発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選!

BY REIKO KUBO

スコセッシ、ディカプリオ、デ・ニーロの豪華タッグで早くもアカデミー賞の有力候補!禁酒法時代の重厚な人間ドラマ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

画像: レオナルド・ディカプリオ演じるアーネスト(右)は、先住民族のモーリー(リリー・グラッドストーン)と恋に落ちて夫婦となるが、周囲で不可解な殺人事件が起きはじめる 画像提供 Apple TV+

レオナルド・ディカプリオ演じるアーネスト(右)は、先住民族のモーリー(リリー・グラッドストーン)と恋に落ちて夫婦となるが、周囲で不可解な殺人事件が起きはじめる

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 監督マーティン・スコセッシとレオナルド・ディカプリオ、そしてロバート・デニーロが三者のタッグを叶えた、禁酒法時代のアメリカの暗部に迫る話題作。19 世紀後半、アメリカ先住民族のオセージ族が強制移住させられたオクラホマ州の痩せた土地から原油が湧き出す。賢い部族長のもと、石油採掘権のリース料が部族に入ることで、オセージ族は白人との結婚や、白人を使用人として雇うことも可能な富裕層になっていた。ところが1920年代、部族の女性アナが失踪し、家族が次々と不可解な死を遂げる。この部族の理解者として尊敬を集める牧場主(デ・ニーロ)の甥アーネスト(ディカプリオ)は、叔父の勧めに従いアナの妹モーリー(リリー・グラッドストーン)と結婚していた。

画像: アーネスト(ディカプリオ/右)の叔父で地元の有力者を演じるのは、スコセッシ監督の盟友でもあるロバート・デ・ニーロ(中央) 画像提供 Apple TV+

アーネスト(ディカプリオ/右)の叔父で地元の有力者を演じるのは、スコセッシ監督の盟友でもあるロバート・デ・ニーロ(中央)

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 100年前の事件を追った原作のノンフィクションでは、後のFBI長官フーバーの命を受けて現地入りした特別捜査官トム・ホワイトの事件究明に焦点が当てられているが、監督スコセッシはモーリーとアーネストを中心に据えて、人種差別によって蹂躙された先住民族とその文化を浮かび上げながら、荒野に渦巻く愛と欲望の物語を描き出す。人間の弱さ、愚かさ、心の隅に残る無邪気さと真摯に向き合うディカプリオ。長いキャリアの中で演じ続けてきた人間の闇と欲望を、いぶし銀の技で表現するデ・ニーロ。そして漆黒の瞳で宿命を見据え、崇高な美しさを湛えたグラッドストーンもアカデミー賞候補の呼び声も高い。

画像: 映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ファイナル予告 youtu.be

映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ファイナル予告

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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
10月20日(金)全世界同時公開
公式サイトはこちら

1930年代のパリを舞台に、女性たちが生き抜くために頭脳戦で繰り広げる痛快なクライムミステリー『私がやりました』

画像: 新人弁護士のポーリーヌ(レベッカ・マルデール/左)、駆け出し女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ /右)の若手陣に、かつての大女優を演じるイザベル・ユペール(中央)が更なる華やぎと円熟味を添える 2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

新人弁護士のポーリーヌ(レベッカ・マルデール/左)、駆け出し女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ /右)の若手陣に、かつての大女優を演じるイザベル・ユペール(中央)が更なる華やぎと円熟味を添える

2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

 1935年のパリで、家賃5ヶ月分を滞納しながら、屋根裏部屋をシェアして暮らしている金欠女子ふたり。マドレーヌはブロンドのセクシーな駆け出し女優、ブルネットのポリーヌは苦学生風の新人弁護士。ある日、マドレーヌは有名プロデューサーから役と引き換えに愛人契約を迫られ、襲い掛かった男を殴りつけて逃げ帰ると、恋人の御曹司アンドレからは「持参金つきの富豪の娘と結婚するけど、君との関係は今まで通り」と失礼極まりない宣言を聞く羽目に。

 さらにプロデューサーが何者かに射殺され、その嫌疑がマドレーヌにかけられることに。法廷では、弁護に立ったポーリーヌの一計で、名誉と操を守るため正当防衛でプロデューサーを撃ったと証言を翻し、さすがは女優のマドレーヌが涙を誘う大芝居を打ち、詰めかけた傍聴人の喝采を浴びる。ついに無罪を勝ち取った2人は時代の寵児となり、アール・デコの豪華なアパルトマンでの生活を手に入れるが……。

画像: 女性たちの社会的地位もまだ確立されていない1930年代のフランスを舞台に、たくましく生きる女性たちの姿が痛快だ  © 2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

女性たちの社会的地位もまだ確立されていない1930年代のフランスを舞台に、たくましく生きる女性たちの姿が痛快だ

© 2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

 女性に参政権もなく、社会階級が違えば愛人の立場に甘んじるしかなかった当時のフランス社会を背景に、人気監督フランソワ・オゾンが1930年代のコメディ映画への愛を詰め込み、#MeTooから端を発するスクリューボール・コメディを奏でてみせる。マドレーヌ役には『悪なき殺人』等のナディア・テレスキウィッツ。秘めた思いを滲ませるポーリーヌには、『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』でも女性のために戦った人権弁護士を演じたレベッカ・マルデール。後半に、サイレント映画女優として登場して場をさらうのはイザベル・ユペール。彼女たちの共犯を、ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエら、フランス映画界の芸達者たちが盛り立てる。

画像: 映画『私がやりました』本予告 youtu.be

映画『私がやりました』本予告

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『私がやりました』
11月3日(金・祝) 、TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー
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都会から田舎の生活に憧れて移住した先に待ち受けていたものは──人間の暗部を炙り出す極上の心理スリラー『理想郷』

画像: フランス人夫婦アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ/左)とオルガ(マリナ・フォイス/右)は、自然に囲まれた生活に理想を描き、緑豊かなスペインのガリシア地方に移住する。しかし、ある出来事をきっかけに地元の村人たちと敵対関係に…… © Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

フランス人夫婦アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ/左)とオルガ(マリナ・フォイス/右)は、自然に囲まれた生活に理想を描き、緑豊かなスペインのガリシア地方に移住する。しかし、ある出来事をきっかけに地元の村人たちと敵対関係に……

© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

 クエンティン・タランティーノ、フランソワ・オゾン、アリ・アスター等、世界の鬼才から引っ張りだこのドゥニ・メノーシェ。丸く大きな体躯に鋭い眼光で見る者を惹きつけ、“メノーシェ映画にハズレなし!”と言わせる旬のフランス人俳優だ。そんな彼が新たに引き寄せた才能は、前作『おもかげ』で話題を呼んだロドリゴ・ソロゴイェン監督。その最新作は、1997年にスペインを震撼させた実在の事件から生まれたスリリングなドラマ。

 元教師のアントワーヌ(メノーシェ)は妻オルガ(マリナ・フォイス)とスペイン・ガリシア地方の小さな村に移住。満点の星空と山岳地帯の自然に憧れ、有機野菜を栽培し、廃墟を修復して貸別荘を営む第二の人生を夢見ていた。ところが過疎の村の住人たちは貧困にあえいでいて、とりわけ隣家の兄弟は貧しさゆえに結婚もままならず、仲睦まじいよそ者夫婦を敵視する。やがて風力発電の誘致をめぐり、一触即発の緊張関係が続き……。

画像: ドゥニ・メノーシェは本作で、昨年の東京国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞。いま最も注目を集める演技派俳優のひとりだ © Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

ドゥニ・メノーシェは本作で、昨年の東京国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞。いま最も注目を集める演技派俳優のひとりだ

© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

 自然がこの上ない贅沢と感じる都会からの移住者と、痩せた土地に縛り付けられ、希望を失った地元の人間。どこまで行っても相入れない両者の思いがぶつかり合い、いつ憎しみが爆発するのかと見る者の肝を冷やし続ける。後半で妻の行動を静かに追って夫婦の絆を浮かび上がらせるドラマは、昨年の東京国際映画祭で3冠を受賞。日本でもコロナ禍以降、移住ブームが続いているが、なんともリアルでゾクゾクさせられる心理スリラーの登場である。

画像: 『理想郷』予告編 youtu.be

『理想郷』予告編

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『理想郷』
11月3日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開
公式サイトはこちら

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