セリーヌ・ディオン、
その惜しみない愛

「私は自分をささげようと思ったら、惜しみなくすべてをささげるの」とディオンは言う。

　ファンとのあいだにこうした熱い絆が結ばれた理由は、自分が何も包み隠さないタイプだからだと彼女は確信している。なかなか妊娠できず、不妊治療を受けていたこともファンは知っている。夫が病気になったことも、彼が闘病の末に息を引き取ったことも、そしてその2日後に兄が亡くなり、同年の8月に義理の兄弟も亡くなったことも、すべてディオンのファンは知らされてきた。「人生にはさまざまなことが起こるものよ」とディオンは言う。

「私のショーでは、幕が開いて、まだワンフレーズも歌っていない時であっても――」そう話す彼女の表情がだんだん真剣になる。「観客は総立ちになる。そして全員が涙を流すのよ」

　ある男性は携帯電話でディオンの写真を見せた。そこに写っていたのは12歳の頃のディオンだ。ある女性は袖をまくり上げて、ディオンの歌詞のタトゥー入れた前腕を見せた。もうひとりの女性は、孫と一緒に車で5時間かけて会場までやって来たという。また別のひとりは、ディオンが祖父の一番お気に入りの歌手だったと話した。

　ディオンはこうしたファンとの交流のチャンスを決してないがしろにしたことはなく、これからもその姿勢は変わらないだろう。そして今日も、へとへとになって自宅に帰るのだ。「私の残りの人生も、彼らに愛し続けてもらいたいから」

一歩引いて

　昨年、ディオンの夫であるレネ・アンジェリルは、がんにより73歳で亡くなった。ディオンが12歳の時からマネージャーを務め、その後21年のあいだ、夫婦生活をともにしてきた。アンジェリルの告別式は、まるで国王が亡くなったかのようにカナダ全国でテレビ放送された。黒いベールで顔を覆ったディオンは、8時間も立ちっぱなしで参列者からの悔やみの言葉を受け続けた。VIP用の通路も、特別なチケットもなし。ファンであれば、誰でも列に加わることができた。

「彼女は一番つらい時期、その悲しみをファンと共有することを選んだの」と、カナダのゴシップ女王として知られるイレーン・ルイは言う。「お金のためじゃない。ディオンは裕福だし、なにより、そんなことをしなくたって間違いなく、人々からじゅうぶんに愛されているんだから。彼女は歌うだけでいいの。もしくは、歌うように話してくれればいい。それだけで私たちは幸せよ」

　ディオンは、49歳でシングル・マザーとなった。16歳の息子レネ・チャールズは、近ごろ車の運転を始めたらしい。彼はディオンとこまめに連絡をとり、ディオンの亡き夫と同じように、母親へのメッセージを記したメモを部屋のドア下の隙間に入れてくる。「私は唇が細いから、あまり口紅をつけることがないの。だけどこのあいだ、口紅をつけて息子にキスをしたら、『なかなか落ちないんだけど！』って文句を言われたわ」。彼女はニヤッと笑って身を乗り出し、空に人差し指を向けた。「いつかあなたも、私の口紅を恋しく思う日が来るわよ！」

　ディオンには、6歳になるネルソンとエディという双子の息子もいる。先日、その双子のひとりに「子どもも死ぬの？」と聞かれた。続けて「次は、おばあちゃんが死ぬの？」とも聞かれた。彼らも不安なのだ。

　夫のアンジェリルが病気になったとき、ディオンは一年間休業したいと考えた。だが、夫はそれを聞き入れようとはしなかった。「彼はちょっとしたパニック状態になっていたの」とディオン。彼女は夫に言った。「あなたは生前遺言書を書いて。私も自分の遺書を書くから。私はあなたのそばにいたい。そのために一年間休むことにしたの」。しばらくはその状態が続いた。「でも最後には、彼はすごく私に歌を歌わせたがった。もう一度前向きに生きる方法を私に教えようとしたのね。つらかったわ。彼のそばを離れて、連日連夜、舞台に上がってコレを振り続けるのはね」と、彼女は自分のお尻を指した。

「これが彼がいちばん喜ぶことよ」。苦しい時は、自分にそう言い聞かせた。「私は、彼のいちばんお気に入りの歌手なんだから」

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