若い女性シンガーソングライターたちのグループが、R&Bに新しい命を吹き込むことで、音楽業界の頂点に上りつめた。その軌跡をたどる。

BY ADAM BRADLEY, PHOTOGRAPHS BY D’ANGELO LOVELL WILLIAMS, STYLED BY MILTON DAVID DIXON III, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

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画像: ココ・ジョーンズ(写真左)とヴィクトリア・モネ。同じく2024年12月16日にロサンゼルスで撮影。 (左)ドレス(参考色)¥913,000・ブレスレット〈上〉(参考色)¥191,400・〈下〉¥170,500・アームアクセサリー¥143,000/グッチ グッチ クライアントサービス TEL.0120-99-2177 靴(参考商品)/クリスチャン ルブタン クリスチャン ルブタン ジャパン TEL.03-6804-2855 イヤリング・リング(ともに参考商品)/LO Collections. dinosaurdesigns.com リング(参考商品)/Dinosaur Designs dinosaurdesigns.com (右)ドレス(参考商品)/Off-White off---white.com 靴(参考商品)/Amina Muaddi. aminamuaddi.com イヤリング(参考商品)/LO Collections

ココ・ジョーンズ(写真左)とヴィクトリア・モネ。同じく2024年12月16日にロサンゼルスで撮影。

(左)ドレス(参考色)¥913,000・ブレスレット〈上〉(参考色)¥191,400・〈下〉¥170,500・アームアクセサリー¥143,000/グッチ

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 レイエズ個人のルーツは、アフリカから奴隷として強制的に各地に連行された黒人たちの歴史とつながっている(彼女の父方の祖父はコロンビアに住む黒人だった)。そんな背景をもつレイエズが、彼女が感じるブラック・アメリカン特有の音楽スタイルに尊敬の念を抱いていることに変わりはない。「私はいつもその世界におじゃまさせてもらっている存在なのだと、自分のことを認識している」と彼女は言う。そしてその世界は、地球上のあらゆる地域のアーティストたちが異なる音楽のジャンルを組み合わせて融合させることにより、広がりつつある。たとえば、タイラはR&Bとポップと南アフリカのアマピアノ(シンセサイザーを中心としたハウスミュージックの一種で、ズールー語で「複数のピアノ」を意味する)を融合させた自分の音楽を「ポピアノ」と呼んでいる。

 R&Bは根源的にはブラック・ミュージックであり、厳密に言えばブラック・アメリカンなわけだが、誰でも練習によってマスターできる音楽的要素によって構成されている。大ざっぱに言って、R&Bはリズム、真摯さ、そして卓越した技術力を重んじるジャンルだ。R&Bの中心はあくまでボーカリストたちであり、彼らがメリスマ(一音節に対し、複数の音を使って歌い上げること)やビブラート(音の高さを保ったまま音の強さを波打つように変化させること)やその他の装飾的な技術を使い、あらかじめ作られたメロディを自分流にアレンジして歌う。そんな歌い方には技術が必要だ。音域や音量、呼吸の調節、そして異なる周波数の音を同時に発するテクニックなど。R&Bは「リズム・アンド・ブルース」の略語だ。この言葉を流行(はや)らせたのは、1940年代後半に『ビルボード』誌のジャーナリストだったジェリー・ウェクスラーという名の若い白人男性だ。彼は当時「レイス・ミュージック(人種レコード)」と呼ばれていた旧態依然のカテゴリーを刷新すべく、「リズム・アンド・ブルース」を使った。

 ウェクスラーはのちに20世紀を代表する音楽プロデューサーのひとりとなった。彼と組んで作品を制作したレイ・チャールズやアレサ・フランクリンやその他の黒人アーティストたちが、ウェクスラーが惚れ込んだR&Bというジャンルに確かな輪郭を与えていった。1960年代までには、R&Bは─その形而上学的でクールで、最もとらえどころがない特質はソウルとも呼ばれた─ひとつの音楽ジャンルとして確立し、同時にアイデンティティにもなっていた。詩人のアミリ・バラカは『The Changing Same(R&B and New Black Music)』(変わりゆく変わらないもの)と題した1967年出版のエッセイで、「R&Bとは、伝統的な黒人の精神と感情に深く根ざし、そこからまっすぐに発露したものだ」と書いている。それと同じ年に、アレサ・フランクリンが「Respect」という曲を録音している。

 この「感情」とは、グレート・マイグレーションと呼ばれる、アメリカ南部の郊外から北部の都市部に何百万人もの黒人たちが大移動した時期(註:1910年代〜70年代)に、自然と定義づけられたものだ。南部の黒人たちが土曜日にジュークジョイントと呼ばれる沿道の居酒屋で歌を楽しみながら歌唱技術を磨き、日曜日にキリスト教会で讃美歌を合唱する中で、その感情は受け継がれてきた。

 音楽は政治的でもあり、アクティビズムの讃歌でもあった。サム・クックの1964年の曲「A Change is Gonna Come」(変化は必ず起こる)やロバータ・フラックがジェシー・ジャクソンとともに作詞した1971年の曲「GoUp Moses」(モーゼよ立ち上がれ)などが代表的だ。白人至上主義への潜在的な抵抗の意識は、黒人たちの複雑な心の内面や恋愛感情を歌い上げる曲の表現ににじみ出ていた。たとえばベティ・エヴェレットとジェリー・バトラーが歌った1964年の曲「Ain’t That LovingYou Baby」(それが君を愛しているっていうことさ)や、1967年発売のアレサ・フランクリンの曲「A Natural Woman(ナチュラル・ウーマン)」がそうだ。1970年代になると、魅惑的なサウンドがディスコのダンスフロアにあふれ出した。グロリア・ゲイナーの1978年の「I Will Survive(恋のサバイバル)」や同年発売のシルヴェスターの「You Make MeFee(l Mighty Real)」などの曲は、思わず腰を振って踊り出したくなるビートと確かなテクニックに裏打ちされた歌唱パフォーマンスの融合だった。

 1980年代になると、R&Bのテーマは「愛」一色になっていく。パティ・ラベルやアニタ・ベイカー、ルーサー・ヴァンドロス、ジェームス・イングラムなど多数の歌手が哀愁を込めたバラードを披露した。それがR&Bの黄金時代の幕開けで、1980年代後半から10年ほどその栄光が続いた。その時代を代表する3人の歌姫が、ホイットニー・ヒューストン、マライア・キャリー、メアリー・J.ブライジだ。特に、ブライジの音楽キャリアは、R&Bが新世紀に突入していくその方向性を示唆するものだった。もともとは伝統を重んじるタイプだったブライジ(彼女はニューヨーク州ホワイトプレインズのショッピングセンター内のカラオケブースでベイカーの曲「Caught Up in the Rapture」〈愛の歓喜に包まれて〉を歌って録音し、その実力が認められて(レコード会社との契約を勝ち取った)は、その後R&Bを変容させるきっかけとなった音の革新を喜んで受け入れていく。それはヒップホップのビートと、韻をふむという行為だった。

 R&Bとヒップホップの関係は、ラップが録音されはじめた初期の頃にさかのぼる。ヒップホップ・グループであるシュガーヒル・ギャングが、R&Bバンドであるシックの曲「Good Times(グッド・タイムス)」(1979年)のベースラインを自分たちのシングル「Rapper’s Delight」(1979年)の中に取り込み、この曲はラップの金字塔となった。

 1990年代になると、ヒップホップとR&Bのコラボレーション曲は都市部のラジオ局で大々的に流されるようになる。その代表例がブライジーーヒップホップソウルの女王――とメソッド・マンの1995年のデュエット曲「I’ll Be Therefor You/You’re All I Need to Get By」だ。ブライジが曲の中で最も印象的な部分を歌い上げ、メソッド・マンがラップの部分をたたみ込むように歌う。男女で歌う箇所がちがうという分業を行なったのだ。そして2000年代初頭までには、R&Bがラップをヒットチャートのトップに押し上げるのを助け、ビルボードの1位を、アシャンティとジャ・ルールの「Always on Time」(2001年)やケリー・ローランドとネリーの「Dilemma(ジレンマ)」(2002年)、ビヨンセとジェイ・Zの「Crazy in Love」(2003年)などが独占するようになった。

「ヒップホップにはいろんな意味で親しみを感じる。ダンスの面では特に」と語るのは、ロサンゼルスを拠点とする32歳のシンガーソングライターのティナーシェだ。彼女は「2 On」(2014年)でソロアーティストとして成功を収めた。R&Bとヒップホップを融合させた、人々の記憶に残りやすいキャッチーな曲で、ロサンゼルスのラッパー、スクールボーイQが歌う生々しいラップのフレーズがスパイスになっている。そのあとに発売された彼女の複数のアルバムも秀逸だったが、大ヒットには至らなかった。だが、昨年の夏、TikTokで彼女の曲「Nasty」(あざとい、いやらしいの意)が話題になると、すぐにチャートも制覇した。「Nasty」はヒップホップとR&Bの融合の進化を象徴している。ティナーシェは印象的なフレーズを歌うだけでなく、曲の最初から最後まで歌い、ラップし、サビの部分を叫ぶように繰り返す。かつてジャネット・ジャクソンが打ち立てた伝統をさらに拡大して引き継ぐかのように、ティナーシェは歌うだけでなく、リズム、ダンス、パフォーマンスのすべてに注力している(ジャネットは昨年のツアーでティナーシェの「Nasty」をジャネット自身の1986年のヒット曲「Nasty」に取り入れて歌い、後輩にエールを贈った)。

 ティナーシェや彼女の同業者たちの多くが歌詞を書くときに、ヒップホップから発想を得ており、スタジオでキャッチーな言葉やメロディの断片から、自由に即興で歌詞を作ったり、音をミックスさせたりしている。「ヒップホップがインスピレーション源や学びとなって、私自身の言葉にもっと流動性をもたせることができた」とジェシー・レイエズは言う。彼女はリル・ウェイン、エミネム、リコ・ナスティーなどのラッパーたちとコラボレーションしてきた経験をもつ。レイエズは、ラップに触れることで、頭韻や脚韻などの技巧や、ひとつのフレーズにいくつもの意味が込められていることなどに、より敏感になったという。レイエズは、2019年に発売されたリミックス版の「Imported」では男性R&Bシンガーの6LACK(ブラック)とデュエットし、その中で「I’ve been lying here」というフレーズが内包する複数の意味を巧みに操っている。文字どおりにとれば「私はここで寝そべっている」という意味だが、この歌詞の前には「私は酒を水のように飲む」という大胆なフレーズがあり、聴き手に対しても彼女自身に対しても、まるで虚勢を張るかのように「噓をついている」という意味にもとれる。

 そして、その後、出会ったばかりのよく知らない相手とベッドで一緒に横たわるという別の意味ももたせている。この曲の歌詞は非常に直接的なため、ここには載せられないようなフレーズも含まれているが、改めてラップの影響力の強さが読み取れる一例だ。歴史的に見ても、R&Bは上品な婉曲表現を用いることが多かった。だが、現在のR&Bアーティストたちの多くは、一般的な罵(ののし)りの言葉と、さらに、より具体的で攻撃的な言葉の両方を歌詞に織り込んでいる。「もしそういう言葉を使わなければ、もうこのジャンルでは時代遅れだと認識されてしまう感じすらある」とマニー・ロングは言う。「(リスナーに)注目してもらうためには、口が達者だと思われるような発言をしなければならない」

画像: ジャズミン・サリバン(写真左)とジェシー・レイエズ。2024年12月4 日にニューヨークで撮影。 (左)ジャケット・パンツ(ともに参考商品)/Jacquemus jacquemus.com ネックレス¥16,104,000・リング〈右手〉¥9,240,000・〈左手〉¥12,012,000(参考価格)/カルティエ カルティエ カスタマー サービスセンター TEL.0120-1847-00 (右)ブレスレット(参考商品)/Alexis Bittar. alexisbittar.com バングル(すべて参考商品)/サンローラン クライアントサービス(サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ)

ジャズミン・サリバン(写真左)とジェシー・レイエズ。2024年12月4 日にニューヨークで撮影。

(左)ジャケット・パンツ(ともに参考商品)/Jacquemus jacquemus.com

ネックレス¥16,104,000・リング〈右手〉¥9,240,000・〈左手〉¥12,012,000(参考価格)/カルティエ

カルティエ カスタマー サービスセンター
TEL.0120-1847-00

(右)ブレスレット(参考商品)/Alexis Bittar. alexisbittar.com

バングル(すべて参考商品)/サンローラン クライアントサービス(サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ)

 注目を集めて、その後もずっと注目され続けるためには、曲を短くすることも必要だ。この記事に登場する30人ほどの現代のアーティストの楽曲の平均的な長さは3 分強で、1990年代に活躍したR&B歌手たちの楽曲と比較すると丸々1 分も短い。現代の曲はよりグルーヴ重視で、過去のR&Bを特徴づけていた伝統的な構成は少なくなっている。そのあたりは、誰が歌詞を書いているのか、という点にも関係がある。アレサ・フランクリンからホイットニー・ヒューストンまで何十年にもわたって活躍したレジェンド歌手たちが、おもに他人が書いた歌詞を歌っていたのに対し、現在のアーティストのほとんどが、曲の一部にしろ全部にしろ、自分で歌詞を書いている。作詞した人、楽曲の構造を考えたり、曲の内容に関わるプロデュースに携わったりした人たちに、音楽業界がきちんと多額の対価を払うようになったというトレンド自体が、業界が変わってきた証拠だといえる。

 もちろん、このような推移は女性アーティストだけに限ったものではない。サンファ、カリード、モーゼス・サムニー、ブライソン・ティラーなどの多くの男性シンガーソングライターたちも、挑戦的で聴く者を魅了する音楽を作っている。しかし、現在、頭角を現しつつある女性アーティストたちの作品において、この動きが特に顕著なのだ。R&Bというジャンルは、長らく、愛をテーマに感情を力強く歌い上げる女性たちが活躍する場だった。それが今や、特に社会情勢が過酷だったコロナ禍の最中やその後の数年間で、メンタルヘルスに焦点をあてて内面を掘り下げる方向に変わってきた。SZAの「Kill Bil(l キル・ビル)」という2022年の曲は、あまりにヒットしたため、聴き手はその異様さをもうあまり感じなくなっている。この曲は、つまるところ、殺人をテーマにしたバラードなのだが、「元彼を殺すかも」というコーラス部分が次第に高まっていくなかで「元彼を今殺した」に変わり、曲中の主人公の精神が崩壊していく過程を描いている。彼女は「私は精神的に成熟しているから、きちんとセラピストに相談して、男性はほかにもたくさんいるから、とアドバイスしてもらった」と皮肉を交えて歌い、主人公の内面の葛藤をさらけ出す。

 レイの『My21st Century Blues』(私の21世紀ブルース)という2023年のデビューアルバムに入っている曲「Oscar Winning Tears」(オスカー受賞の涙)はそれとは対照的で、傷心から立ち直ることがテーマだ。こんな歌詞が続く。「私は無防備すぎる。切ない思いが大好きで/早急に心を開きすぎて、結局痛い思いをした」。まず、レイの声が速射砲のようなスピードで短いフレーズを繰り出し、それが次第にコーラスとなって壮大なメロディに発展していく。それがあたかも彼女が自分の内面の力を新たに発見していくプロセスのように聞こえる。これらの歌のテーマは、自分ひとりで孤立することではない。どんなにつらくても、自己を振り返り、自己を守り、自分の面倒をみるということを表現している。

 2025年の今、R&Bの現状は、さしずめ、過去と現在が混じり合い、未来の音楽のかたちを作りつつある、という感じだ。ロングは将来、R&Bが音楽業界からもっと尊敬され、注目されるようになるだろうと考えている。そしてより一層、創造的になるだろうと。

「みんながもっと冒険して新しいサウンドを探求し、もっと無防備になってほしい」と彼女は言う。「結婚式で流せるような曲を作ろう。それに踊れるパーティソングも楽しいし。ほら、クラブでかかるような曲はどう?」。ロングは最近、アトランタのストリップクラブに行ったときのことを振り返る。DJは、セクシー・レッドやボスマン・ドロウなどのヒップホップの曲だけをひたすらかけていた。そんな中、DJが、ロングの情熱的なバラード「Hrs & Hrs」をかけた途端、クラブ全体が歌い出した。「全員が歌ってた」とロングは言う。「男たち、それも、ギャングスタっぽい格好の、ほら、あらゆるギラギラの金のチェーンを首からさげて、金歯を入れたような連中まで、ひとりのこらず私の歌を歌ってた」

COCO JONES: HAIR: KALEEL JOY. MAKEUP: KENYA ALEXIS. VICTORIA MONÉT: HAIR: JSTAY READY. MAKEUP: ERNESTO CASILLAS. OPPOSITE: JAZMINE SULLIVAN: HAIR: CHRISTOPHER KYLE. MAKEUP: MARITA SALMON. JESSIE REYEZ:HER OWN HAIR AND MAKEUP. NEW YORK SHOOT PHOTO ASSISTANTS: RASHAD ROYAL, CLIFFORD PRINCE KING. TAILOR: ZUNYDA WATSON. SET DESIGNER’S ASSISTANT: RACHEL MANNELLO. STYLIST’S ASSISTANTS: OLAOLUWA OLAJIDE, RASHIED BLACK. LOS ANGELES SHOOT PHOTO ASSISTANT: RASHAD ROYAL. TAILOR: HASMIK KOURINIAN. SET DESIGNER’S ASSISTANT: BETSY COSTELLO. STYLIST’S ASSISTANTS: OLAOLUWA OLAJIDE, FRANKIE BENKOVIC

MOVEMENT DIRECTION BY JORGE DORSINVILLE. SET DESIGN BY MARTIN BOURNE. PRODUCTION BY SHAY JOHNSON STUDIO.

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