BY REIKO KUBO
カンヌ、サンダンスが絶賛した新鋭監督のデビュー作『グッドワン』

©2024 Hey Bear LLC.
小川のせせらぎとともに始まる映画は、積まれた石に留まる蝶、オレンジ色のイモリや苔の間を這う虫、夜の森や三日月を静かに映し出し、オープニングから観る者の心を湧き立たせる。主人公の17歳の少女サムは、父クリスと彼の旧友マットとともに2泊3日のキャンプに出かける。行き先は、マンハッタンから車で2時間ほど、清流と湖をたたえた自然豊かなキャッツキル山地。マットの息子も同行するはずだったが、親子喧嘩の末、マットだけの参加に。かくしてオヤジ二人と思春期の娘一人という道行きに。
サムの母と別れ、若い女性と結婚し、幼い子供を養育中のクリスは、仕事にも家庭生活にも不満がある様子。元俳優のマットも最近離婚し、息子との関係も悪化、嘆き節が止まらない。両親の不仲や離婚を経験した子どもの多くは、幼い頃から親の仲を取り持ち、空気を読むのが常となる。サムもまた、自分たちのことばかりのオヤジたちとの時間をやり過ごしながら父をなだめ、傷心のマットを気遣う。ところがあろうことかこのオヤジが……。

©2024 Hey Bear LLC.
大人の不完全さを味わい、まもなく大学に進むサム。大人を気遣ってばかりの思春期の自分と決別し、これからはより自分のために生きていけそうな希望が漂う。監督のインディア・ドナルドソンは、映画監督になる前はテキスタイル業界で働いていたというだけあって、土や苔、木肌、水面といったテクスチャーを緻密に構成し、風のそよぎ、水の音、闇と焚き火の焔、そっと重なるセリア・ホランダーの音楽の中にサムの感情を反響させる。言葉を飲み込むサムの代わりに怒ったり、ヤキモキした観客も、旅の終わりの彼女の視線を追いながら、ヴィヴィッドな映画との出会いに興奮を覚えること必至だ。
1/16公開『グッドワン』予告編
youtu.be『グッドワン』
ヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開中
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権力と欲望、その極限を描いた伝説の問題作が再編集で復活!『カリギュラ 究極版』

© 1979, 2023 PENTHOUSE FILMS INTERNATIONAL
Photo credit: Courtesy of Penthouse Films International
ローマ史上もっとも悪名高い皇帝のひとりガイウス・ユリウス・カエサル・ゲルマニクス、通称カリギュラ。幼き頃より父の名将ゲルマニクスの軍営で育ち、特別に誂えた小さな軍靴(カリガ)を履いていたことから“カリギュラ(小さな軍靴)”という愛称で呼ばれた。即位当初は大いなる期待を集めたが、自ら神を騙る狂気の暴君と化し、在位わずか4年で暗殺されたとされる。
この悪名高きローマ帝国の第三代皇帝を描く超大作映画は、ペントハウス誌発行者のボブ・グッチョーネ製作総指揮のもと、主役カリギュラ役に『時計じかけのオレンジ』のマルコム・マクダウェル、先帝ティベリウスに『アラビアのロレンス』のピーター・オトゥール、カリギュラの4番目の妻カエソニアにヘレン・ミレンという豪華キャスト、監督ティント・ブラス、脚本ゴア・ヴィダルらが集いスタート。ところが最終的にグッチョーネが過激なハードコア描写を追加したためにスタッフ、俳優陣から悲鳴が上がり、批評家からも酷評されたが、1980年に公開されると世界的ヒットを記録。

© 1979, 2023 PENTHOUSE FILMS INTERNATIONAL
Photo credit: Courtesy of Penthouse Films International
そんないわくつきの映画がこのほど、奇跡的に発見された90時間分もの未使用映像と音源を用いて再編集され、『カリギュラ 究極版』として完成。2023年のカンヌ国際映画祭に出品され、話題を集めた。ゴア・ヴィダルの脚本に立ち返り、俳優陣の演技にフォーカスした究極版は、性と芸術が渦巻く絢爛豪華、酒池肉林の宴のなかにカリギュラの狂気と孤独、カエソニアの妖艶さが際立つ。やがてその先に莫大な権力によって崩壊する人間の悲哀が押し寄せる。
2026年1月23日(金)公開『カリギュラ 究極版』|本予告
youtu.be『カリギュラ 究極版』
1月23日(金)より新宿武蔵野館、TOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
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AIが人を裁く未来は救済か脅威か、90分の極限サスペンス『MERCY/マーシー AI裁判』

人間がAIによって裁かれる。近い将来、起こり得そうななんとも恐ろしい設定の映画だ。舞台は、凶悪犯罪が増加し、治安統制のためAIが司法を担うことになった世界。これまでマーシーAI裁判所に容疑者を送り込んできた刑事レイヴン(クリス・プラット)が目を覚ますと、妻殺しの容疑がかけられ、データーベースを操って自らの無実を証明しなくてはならない状況に置かれていた。寝耳に水の事態に狼狽えている暇はない。90分という制限時間内に無罪証明できなければ即死刑が待っている。レイヴンが血眼で探すアリバイを冷徹に裁いていくのは、AI判事マドックス(レベッカ・ファーガソン)。

監督は、プロデューサーとして関わった映画『search/サーチ』をヒットさせたティムール・ベクマンベトフ。『search/サーチ』は、PCの前に座ったままの父親が行方不明の娘をネットや防犯カメラの映像を駆使して探し出す画期的サスペンスとして注目を浴びた。今回は、このスクリーン・ライフ映画手法を推し進め、人間がデータによって裁かれるという遠くない世界を描いて観る者の背中に冷や水を浴びせる。AI判事との攻防は、やがてレイヴンが思いもよらなかった陰謀を浮かび上がらせ、後半の三分の一は彼の娘を巻き込んで大アクションへと傾れ込むが、スリリングなのは合理性やアルゴリズムを優先するAI司法と人との息詰まる対峙。そしてレイヴンとのやりとりを通じて人間性を獲得しつつあるのでは?と思わせる、非情なはずのAI判事マドックスの変化だ。『ミッション:インポッシブル』シリーズのイルサ役や『DUNE/デューン 砂の惑星』のレディ・ジェシカ役で人気のレベッカ・ファーガソンが見せる、微妙に柔らかみを帯びてゆく表情の演技に引き込まれる。
<AIが人類を処刑>映画『MERCY/マーシー AI裁判』1月23日(金)日米同時公開!
youtu.be『MERCY/マーシー AI裁判』
1月23日(金)日米同時公開
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