BY HAYLEY KRISCHER, PHOTOGRAPHS BY RENAUD PHILIPE, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
一歩進んで
2016年のビルボード・ミュージック・アワードで、セリーヌ・ディオンはクイーンの『ショウ・マスト・ゴー・オン』を見事に自分のものにして歌い上げた。そのパフォーマンス直前、彼女はスタイリストのロウ・ローチに連絡していた。ディズニーの人気スター、21歳のゼンデイヤを担当するスタイリストだ。ディオンはゼンデイヤが出演しているテレビドラマを、よく子どもたちと一緒に見ていた。
「最近は、誰もがミレニアル世代に釘付けで、年齢を重ねた女性は脇へ押しのけられてる感じがする」とローチは言う。「セリーヌは長いこと、そういう、20代やもっと若い女の子たちと同じ教室の中にいた。そこで彼女は手を挙げて、『ねえ、私もここにいるのよ』と主張したんだ」
ディオンとローチの信頼関係が結ばれたのは、2016年、パリのクチュールウィークでのことだった。ローチは映画『タイタニック』の主人公ジャックとローズ、沈み行く巨大なタイタニック号の写真がプリントされた885ドルのヴェトモンのスウェットシャツを、ディオンに着せることにしたのだ。
このスウェットシャツは、流行りのストリートウエアブランドを見せびらかすだけのものではなかった。20年近く前、世の中のあらゆる画面とスピーカーから『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』が流れているように思えた当時を再び思い出させるという、すばらしい狙いもあった。1998年のアカデミー賞授賞式でこの曲を歌ったとき、ディオンは感極まって自分の胸を強く叩き、171カラットのサファイヤが施されたハート形のネックレスをあやうくチェーンから弾き飛ばしそうになったものだ。

1,000人を超える熱烈なファンが、ディオンにひと目会おうとモントリオールの路上で夜を明かした
「彼女に会った瞬間、彼女はファッションが好きで、風変わりで、大胆不敵な女性だって確信したよ」とローチは言う。
1999年のアカデミー賞授賞式で、ジャケットが前後ろ逆になったジョン・ガリアーノの白いスーツを着たことで、ディオンはワースト・ドレッサーの候補に挙げられたこともあった。
しかし今年、彼女はファッションアイコンとしてもてはやされている。『ヴォーグ』誌は彼女を起用してファッション動画を撮影。『ヴォーグ』誌主催のファッションの祭典メット・ガラの後には、特注のヴェルサーチのガウンを着たままニューヨークの屋台へ出向き、ホットドッグを食べたりもした。5月のビルボード・ミュージック・アワードでは、ステファン ローランの巨大な袖をした白いドレスで登場した。その姿は氷山のようにも天使のようにも見えた。自家用飛行機のタラップに腰掛けてポーズを取った写真では、パイソン革のアイテムで全身を包んでいる。バルマンのサイハイブーツを履き、ロシャスのトレンチコートを羽織り、自身のコレクションのバッグを合わせ、カメラに目線を向けたディオンは、襟をピンと立たせ、口を不自然にとがらせている。
これらは、もちろん『セリーヌ・ディオン・コレクション』のためのプロモーションでもあった。
「新しく出るアルバムは必ずしも気に入ってもらえないかもしれない。でも、手元においておけるバッグなら持ってもらえるかもしれないでしょ」とディオンは言う。「手にとって触れることができるし」。これは合理的な考え方だ。2016年に発売されたフランス語のスタジオ・アルバム『Encore Un Soir』は、売り上げの85%以上がデジタルではなく実体のあるCDだった。彼女のファンは、その音楽を文字通り、腕に抱くようにして持ちたかったのだ。その理由は説明するまでもない。