BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY MASATOMO MORIYAMA
着物や帯として輝くメコン国の布
発展途上国のために、たとえ小さな一歩でも自分でできることは何か……。当時20代だったキャビンアテンダントの頃から、アジアの国々に関心を寄せてきた江波戸さん。友人とはじめたアパレルブランドを解散した後、寄せては返す思いと向き合った。JETROで開催された「メコンの国の布」というイベントで、運命の出会いがある。ラオスやカンボジアの工房で、昔ながらの手織りで生み出された布に魅せられた。手紡ぎ糸の控えめな光沢と独特の色彩感覚が織りなす、素朴でありながら温かみのある風合いに江波戸さんは未来を感じた。
さっそく現地を訪れて工房見学をするなかで、配色を少し変えるだけでプリミティブな印象がぐっと洗練されたものになると直感。オリジナルの布を織ってもらう約束をとりつけ、メコンの国の布との歩みがスタートした。
最初に取り扱ったのは、カンボジアの人々が帽子がわりに頭に巻いたり、首元にあしらって楽しんでいる「クロマー」と呼ばれる木綿のストール。広幅の布からはインテリア小物を誂えて販売した。年に1度は現地を訪れ手仕事を間近に見るうちに、あるアイディアが閃く。経糸と緯糸の奥行きのある諧調によって生まれる美しさが、着物に通じる、と。発想の源は、偶然目にした作家の椎名誠さんの夫人・渡辺一枝さんの記事だった。椎名さんとともに世界を無尽に駆け巡りながら「日本に帰ってきたら着物で過ごす」という渡辺さんの言葉に触発され、着付けの高等師範の免許を取得。現地と交渉を重ね、長さ約12.5m×幅約38cmの着尺を織ってもらうことにこぎつけた。さらに、インテリア小物を誂えた際の余り裂からはパッチワークの半幅帯や草履の鼻緒を作るなど、布の命を無駄なく使い切る江波戸ワールドを次々と展開。今では、他にはないカジュアル着物のブランドとして知られるまでに。
“只好”に誘われたアウトサイダーアート
江波戸さんとアウトサイダーアートとの出会いは20年以上前に遡る。雑誌で鹿児島の障害者支援センター「しょうぶ学園」のART&CRAFTの特集を見つけ、「これは凄い!」と興奮を覚える。これまでの例に漏れず、即座に電話で問い合わせ、現地を訪れる。「誤解のないように敢えて言うなら、障害者がつくるものだから目を引いたのではありません。作品の力に圧倒されて文章を読んだら、たまたまアウトサイダーアートだったというだけ。私を含め、人間は誰だって偏った部分をもっているもの。ただ、偏りの振り幅が大きいというだけ。人間でもアートでも、常識の枠をはみだした感性に不思議と惹かれます」
2012年には、しょうぶ学園の利用者26人を葉山に招き、展覧会を開催した。彼らの交通費や宿泊費を捻出するために、しょうぶ学園の施設長である福森 伸さんと中村好文さん、そして中村さんの声がけによってミナペルホネンの皆川 明さんも招き、三人の鼎談を実現。葉山町にある定員500名の福祉会館で立ち見が出るほど大きな反響を呼んだ。
しょうぶ学園との縁を機に、他にも同じような志を持つ施設があることを知った江波戸さんは、まずは自ら直接現地を訪れる。運営者と対話をして、自身の目で作品を選ぶ。個人の所蔵として楽しむ作品もあれば、企画展として多くの人と分かち合う機会を作ることもある。「使命感や義務感ではなく、あくまでも自分が好きなだけ。相手にも無理させることなく、自然な形で縁が広がることが理想」と語る。今後の夢を伺うと、かつて一緒にブランドを立ち上げた友人たちと一緒に、近い将来、イタリアに拠点を持つことだという。彼の地で、どんな“只好”を見つけて私たちに披露してくれるのか……。その一報を今から心待ちにしたい。
江波戸玲子(えばとれいこ)
「PONNALET(ポンナレット)」主宰。ラオスやカンボジアなど、メコンの国の手織り布からオリジナルの着尺、帯、小物を制作。葉山のアトリエ「PONNALET 葉山の家」を中心に、日本全国のギャラリーやイベントにて展示販売。着付け教室「風雅会」も開催。http://www.ponnalet.com