直近では待望の続編『おっさんずラブ−リターンズ−』など次々と話題作に出演し、演じた役の数だけ新たな魅力を見せてくれる林遣都。次に挑むのは初舞台から8年ぶりとなる倉持裕作・演出の『帰れない男〜慰留と斡旋の攻防〜』だ。“舞台”に立つことの意味について語る

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

画像1: 林遣都——不安や怖さを感じても
俳優であり続ける理由とは?

舞台の世界へと導いてくれた恩師

「自分の初舞台がこの作品でよかった。倉持さんとお会いして、この人を信じてやっていこうと思いました」と林遣都が語ったのは、2016年に上演された『家族の基礎〜大道家の人々〜』の時のこと。まずはその真意について聞いた。

林遣都(以下、林) 僕の中に、ものすごく深く刻まれている言葉があります。初めて立ち稽古をした時、倉持さんから名指しで、“映像で演じているのと同じように演じていても何も伝わらないし、それは舞台では通用しないから”という言葉をかけられました。久しぶりに浴びた厳しい言葉だったので、すごく怖かったですし、あの瞬間は今でも鮮明に覚えています。舞台に立つ上で必要なスキルがあって、それは映像とは違うスイッチがあるということなのかもしれません。まだ20代半ばだった当時の僕は、自分が俳優としてまだまだちっぽけで、お芝居を追求し続けた人たちの中に放り込まれると、何もできないということを痛感させられました。倉持さんをはじめ、そのとき共演した役者さんたちから得るものはすごく多かったです。きっとこの舞台という場所は、自分が俳優として向上できる場所だと感じたので、絶対に続けていきたいし、続けていかなければならないと思いました。

 だからこそ、久しぶりの倉持作品には期待が募る。

 普段の倉持さんはすごく温かいハートで接してくださる方です。あれから8年経ちますが、劇場や稽古場で倉持さんとお会いしたことが何度かあって、そのたびに“また、いつかやろうね”と声をかけてくださいました。本当に実現したいと思っていたので、今回のお話をいただいたときは、凄く嬉しかったです。

画像2: 林遣都——不安や怖さを感じても
俳優であり続ける理由とは?

舞台を通して本質を見抜く

 初舞台で得た学びは大きく、その後も年に一度くらいのペースで舞台作品に取り組んできた。彼にとって“舞台”とはどんな意味を持つ場所なのだろうか?

 今までにない自分の変化や、お芝居をする上で必要なスキルみたいなものが、演れば演るほど新たに身についていく、そうした自分が向上していることを一番実感できるところですね。ですから大好きなドラマの撮影も終わると寂しいのですが、次に舞台が控えているときはワクワクと解放感があって、純粋にお芝居と向き合える時間が待っていると思うと、とても充実した気持ちになれるんです。
 舞台というものは、絶対になくてはならないものだと、僕は思います。倉持さんの本を読んでいても、登場人物について細かい説明や描写がなくても、演じる側と観る側の想像力でどんどん世界が広がっていきますし、劇場という空間でそれを共有できることには何とも言えない魅力があります。僕はまだ経験が少ないですが、実際にないものを想像して気持ちを込めて演じていると、もしかしたらお客さんも同じものを感じ取ってくれているんじゃないかと思うことがあって、舞台にはそういう刺激を与えられる瞬間があります。舞台を通して本質を見ようとする。そういう場だからこそ、舞台というものを演じる側も観る側もお互いに大事にしていきたいですね。

画像3: 林遣都——不安や怖さを感じても
俳優であり続ける理由とは?

演劇を通して得た気づき

 今回倉持が書き下ろした新作は、林が演じる主人公が、ある出来事をきっかけに不思議な屋敷に誘い込まれ、屋敷の主人達からもてなされているうちに、本来の自分を見失っていく様子を描いた予測不可能の心理サスペンスだ。作品にはどんな印象を抱いたのだろう?

 読めば読むほど、人間の深い部分をえぐるようなものを感じさせてくれます。主軸にあるのは男女の一筋縄ではいかないやりとりですが、何人かの登場人物に感じるのは、人間の弱さや欲望、執着心、そして今の言葉で言えば、“マウントを取りたがる人”など……。たとえ認めたくなくても誰しも共感してしまうような一面が描かれています。でも僕はこれを負としては捉えていなくて、むしろ人間は滑稽で弱い生き物だから面白いと思います。

 さらに、林自身が自分の弱さを感じる時についても触れた。

 僕は自信のある人間ではないので、例えば、今みたいにこういう(取材の)場所で、いろんな人に囲まれて、自分の考えや価値観についてしゃべるのは、正直言って怖いです(笑)。いつまで経っても慣れないです。でも、最近になって、演じることにどうしてこんなに楽しく没頭できるのかを考えた時に気づいたことがあります。お芝居をする時は“本来の自分”ではないので、それが僕にとって居心地が良いのかもしれないです。もちろん、意図的に自分というものを投影させようと思わなくても、自分という人間の生き様は当然反映されるとは思います。演じるということは、自分の人生とは違う人生を生きているということなので、その人物に対してできる限り向き合って、自分の人生と同じように大切に生きなくてはならないと思っています。

俳優として生きる、その原動力

 演じているときは、「自分ではないものになれるから、夢中になれる」と林は語る。どんな質問にも真摯に答える姿を目にしたとき、素でいるときの彼が知りたくなった。

 常にお芝居に生かせるんじゃないかということが頭の中にあるので、リラックスできるとしたらお風呂に入る時間や、お笑いを見ている時間ですかね。何も考えずに笑わせてもらえるお笑いのチカラは、本当に素晴らしいものだと思います。何かを忘れられるという意味であれば、ディズニー作品や格闘技を見ているときも純粋に楽しめているかもしれません。

 そんな彼が、どんな試練があったとしても何が原動力となって、俳優という道を歩んでくることができたのだろうか?

 コロナ禍になったとき、俳優という仕事が求められなくなるかもしれないと思った時、僕が演じることを楽しみにしてくれている人がいることに目を向けるようになりました。それまでは僕も一人の人間なので、悩んだり、逃げ出したくなったりすることもあったんです。でも、たった一人だとしても、誰かに元気を与えることができているなら、僕は俳優でありたい。自分を肯定するきっかけをくださったのは僕の芝居を見てくれる人たちです。だからこそ僕が演じることで見る人の生活に潤いや彩りを届けたらいいなと思います。

画像: 林遣都(HAYASHI KENTO) 滋賀県生まれ。2007年に映画『バッテリー』でデビューし、同作で「第31回日本アカデミー賞」ほか、新人賞を受賞。2011年に『コヨーテ、海へ』でテレビドラマ初主演、『荒川アンダー ザ ブリッジ』で連続ドラマ初主演を果たし、以来、テレビ、映画、舞台と幅広い分野で活躍。近年では映画『隣人X -疑惑の彼女-』『身替わり忠臣蔵』、ドラマ『VIVANT』、『おっさんずラブ-リターンズ-』、舞台『浅草キッド』など出演多数 ジャケット¥63,800・シャツ¥39,600・パンツ¥37,400/YOKE ENKEL TEL. 03-6812-9897

林遣都(HAYASHI KENTO)
滋賀県生まれ。2007年に映画『バッテリー』でデビューし、同作で「第31回日本アカデミー賞」ほか、新人賞を受賞。2011年に『コヨーテ、海へ』でテレビドラマ初主演、『荒川アンダー ザ ブリッジ』で連続ドラマ初主演を果たし、以来、テレビ、映画、舞台と幅広い分野で活躍。近年では映画『隣人X -疑惑の彼女-』『身替わり忠臣蔵』、ドラマ『VIVANT』、『おっさんずラブ-リターンズ-』、舞台『浅草キッド』など出演多数

ジャケット¥63,800・シャツ¥39,600・パンツ¥37,400/YOKE
ENKEL TEL. 03-6812-9897

STYLED BY YOSUKE KIKUCHI, HAIR & MAKEUP BY TAZURU TAKEI (&’S MANAGEMENT)

画像4: 林遣都——不安や怖さを感じても
俳優であり続ける理由とは?

M&O plays プロデュース『帰れない男』〜慰留と斡旋の攻防〜
作・演出:倉持 裕 
出演:林 遣都 藤間爽子 柄本時生 新名基浩 佐藤直子 山崎 一

・東京公演
会場:本多劇場
上演日程:2024年4月13日〜5月6日
問合せ:M&Oplays TEL. 03-6427-9486
・名古屋公演
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
上演日程:2024年5月9日
問合せ:メ〜テレ事業 TEL. 052-331-996
・島根公演
会場:島根県民会館 大ホール
上演日程:2024年5月12日
問合せ:島根県民会館チケットコーナー TEL. 0852-22-5556
・富山公演
会場:富山県民会館ホール
上演日程:2024年5月15日
問合せ:イッセイプランニング TEL. 076-444-6666
・大阪公演
会場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
上演日程:2024年5月18、19日
問合せ:梅田芸術劇場 TEL. 06-6377-3888
・仙台公演
会場:電力ホール
上演日程:2024年5月22日
問合せ:ニイタカプラス TEL. 022-380-8251

公式サイトはこちら

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