ドラマ『ザ・クラウン』のチャールズ皇太子役を好演し話題をさらったジョシュ・オコナー。新作映画『帰らない日曜日』では、実力派としての実績に裏打ちされた演技で魅了する。本作への取り組みや、彼ならではの役作りの手法、そしてお気に入りの映画まで、スペシャルインタビューで若き才能の素顔に迫る!

BY KURIKO SATO

 新世代の英国若手俳優を代表するひとりとして、いま間違いなく名前が挙がるのが、ジョシュ・オコナーだろう。今年32歳を迎える彼は、フランシス・リー監督の『ゴッズ・オウン・カントリー』(2017年) で高く評価され、一躍演技派として注目を浴びる。その後2019年からNetflixの『ザ・クラウン』シリーズでチャールズ皇太子に扮し、話題沸騰。人気スターとしての地位を確立した。

画像: 新作『帰らない日曜日』では、1920年代のイギリスを舞台に、名家の跡取りポールを演じるジョシュ・オコナー

新作『帰らない日曜日』では、1920年代のイギリスを舞台に、名家の跡取りポールを演じるジョシュ・オコナー

もっとも、素顔の彼は未だに自分の人気の高さを信じられず、降って湧いた名声に戸惑っている様子だ。ポロシャツにチノパンというカジュアルなスタイルで目の前にいる彼は、エクボがチャーミングなちょっとはにかんだような微笑みを浮かべ、名声についてこう語る。

「有名になるということにはいつも戸惑いがある。自分自身は何も変わっていないのに、いきなり通りで声をかけられたりしてね。自分をスクリーンで観るのも好きじゃない。作品自体は誇りに思えたりするけれど。僕は舞台やインディペンデントな映画に興味を持っていたから、正直に言うと、『ザ・クラウン』は、最初は出演したいと思わなかった。英国の王室にはまったく関心がなかったから。でも興味深いキャラクターだったし、素晴らしいチームだからやろうと思った。こんなに僕自身が話題にされるなんて、思ってもいなかったよ」

画像: 『帰らない日曜日』の物語は、オーストラリア出身の新星オデッサ・ヤング(写真左)が演じる孤児のメイド、ジェーンの視点で描かれる

『帰らない日曜日』の物語は、オーストラリア出身の新星オデッサ・ヤング(写真左)が演じる孤児のメイド、ジェーンの視点で描かれる

 そんな彼の新作は、これまで多くの賞を授与されてきた作家、グレアム・スウィフトが1920年代のイギリスを舞台に執筆した『マザリング・サンデー』を、エヴァ・ユッソン監督が映画化した『帰らない日曜日』。名家の跡取りポールと孤児のメイド、ジェーンの禁じられた恋愛を、叙情的に美しく描く。このキャラクターに惹かれた理由は、その複雑な内面の葛藤だとオコナーは語る。

「ポールは典型的な上流階級の人間とは異なる考え方を持っている。でも2人の兄弟をともに第一次大戦で失い、跡取りとして彼にすべての責任が掛かっている。彼が本当に愛しているのはジェーンだけど、親に決められた婚約者がいて、ジェーンと一緒になることは許されない。そういう点で、彼にはつねにメランコリーが漂っている。彼にとってジェーンといるときが唯一、無邪気に幸せを感じられる瞬間なんだ」

「ポールを演じる上で一番気をつけたのは、感情を表現しすぎないこと。というのも、どんなに悲しみや困難を背負っていても、人は喜びを感じる瞬間がある一方、ポールの場合それは儚いもので、その感情の下にはつねに憂いが漂っている。そんな複雑な役を演じるのは、俳優としてとてもチャレンジングで魅力的だった」

画像: ふたりの渾身の演技による、繊細で官能的な情景も見どころのひとつ

ふたりの渾身の演技による、繊細で官能的な情景も見どころのひとつ

 本作で印象的なのは、恋人たちが一糸纏わぬ姿で語り合うラブシーンだろう。短い時間にもかかわらずそれは鮮烈な印象を残し、映画の要となっている。ヌードになることについて、戸惑いはなかったのだろうか。

「あのシーンは、服を着ているか着ていないかの問題じゃない。もっと様々な意味が含まれている。ポールは自分の空間、自分の世界でジェーンとふたり、生まれたままの姿でいることに居心地の良さを感じている。ふたりが隠れ家にいるとき、互いのエネルギーが共鳴し合う」

「僕がもうひとつ大事だと思ったことは、あの場所でジェーンは自分の階級から逃れ、まったく自由でいられること。それはポールにとっても同じで、彼が裸でいるとき、彼は自分が背負っている家柄の拘束から解放される。だから裸でいることはメタファーであり、彼らにとっては社会に対する反抗を意味している。もちろん演じるのに恐れがなかったと言ったら嘘になるけれど、とても意味のあることだと納得できた」

 役作りに時間を掛けることで知られるオコナーは、今回もまた彼なりの流儀でじっくりと役を作り上げたという。

「僕はいつもスクラップブックを作って、そこに自分がキャラクターを創造する上でインスパイアされる写真や資料を貼っていく。そうやって徐々にキャラクターのイメージや背景を作り上げていくなかで、個人的にシンパシーを感じるようになる。そのプロセスが好きなんだ」

画像: イギリスの階級社会を背景に、第一次世界大戦後の社会情勢も絡み、優雅でありながら複雑な時代を描く

イギリスの階級社会を背景に、第一次世界大戦後の社会情勢も絡み、優雅でありながら複雑な時代を描く

 母方の祖父が彫刻家、祖母が陶芸家という芸術一家の血を引いたオコナーは、彼が尊敬するダニエル・デイ=ルイスとピート・ポスルスウェイトの出身校である、ブリストルのシアタースクールで学び、卒業後、本格的に演劇の道を志す。その後テレビや『シンデレラ』(2015年)、『マダム・フローレンス!夢見るふたり』(2016年) といった映画にも出演するうちに、フランシス・リーの目に留まり、『ゴッズ・オウン・カントリー』に抜擢された。

画像: 主演の若いふたりに加え、コリン・ファース(写真左)、オリビア・コールマン(写真右)という、英国屈指のベテラン演技派も脇を固める。 PHOTOGRAPHS: ©CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9FILMS SUNDAY LIMITED 2021

主演の若いふたりに加え、コリン・ファース(写真左)、オリビア・コールマン(写真右)という、英国屈指のベテラン演技派も脇を固める。

PHOTOGRAPHS: ©CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9FILMS SUNDAY LIMITED 2021

 そんな彼に映画の好みを尋ねると、かなり通な答えが返ってきた。
「僕は芝居の世界から入ったから、映画を観始めたのは遅い。覚えているのは17か18歳の頃、『ブルーバレンタイン』(2010年) を観て、衝撃を受けたことだ。また俳優になりたいと思ったきっかけの1本が、レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』(1991年) 。この作品のドニ・ラヴァンに圧倒された。あとすぐに思いつくのは、『父の祈りを』(1993年) 、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)、『大人は判ってくれない』(1959年) あたりかな。イタリアや日本の監督も好きだよ。とくに黒澤明の『生きる』(1952年) と『乱』(1985年) は僕のフェイバリットだ」
日頃からジェームズ・ボンドや、マーヴェル映画はやらないと公言しているオコナーらしい好みと言うべきか。

 本作で役者として一層深みを見せた彼に心酔しつつ、今後の活躍に更なる期待を抱かずにはいられない。

画像: 『帰らない日曜日』予告編 © CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021 www.youtube.com

『帰らない日曜日』予告編
© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021

www.youtube.com

『帰らない日曜日』
2022年5月27日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
公式サイトはこちら

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