ピアニストそして美術家として、挑戦的なパフォーマンスを続けてきた向井山朋子。この秋に開かれるソロ・コンサート『人生を変えてしまうメロディー』を前に、彼女が語った表現哲学

BY KANAE HASEGAWA

 オランダを拠点にピアニスト、アーティストとして活動する向井山朋子のステージは、私たちの多くが認識している演奏会のかたちを取らない。ピンヒールのごとく脚の長さを2mほどに伸ばした不安定なピアノの上で演奏することもあれば、大草原の中で弾くこともある。

画像: 《Tar and Feathers》 2006 振付家イリ・キリアンのコンテンボラリーダンス作品に、向井山はモーツァルトの曲の演奏で参加。柱のように高くそびえるピアノの脚にダンサーたちが絡む © DJH

《Tar and Feathers》 2006
振付家イリ・キリアンのコンテンボラリーダンス作品に、向井山はモーツァルトの曲の演奏で参加。柱のように高くそびえるピアノの脚にダンサーたちが絡む
© DJH

画像: 《FALLING, あいちトリエンナーレ 2013》 2013 舞台美術家のジャン・カルマンとの共同制作でサミュエル・ベケットの不条理劇から着想した作品。墓場のように夥しい量の古新聞に埋もれて放置されたピアノが姿を現すパフォーマンス/インスタレーションで、向井山は演奏ではなく、インスタレーションと音の制作を担当 COURTESY OF AICHI TRIENNALE 2013

《FALLING, あいちトリエンナーレ 2013》 2013
舞台美術家のジャン・カルマンとの共同制作でサミュエル・ベケットの不条理劇から着想した作品。墓場のように夥しい量の古新聞に埋もれて放置されたピアノが姿を現すパフォーマンス/インスタレーションで、向井山は演奏ではなく、インスタレーションと音の制作を担当
COURTESY OF AICHI TRIENNALE 2013

 彼女の演奏会では、音楽を聴く側も、決められた椅子で背筋を伸ばして聴き入るのではなく、パフォーマンス中に会場を動き回ったり、どこともなしに空いている隙間を見つけて地べたに座り込み、思い思いに音楽に触れることになる。今年、銀座「メゾンエルメス」で開催した向井山朋子の展覧会『ピアニスト』では、向井山がピアノを演奏するかたちを取っていたものの、24日間、毎日、演奏開始時刻を1時間ずつ遅くしながら執り行うというユニークな方法を採用。とくに深夜や明け方から始まるパフォーマンスでは、非日常的な時間を共有した者同士の間に、密やかな共同体意識も生まれていた。

「儀式性を大切にしたいんです。みなさん毎日それぞれの暮らしがある中、私の演奏を聴くために数時間を切り出して集ってくれる。同じ目的をもって居合わせた者だけが、時間と空間を共有できるのがパフォーマンス。ある種の儀式だと思っています」と向井山は言う。

画像: 《Show me your second face》 2007 オランダのファッションデザイナー、クラバース ファン エンゲレンが仕立てた、“ドレス”に、向井山もピアノも包まれながら演奏を行なった © SHARON YOR MOSEF

《Show me your second face》 2007
オランダのファッションデザイナー、クラバース ファン エンゲレンが仕立てた、“ドレス”に、向井山もピアノも包まれながら演奏を行なった
© SHARON YOR MOSEF

 こうした彼女の儀式的なパフォーマンスで、重要な役割をもつのが空間演出だ。2007年に行なわれた《Show me your second face》では、オランダのファッションデザイナー、クラバース ファン エンゲレンが仕立てたアドバルーンのように膨らんだ布の中で、向井山がピアノを演奏する姿がオーディエンスを釘付けにした。言っておくが向井山はピアノだけで勝負しても神がかった技の持ち主だ。なぜ、あえてピアノの技から気をそらすような舞台装置や演出を取り入れるのだろうか。

「聴くという固定観念にとらわれたくないんです。子どもの頃からピアノを演奏する中で、音を“見たい”と思うようになって、視覚的な表現を追求してきました。演奏を聴いているみなさんの脳裏に風景が立ち現れるといいなって」

 

This article is a sponsored article by
''.