TEXT BY CHIKAYO TASHIRO
3世代にわたる家族の姿を描くヒューマンドラマ
『おつかれさま』
済州島を舞台に、主人公のエスンを中心にして、3世代にわたる家族の姿が描かれるヒューマンドラマです。序盤は1950年代から始まります。母親から「飯炊き女にはなるな」と言われて育つも、家が貧しく、いつも悔しい思いを胸に抱いてきたエスン。そんな彼女から疎まれながらもいつも助けてきたグァンシク。紆余曲折を経てお互いの想いを確認し合い結婚に至りますが、またそこからがひと苦労。でも、2人はお互いがお互いの一番の味方であろうとし、いくつもの苦難をともに乗り越えていく姿が感動的なんです。

主演のIU(右)とパク・ボゴム(左)。Netflixシリーズ「おつかれさま」独占配信中
昔の時代なので、IU扮するヒロイン(エスン)の、女性として生きる苦労がこれでもかと描かれるのが辛かったりもしますが、パク・ボゴム演じるグァンシクがこれぞ理想の守る男だなと思わせられて救われます。彼の誠実な姿勢は最後まで変わらずで、いつだってグァンシクの最愛で最優先は妻のエスンだというところが素敵です。3世代の時間が流れるので、歌手のソ・テジやH.O.T.、ドラマの『オールイン 運命の愛』など韓国の世相や流行っていた文化やエンタメが出てきて、長く韓流ウォッチングをしてきた身にはとっても懐かしさ満載でした。

Netflixシリーズ「おつかれさま」独占配信中
どんなに傷ついても、いつも要塞になって守ってくれる親という存在のありがたさ。家族を守るためにどんな苦労もいとわない父と母の献身的な姿。でも親の心子知らずで、「私には優しい父がいた。でも父に優しい娘はいなかった」という娘の立場でのナレーションに思い当たるところ有り有りでグサッときたりして。ドラマの意図通り、登場する夫婦を見ながら、思わず自分の両親がどんな思いと苦労を経て自分を育ててくれたんだろうと思いを馳せて、感涙にむせび泣いてしまうドラマです。
■Netflixシリーズ「おつかれさま」独占配信中
光州民主化運動を舞台にした切ないラブロマンス
『五月の青春』
韓国国民が忘れられない光州民主化運動を背景に、短くも火花のように燃えた若者たちの愛を描いたレトロ・ロマンスです。2021年の現代、光州の工事現場で身元不明の遺骨が発見されたところからドラマは始まります。そして時間は41年前の1980年へ。民主化運動が激しくなってきていたソウルで、我関せずでいた医大生のヒテが故郷の光州に戻り、看護師のミョンヒと出会います。春の花のように開き、実を結ぼうとしていた恋。絡み合った事情で別れを余儀なくされるも、離れがたい魂たちは再び惹かれ合うのですが、じわじわと時代の不穏な空気が立ち込めていくのでした。

ヒロイン役のコ・ミンシ。Licensed by KBS Media Ltd. ©︎ 2021 KBS. All rights reserved
途中までは、飄々とした男子が、真面目に生きている信念ある女性に感化されていくという感じのレトロで切なくも微笑ましいラブロマンスなのですが、光州民主化運動が背景だけに、若者たちが愛をはぐくむ日常に突然暴力が飛び込んでくる恐怖が残酷に突き刺さってきます。そんな風に、ロマンスと時代背景が絶妙に絡みながら進んでいくので、見ていてハラハラもするし切ないんです。平和って一瞬先に崩れる可能性があるということをこのドラマでまざまざと見せつけられます。ヒテ役のイ・ドヒョンが、切れ長の眼差しに口角がきゅっと上がった特有の微笑みで、まっすぐに愛をぶつけていく、誠実でジェントルな好青年を魅力いっぱいに演じています。

主演のイ・ドヒョン(右)とコ・ミンシ(左)。Licensed by KBS Media Ltd. ©︎ 2021 KBS. All rights reserved
一生のうちに短くも輝いた、切実でかけがえのないたった1つの恋。だからこそ40年経っても忘れられなかった恋。その思いが最後に手紙という形で凝縮されていて、つつましやかに、でも全身全霊で愛しあった2人の恋がいつまでも心に残る作品です。
■U-NEXTにて独占配信中
国民的なレトロブームを呼び起こした代表作
『恋のスケッチ~応答せよ1988~』
『恋のスケッチ~応答せよ1988~』は、それより前に発表された『応答せよ1997』『応答せよ1994』という一連のシリーズで国民的なレトロブームを呼び起こした代表的作品。年代がタイトルになっているように、誰もが経験した時代背景を利用して、当時の思い出を共有できるようなエピソードを綴っていくことで幅広い年代の視聴者はもちろん、新世代俳優たちの登場で、若い層にまで大きな人気を集めました。

左から、ヒロイン役のヘリ、コ・ギョンピョ、リュ・ジュンヨル、イ・ドンフィ。©CJ E&M Corporation, all rights reserved.
特にシリーズの中でも最高の大ヒットだったのが『恋のスケッチ~応答せよ1988~』。ソウルオリンピックが開かれた年を背景に、ご近所さん5つの家族の濃密な関わり合いや幼なじみたちの恋模様が描かれていきます。外の縁台で母親たちが世間話をしながら夕ご飯の下ごしらえをしたり、人の家に勝手に上がり込むのも有りだったご近所づきあい。喜びも悲しみも大変なことも、ご近所みんなが自分ごとに捉えて暮らすような情や温かさがしっかりとあった時代ゆえに、個人主義が強くなっている現代においては、ああ、こういう時があったなあ、という鼻の奥がツーンとしてしまうようなノスタルジーを思いっきり感じられます。

ヒロイン役のヘリ(左)とパク・ボゴム(右)。©CJ E&M Corporation, all rights reserved.
そして随所に織り込まれてくるユーモアがまた温かみに彩りを添えていて、泣き笑いを繰り返すドラマ構成なので、油断していると意外な場面で大泣きさせられるような「あ~わかるわかる~」があるのです。特に1988年前後の世相は小道具の1つ1つが日本の昔とも重なり合って、国は違えど懐かしさに浸れます。明るく能天気に見えながらもそれぞれ事情を抱えた家族の姿を通して、毎回、心に染み入る教訓的な言葉があって、これがまた大感動。回を追うごとに泣ける度合いが高まっていき、胸にじんわりじんわり響くドラマです。
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田代親世 韓流ナビゲーター
韓流解説、韓流イベント司会の第一人者。公式サイト「田代親世の韓国エンタメナビゲート」やYoutube「ちかちゃんねる☆韓流本舗」「韓ドラ・マスター親世と尚子の感想語り」などで韓流情報を発信しているほか、会員制のコミュニティ【韓流ライフナビ】を主宰。ツアーやイベントを企画・開催している。
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