ホロコーストを生き延びてアメリカへと渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家、ラースロー・トートの30年におよぶ人生を描く大作『ブルータリスト』 。アカデミー賞10部門ノミネートで話題を呼ぶ本作の監督ブラディ・コーベットと、主演のエイドリアン・ブロディへのインタビューが実現!

BY YUKO TAKANO

画像: 主人公ラースローを演じるのは、『戦場のピアニスト』(2002年)でアカデミー賞主演男優賞を獲得したエイドリアン・ブロディ(写真左) © DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

主人公ラースローを演じるのは、『戦場のピアニスト』(2002年)でアカデミー賞主演男優賞を獲得したエイドリアン・ブロディ(写真左)

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 完成度の高さが評価され、すでにヴェネチア国際映画祭やゴールデン・グローブ賞で栄光に輝き、本年度アカデミー賞®にも10部門でノミネートされている『ブルータリスト』。第二次世界大戦後のアメリカを背景に、ホロコースト・サバイバーである主人公ラースロー・トートの人生30年を追う壮大なドラマだ。母国ハンガリーで建築家として名をはせた主人公が、人生をゼロからやり直す苦難と葛藤を、現代の西洋建築に多大な影響を与えたブルータリズム様式に反映させて描く。

 メガホンをとるのは名子役として活躍したブラディ・コーベットで、現在ハリウッドで最も注目されている若手監督のひとりとして脚光を浴びている。20歳で監督デビューし、これまでの作品と同様に脚本家のパートナー、モナ・ファストヴォールドと共に脚本を執筆し、共作を続けている。本作はその最新作となる。

画像: 36歳の新進気鋭、ブラディ・コーベット監督。すでに本作でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞や、ゴールデングローブ賞3部門(作品賞、監督賞、主演男優賞)を受賞している © DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

36歳の新進気鋭、ブラディ・コーベット監督。すでに本作でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞や、ゴールデングローブ賞3部門(作品賞、監督賞、主演男優賞)を受賞している

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「以前から建築をテーマにした映画が作りたいと思っていた。モナの祖父や僕の叔父が建築家であったせいで。そんな僕らの環境が僕の建築への関心の引金になった。建築についての映画を作りたいと欲し、テーマの焦点を第二次世界大戦後の国民心理にしぼると決めた。その国民的心理がいかに戦後建築に大きな影響を及ぼしたかというテーマで」と発想についてコーベットは明かす。

 30年間を3章で構成した約215分の本作は、途中で休憩をはさんだ2部構成で上映される。セルロイド・フィルムを使用したパナヴィジョンや、ベータマックスなどの機材を使用した映像や、アーカイブ映像を組み合わせたりするなど、視覚的にも監督の意気込みが熱く伝わってくる。

「小説のような内容で、観客が時の流れを感じるということが重要であると考えた。編集ではそれを強く意識した。特に作品の長さというのが非常に重要であるとも感じた。というのは、最終的に映画の終わりに到達したときに感情的なカタルシスを感じることができると思うから」

画像: ラースローの苦悩を、自身の家族の経緯と重ね合わせて渾身の演技で魅了する © DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

ラースローの苦悩を、自身の家族の経緯と重ね合わせて渾身の演技で魅了する

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 主人公のラースロー・トートを演じるのはエイドリアン・ブロディ。『戦場のピアニスト』(2002年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した。本作で再度、ホロコースト・サバイバーを演じる気持ちについてこう語る。

「この2作品は全く異なる内容だし、役柄も全く違う。僕はこれまで様々な闘争に巻き込まれる役、それも変動する異なる時代の役を選び演じてきた。2作品の共通点は二人のアーティストが、過酷かつ歴史上の大きな転換期に身を置いている点だろう。(『戦場のピアニスト』の)シュピルマンを演じるときにやったリサーチや役づくりが、今回ラースローを演じるうえでの基盤になった」

 また個人的にも思い入れの強い作品でもあると続ける。

「過去のトラウマがアーティスティックな作品に多大なる影響を与えるという点は、僕が身をもって実感している。僕の母はニューヨークを起点とする素晴らしい写真家だが、子供の頃にハンガリーから逃れアメリカに渡ってきた。貧しさに耐え生活を築き上げアーティストとしての名声を獲得した。それだからこそ、この物語が自分に特別な意味を持つ現実的な体験のように感じられた。同時に多くの人にとって共感できる内容であってほしい。先祖や家族が歩まなければならなかった苦しい道について目を向けさせるような作品だから」

 第二次世界大戦終結から1980年までのラースロー・トートの人生の中で、彼が直面する数々の困難や愛する家族との絆、建築家として存在することの社会とのかかわりや人間関係など、多くの小テーマが巧みに織り込まれた脚本が物語に深みを与える。復興と再生、新しさ、強健さを目指した戦後社会の心理と指針が、現代建築物を築く体験と共鳴しているあたりに見ごたえがある。36歳にして巨匠の貫禄を感じさせる大作を完成させたコーベット監督との共作について、ブロディは熱く語る。

「奇跡的な監督だよ。目指している仕事のレベルが非常に高い。僕自身も、いつかは監督をしてみたいと感じているが、これほど質の高い映画を作れるというのは驚きだ。才能ある監督は多いし、俳優とうまくコミュニケートする技をもち、物語の表現の素晴らしさにおいても尊敬できる人も多い。だがこの映画はそういったレベルをさらに超えた高みに達していると思う。類まれな素晴らしさで、気持ちが高揚し圧倒された」

画像: 壮大なブルータリズム建築が、ラースローのたどってきた人生を映し出す © DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

壮大なブルータリズム建築が、ラースローのたどってきた人生を映し出す

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 また、個人的に建築に興味があるとも打ち明ける。

「建築に強い関心があるし、どんな家に住みたいか夢想したりする。石づくりの建築や、様々な目的で建てられたビルや、いろいろなものに興味がある。家には東洋から影響を受けたもの、仏像やインドの木製彫刻なども置いている。逆に全く異なる超モダンな建物なども好きだ。自宅には創作スペースもあって、絵を描いたり、自分で彫刻をしたりもするし。車も好きなので、リビングにバイクを置いたりしてるんだ」と自宅の様子なども明かしてくれた。

 大戦終結から80年たつ今でも、ガザ地区でのハマスとイスラエルの問題、ロシアによるウクライナ侵攻など、世界各地で戦火や紛争が止まない。母国を追われ未知の土地での生活を強いられている人は数多い。ラースロー・トートの歩みを追うことで、そのような問題について考える機会もこの映画は与えてくれる。2025年においてラースローの物語を語ることの重要性とは? ブロディが語る。

「不幸なことに、歴史は僕らが望んでいたような変化をもたらさなかった。この映画を観たことで、自分がラースローのような体験をしていなくても、彼等の状況について理解してもらえればと思う。母国での紛争や告発やその他の過酷な状況から逃れることを強いられ、新しい土地でゼロからやり直さなければならない人々について考えることは、僕にとっては重要な意味をもつことなんだ。僕自身が、移民家族のもたらした結果であるから。多くのニューヨーカーは同様だと思う。先祖の足取りを追っていけば、ほとんどの人はどこかを逃れてニューヨークに行きついた人々にたどり着くからね。だからこそエンパシー(共感する能力)がとても大切なんだよ」

画像: - YouTube youtu.be

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『ブルータリスト』
2月21日(金)より全国公開
公式サイトはこちら

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