人気、実力ともにうなぎのぼりの韓国人俳優ソン・ソックをご存知だろうか。2016年にスクリーンデビューし、現在39歳のソン・ソックはその高い演技力と独特の色気から一躍注目の的に。一見薄っぺらく思えるような人物像も、彼が演じると奥行きを感じさせ魅力的に映る。チェ・ウシクと主演するNetflix新シリーズ「殺人者〇ナンガム」の出演も決まり、飛ぶ鳥を落とす勢いのソン・ソックの代表作を紹介する

BY KANA ENDO

空虚な日常からの解放を描いた『私の解放日誌』

 ヨム・ミジョンは3兄弟の末っ子で、姉のギジョン、兄のチャンヒ、小さな工場を営む兼業農家の両親とともにソウルの郊外で暮らしている。3人ともバスと電車を乗り継ぎ片道1時間半をかけてソウルに通勤し、休日は農業を手伝うという毎日に疲れ果てていた。そんな一家の元に、クと名乗る男(ソン・ソック)が現れ父親の工場で働き始める。一家の隣に住むクは、たびたびヨム家と食事をともにするが、言葉を交わすことはなく下の名前すら名乗らない。だが、ミジョンはある事情で、クに頼らざるを得なくなり、少しずつコミュニケーションを取るように。不幸ではないけれど幸せでもない日々。生きる意味がわからず、このままだと息が詰まりそうと感じたミジョンは、自分を解き放つために解放日誌をつけ始め、クと不思議な関係を築き始める。

画像: 脚本は『マイ ディア ミスター 〜私のおじさん〜』のパク・ヘヨン。ミジョン(写真中央)を演じるのは『太陽の末裔』で注目されたキム・ジウォン ©NETFLIX

脚本は『マイ ディア ミスター 〜私のおじさん〜』のパク・ヘヨン。ミジョン(写真中央)を演じるのは『太陽の末裔』で注目されたキム・ジウォン
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 ミジョンは会社でも家族といても物静か。口を開けば文句を言う兄弟や母親とは正反対の性格で、その姿からは人生への諦めすら感じる。「あらゆる人間関係が労働のように感じ、心から好きな人がいない。家族ですら嫌なところがある」と語るミジョンだが、そんな毎日を変えようと、ある時解放日誌に「好きな人を作ってみようと思う。その人の言動にいちいち心を乱されることなく、ただ単に好きになってみようと思う」と書き綴る。そして彼女は突然クに「わたしをあがめて」という。「わたしは満たされたことがない。だからわたしをあがめて満たして」と。最初は、ミジョンの言う「あがめる」が一体どういうことなのか理解できなかったが、物語が進むにつれ、彼女の言う「あがめる」とは、容姿や経歴や言動などに影響されることなく、ただその人に寄り添い続けることなのではないかと思った。ミジョンは、酒浸りのクに飲むのをやめろとは言わないし、彼の過去も聞かない。どこかに行ってしまっても追いかけないという。クもミジョンの話に意見を言うこともなくただ聞き続ける。恋人とも友達とも異なる関係のふたりは、互いに依存することなく、でもお互いを補完していくことで、辛い日々から徐々に解放されていく。

 本作でソン・ソックが演じたクは、物語前半は言葉少なくその佇まいや目線で魅せていくが、後半になると暴力性や色気、危険な香りをまとい人格がガラッと変わる。だが、ミジョンといる時だけは以前の飾らないクに戻り、その二面性ある見事な演技力に感心する。登場人物たちが、自分自身と自分を取り巻くすべての抑圧からの解放されていく過程を丁寧に描いた本作は、哲学的で詩のような言葉使いや、多くを語らずいい意味で不親切なストーリー展開が、多くの韓国ドラマとは一線を画す。派手さはないものの、滋味深い味わいがあり、解釈の仕方は観る人それぞれで異なるだろう。現代人の心の隙間にすっと入り込む魔性の魅力を秘めた『私の解放日誌』は、間違いなくソン・ソックを代表する作品になるはずだ。

画像: 駅や会社でミジョンを待つ所在なげなクや「ヨム・ミジョン!」と大声で叫ぶクの姿は萌えポイント ©NETFLIX

駅や会社でミジョンを待つ所在なげなクや「ヨム・ミジョン!」と大声で叫ぶクの姿は萌えポイント
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画像: Netflixシリーズ『私の解放日誌』 独占配信中 ©NETFLIX  公式サイトはこちら

Netflixシリーズ『私の解放日誌』
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ホモソーシャルにより生じる生きづらさに斬り込む『D.P. -脱走兵追跡官-』

 兵役義務を全うするため軍に入隊したアン・ジュノ。入隊早々「顔が気に入らない」と先輩にケチを付けられ、厳しい上下関係の洗礼を受けそうになるが、すんでのところで難を逃れ、「D.P.」に配属される。D.P.とは「Deserter Pursuit」の略で、韓国軍に実際にある部隊。軍隊から脱走した兵を見つけ、無事に連れて帰ることが任務だ。アン・ジュノは先輩のハン・ホユルと二人で街へ出て脱走兵を探すが、そこには脱走するに至ったさまざまな事情が垣間見える。金銭問題や家族の介護、そして壮絶なイジメを苦に脱走した兵士たち。彼らの本心を知り、複雑な心境のなか任務にあたっていくアン・ジュノだが……。

画像: 原作はWEB漫画で、原作者の実体験が元になっている。アン・ジュノ(写真手前)を演じるのは『スノードロップ』でBLACKPINKのジスと共演したチョン・ヘイン ©NETFLIX

原作はWEB漫画で、原作者の実体験が元になっている。アン・ジュノ(写真手前)を演じるのは『スノードロップ』でBLACKPINKのジスと共演したチョン・ヘイン
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 探偵もののようにテンポよく展開していくストーリーだが、背景にチラつくのはホモソーシャル社会が生み出した歪みだ。特に軍隊という場では、体格が良い者や権力をもつ者が上に立ちやすい状況にある。集団生活により強い同調圧力が生まれ、少数派は力で押さえつけられてしまう。入隊するまでは漫画学校の先生として、生徒たちから絶大な人気のあったソクポンが、軍隊では馬鹿にされ凄惨なイジメを受ける。心優しい彼が豹変していく様に胸が締めつけられる。また彼らを指導する立場の上層部は、自分の出世に響く問題は隠蔽しようとし、その上の長官は警察と手柄を巡って無意味な対立をしている。マチズモによりすべての歯車が噛み合わず、皆が生きづらさを感じてしまっている。言うまでもなく、これは韓国軍隊に限った問題ではない。会社や学校、家族内であっても起こりうることだ。こういった社会の闇にスポットライトを当てた作品を通じて、皆が生きやすい社会に少しでも変わっていくことに期待したい。

画像: ソン・ソックは大尉のイム・ジソプを好演。上官の顔色をうかがい同僚をライバル視するいけ好かない人物かと思いきや……。先ごろシーズン2の主要キャストが披露され、ソン・ソックも出演することが発表された ©NETFLIX

ソン・ソックは大尉のイム・ジソプを好演。上官の顔色をうかがい同僚をライバル視するいけ好かない人物かと思いきや……。先ごろシーズン2の主要キャストが披露され、ソン・ソックも出演することが発表された
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画像: Netflixシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』 独占配信中 ©NETFLIX  公式サイトはこちら

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スカッと爽快なブロックバスター大作『犯罪都市 THE ROUNDUP』

 その豪腕ぶりで知られる刑事マ・ソクトは、ベトナムで自首した韓国人逃亡犯を引き取るためホーチミンへ向かった。だが、良心の呵責から自首したと供述する犯人を不審に思い、独自に捜査を開始すると、カン・ヘサンという人物(ソン・ソック)に命を狙われていることが判明する。加えて、多くの韓国人がベトナムで行方不明になっていること分かり、それらの裏にカン・ヘサンが絡んでいると踏んだマ・ソクトは、カンを追い詰めるもギリギリのところで逃げられてしまう。その後カンが韓国へ渡ったという情報を掴み、マ刑事もソウルへ戻るが事態は思わぬ展開をみせる。

画像: マ・ソクトを演じるのはマブリーの愛称で知られるマ・ドンソク(写真右)。『新感染 ファイナル・エクスプレス』や『悪人伝』、前作の『犯罪都市』で見せたとびきりのアクションは本作でも健在だ ©ABO ENTERTAINMENT CO.,LTD. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION

マ・ソクトを演じるのはマブリーの愛称で知られるマ・ドンソク(写真右)。『新感染 ファイナル・エクスプレス』や『悪人伝』、前作の『犯罪都市』で見せたとびきりのアクションは本作でも健在だ 
©ABO ENTERTAINMENT CO.,LTD. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION

 前作『犯罪都市』から5年、衿川(クムチョン)署の刑事たちが帰ってきた。痛快なバイオレンスアクション要素はそのままに、新たな刺客ソン・ソックの狂人ぶりが作品を盛り上げる。まるでアヴェンジャーズの超人ハルクのような屈強な肉体をもちながらもどこかチャーミングなマ・ドンソクと、目線だけで人を殺めてしまいそうな殺気立ったソン・ソックの対比が見事。勧善懲悪が気持ちよく、緊迫したカーチェイスやアクションシーンにも思わず笑ってしまうユーモアが散りばめてあり、観客を飽きさせない。前作から引き続き登場するキャラクターも多いので、配信などで前作を観てからの劇場鑑賞がオススメ。韓国で観客動員1,200万人を突破し、韓国人の5人に1人が観たというのも納得のブロックバスター大作だ。

画像: 極悪非道なカン・ヘサンを演じたソン・ソック。理不尽極まりない悪い男は、ソン・ソックのはまり役 ©ABO ENTERTAINMENT CO.,LTD. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION

極悪非道なカン・ヘサンを演じたソン・ソック。理不尽極まりない悪い男は、ソン・ソックのはまり役 
©ABO ENTERTAINMENT CO.,LTD. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION

画像: 『犯罪都市 THE ROUNDUP』 2022年11月3日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開予定 配給:HIAN ©ABO Entertainment Co.,Ltd. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION 公式サイトはこちら

『犯罪都市 THE ROUNDUP』
2022年11月3日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開予定
配給:HIAN
©ABO Entertainment Co.,Ltd. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION

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*今回紹介している作品の配信状況は2022年9月25日時点のものです。

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