりげなくリアルに映し撮ってゆく。オリヴィエの身に起こるドラマをエモーショナルに語ることと、現代社会が抱える労働と人々に関する問題提起を同時に叶えるベルギーの新鋭ギヨーム・セネズの演出はじつに新鮮だ。

「テクニカルなことを言えば、予算の関係でセットを組むことができなかったから、稼働中の倉庫を使い、短い日数で撮影しなければならなかった。スタッフも最小限のほんの数人だけ。セネズ監督はこの低予算の状況を逆手にとって、ドキュメンタリーのような臨場感を生み出したんだ」

 実生活では9歳の息子の父親であるデュリス。撮影中は、初出演の子役たちに、ジョークを交えて助け舟を出すこともあったという。「オリヴィエの妻は理由も告げず、ある日突然、姿を消す。映画が公開されると、子どもを残して失踪する妻への批判の声がかなり聞こえてきた。男が子どもを置いて家を出る話なんてたくさんあるのに、フランスもまだまだ男女平等は遠いと感じたよ。かくいう僕も、料理は好きだけれど気が向いたらという程度だし、子どもとは一緒に絵を描いたり、遊びのほうが担当なんだけど」

画像: 息子が大切にする母からのハガキを破り捨てたり、小さな胸を痛めて口が聞けなくなった娘のカウンセリングで激高したりと、混乱するオリヴィエ。しかし、少しずつ子どもたちと向き合うことで彼自身も成長し、新たな絆を築いてゆく PHOTOGRAPHS: © 2018 IOTA PRODUCTION /LFP – LES FILMS PELLÉAS / RTBF / AUVERGNE-RHÖNE-ALPES CINÉMA

息子が大切にする母からのハガキを破り捨てたり、小さな胸を痛めて口が聞けなくなった娘のカウンセリングで激高したりと、混乱するオリヴィエ。しかし、少しずつ子どもたちと向き合うことで彼自身も成長し、新たな絆を築いてゆく
PHOTOGRAPHS: © 2018 IOTA PRODUCTION /LFP – LES FILMS PELLÉAS / RTBF / AUVERGNE-RHÖNE-ALPES CINÉMA

『青春シンドローム』の主役を探していたセドリック・クラピッシュに街頭で見出された20歳の頃は、アートスクールで学んでいたデュリス。今でも絵は個展を開くほど、継続して描いている。「俳優として25年になるけれど、世界やフランスの映画界の中で自分がどんな位置にいるのかなんてことは考えないで、できるだけシンプルに生きたいと思っている」と言う。

「時代も映画も変わった。昔ならアランドロンのような大スターがいて、確たる不動の地位を築いていたけれど、今の僕らは、ひょっとしたら明日、突然にキャリアが終わってしまうかもしれないという不安定さの中を生きている。そんな不思議な職業だから、心のバランスのためにも絵を描く時間が必要なんだ。パリでも個展をやっているけれど、次回は絵のために東京に来たいね」

 そう語りながら、人なつこい笑顔を浮かべるデュリス。『パパは奮闘中!』のラストのみずみずしさと明日への希望を増幅させたのも、この笑顔だった。

『パパは奮闘中!』
新宿武蔵野館ほか、全国順次公開中
公式サイト

 

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