改善されてきてはいるものの、女性は虐げられたり、身の危険を感じたり、歯を食いしばりながら笑顔をつくらなければならない状況も依然と存在する。しかし強く生きる女性たちの姿にエンパワーされ、困っている人に心を寄せ助け合うことで、女性を取り巻く環境はきっと良い方向へ変わっていくはずだ。今月は、マフィア一族の中で必死に生きる母親、国家と対峙するキャリア女性、共依存する姉妹をフィーチャーしたドラマをお届けする

BY KANA ENDO

マフィア一族のなかで生きていくしかなかった母親たちの葛藤を描く『THE GOOD MOTHERS』

 ジャーナリストのアレックス・ペリーによる同名のノンフィクション小説を基に制作された、イタリアのドラマ。イタリア4大マフィア組織の一つでカラブリア州を拠点にしている“ンドランゲダ”は、暴力的で卑劣かつ最も裕福な組織として恐れられていた。新しく検察官に任命されたアンナ・コレスは、“ンドランゲタ”を撲滅させるため、組織内の女性たちに照準を合わせた戦略をたてる。一族に嫁いだ女性や娘として生を受けた女性など、マフィア一族としての生活を余儀なくされた3人の女性に証人保護プログラムを受けるように説得する。彼女たちとその子供たちを組織から脱出させるとともに、権力構造を弱体化させ、内部から組織を崩壊させようとするのだが。

画像: 左から、組織の中心カルロ・コスコの娘のデニス、ジュゼッピーナ・ペッシェ、検察官アンナ・コレス、マリア・コンチェッタ・カッチョラ、デニスの母親レア・ガロファロ。彼女たちを中心にストーリーは描かれる © 2023 DISNEY AND ITS RELATED ENTITIES.

左から、組織の中心カルロ・コスコの娘のデニス、ジュゼッピーナ・ペッシェ、検察官アンナ・コレス、マリア・コンチェッタ・カッチョラ、デニスの母親レア・ガロファロ。彼女たちを中心にストーリーは描かれる

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 本作は2010年という設定だが、文明化された社会の話とは思えないほど、マフィア一族の中は完全に男性優位社会で、女性は結婚によりファミリー同士の絆を深める道具や財産としてしかみなされていない。マリアとジュゼッピーナは若くして子供を生み、夫は収監中。暴力的な義父や冷酷な義母に虐げられ、外出する自由や携帯電話を使う自由も奪われながら、子どもたちだけを希望の灯火にして暮らしている。組織の権力者の娘デニスの母・レアは証人として生きる道を選んだが、各地を転々とする生活が娘のためにならないと、夫の元に戻ってしまう。

 そこに手を差し伸べたのが、検察官のアンナだったが、この証人保護プログラムが不完全。外部と接触できてしまったり、後をつけられたりと安全性に欠け、不自由な生活に子どもたちは元の家に戻りたいと言い始める。女性たちを救い、悪を崩壊させるために闘うアンナの戦略は素晴らしいが、相手も死にものぐるいで攻めてくる。子どもたちのために死をも恐れず闘った3人の母親たちだが、その呪いのような鎖から簡単には解放されない。また世界にはマフィアだけではなく、DVや劣悪な職場などから抜け出せない女性たちや子供たちも多くいる。本作は、そういったコミュニティから抜け出すことがいかに難しいかを伝えてくれる。

画像: The Good Mothers | Official Trailer | Hulu 監督は「ザ・クラウン」シリーズのジュリアン・ジャロルドと若手のエリサ・アモルーゾ © 2023 DISNEY AND ITS RELATED ENTITIES.  www.youtube.com

The Good Mothers | Official Trailer | Hulu
監督は「ザ・クラウン」シリーズのジュリアン・ジャロルドと若手のエリサ・アモルーゾ
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『The Good Mothers』
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『HOMELAND』好きにおすすめ! 現代の国際情勢を描いた政治サスペンス『ザ・ディプロマット』

 カブールに外交官として赴任する予定だったケイトだが、イラン沖で英国空母が爆破される事件が起き、空席だったポストの駐英米国大使に急遽就任することに。これまで中東地域で優れた手腕を発揮してきたが、マナーを重んじるイギリスでは勝手が違い戸惑いを見せる。イランが犯人だと決めつけ報復しようとするイギリス首相、それに同調しようとするアメリカ大統領を前に、中東で培った人脈と持ち前の機転を利かせ、首相と大統領に考えを改めるよう説得する。CIAやイギリス外務大臣、影で糸を引く者たちと協力しながら、一触即発状態のなか、巧妙な駆け引きが始まる。

画像: ケイト・ワイラーをディズニー・チャンネル出身のケリー・ラッセル、夫のハル・ワイラーを『オールド』、『ファーザー』などのルーファス・シーウェルが演じる。ケリー・ラッセルは製作総指揮としても名を連ねている ©NETFLIX

ケイト・ワイラーをディズニー・チャンネル出身のケリー・ラッセル、夫のハル・ワイラーを『オールド』、『ファーザー』などのルーファス・シーウェルが演じる。ケリー・ラッセルは製作総指揮としても名を連ねている

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 本作は、人気シリーズ『グレイズ・アナトミー』『HOMELAND/ホームランド』を手掛けたデボラ・カーンがショーランナーを務めることから、配信前から話題になっていた。アメリカ、イギリス、イラン、ロシアなどの代表や、外相、暗躍者など、それぞれの思惑が錯綜し、状況は刻一刻変化する。スピード感を持って展開していくので、ストーリーについていくのが大変な部分もあるが、これこそリアルな描写なのだろう。中東では、危険を顧みず体当たりで活躍してきたケイトだったが、駐英大使となると着飾って雑誌のインタビューに応じたり、腹の探り合いをしたり、挙句の果てには政治の世界へ引きずり込まれそうになったりと現場以外の仕事に辟易しながらも、手腕を発揮し手に汗握る状況を見事に切り抜けていく。夫のハルとは離婚寸前という設定だが、仲が悪いわけではなく親友や相棒のような関係性で、従来の離婚寸前カップルとは異なる描かれ方で好感が持てる。

 またロシアによるウクライナ侵攻などの時事ネタも盛り込まれ、フィクションながら現実味のあるストーリーとなっている。空母の爆破の首謀者は誰なのか、ケイトの大使抜擢の裏に見え隠れする思惑や、ハルの怪しげな動きなど、回収されていない伏線も多数あるので、シーズン2の配信が待ち遠しい。

画像: ホワイトハウス首席補佐官のビリー(左、ナナ・メンサー)やCIAロンドン支局長のエイドラ(右、アリ・アン)などのデキる女性たちがケイトをサポートするシスターフッド要素も見逃せない ©NETFLIX

ホワイトハウス首席補佐官のビリー(左、ナナ・メンサー)やCIAロンドン支局長のエイドラ(右、アリ・アン)などのデキる女性たちがケイトをサポートするシスターフッド要素も見逃せない

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画像: Netflixシリーズ『ザ・ディプロマット』 シーズン1独占配信中 ©NETFLIX 公式サイトはこちら

Netflixシリーズ『ザ・ディプロマット』
シーズン1独占配信中
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同名映画のリメイク、レイチェル・ワイズの怪演が冴えわたるサイコ・スリラー『戦慄の絆』

 ボディーホラーの巨匠、デヴィッド・クローネンバーグ監督による1988年公開の同名映画を基に制作されたドラマ。映画版では双子のマントル兄弟が主人公だったが、本ドラマでは双子のマントル姉妹が主人公となった。エリオットとビヴァリーは一卵性双生児の産婦人科医。姉であるエリオットは、奔放で自己主張が強く、ドラッグやアルコールに依存し、倫理的にアウトな不妊治療の研究に勤しんでいる。一方、妹のビヴァリーは、内向的で真面目。すべての女性に心を寄せ、彼女たちを力づけ支えることができる理想的な出産システムの構築を目指している。プロセスは異なるものの、二人は妊娠、出産、不妊など女性のヘルスケアをより安全で快適にするべく、先進的な出産センターを創設するために投資家を探していた。ある日、ビヴァリーは診察に訪れた女優のジュネヴィーヴと恋に落ちる。それまで何もかも一緒だった双子だが、ジュネヴィーヴの登場で、その均衡が崩れていく。

画像: 映画版のジェレミー・アイアンズと同じように、本作の双子もレイチェル・ワイズが一人で演じ分けている。髪をおろしているのが姉のエリオット、まとめているのが妹のビヴァリー  © AMAZON STUDIOS

映画版のジェレミー・アイアンズと同じように、本作の双子もレイチェル・ワイズが一人で演じ分けている。髪をおろしているのが姉のエリオット、まとめているのが妹のビヴァリー

 
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 目を覆いたくなるような生々しいシーンや、双子の共依存の不穏さが際立つが、サブテーマである現代を生きる女性の身体を巡る問題にも注目してほしい。ドラマ版は主人公を女性にしたことにより、ストーリーが奥深く多面的に仕上がったのではないだろうか。裕福な人のためだけのシステムになっている代理母や、出産の苦痛、妊娠できる年齢など、すべての女性が直面する不安や悩み、恐怖と屈辱を強いる旧態依然とした出産システムの問題が説得力をもって描かれる。さらに野心的な投資家を巻き込み、事業として成功させていくという女性の起業モノとなっているのも秀逸だ。

 映画版から引き継がれた赤の手術着や姉妹の住居、出産センターのスタイリッシュさ、そして何より一人二役を演じたレイチェル・ワイズの演技が素晴らしい。まずワイズは、エリオットとしてビヴァリーの代役とともにシーンを撮影し、ヘアメイクを変えた後、同じシーンのビヴァリーパートを演じたそう。その際、イヤピースを付けエリオットのセリフを聞きながら演技をしたという。ストーリーやエンディングは映画版とは異なるが、ところどころ映画版へのオマージュも見られ、原作映画ファンも楽しめる内容となっている。激しく残酷なシーンも多いので、食事中の鑑賞はおすすめしない。

画像: ジュネヴィーヴ役は『アンブレラ・アカデミー』のブリトニー・オールドフォードが演じた © AMAZON STUDIOS

ジュネヴィーヴ役は『アンブレラ・アカデミー』のブリトニー・オールドフォードが演じた

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画像: 『戦慄の絆』 Prime Videoで独占配信中 © AMAZON STUDIOS 公式サイトはこちら

『戦慄の絆』
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