BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY MITSUE YAMAMOTO
会場でも、アナのファッションに対する情熱やリサーチマニアぶりを体験できる。毎シーズン、彼女はコレクションのテーマを設定したのち、雑誌の切り抜きや布地などの資料を集め、ひとつのボードにまとめていくのだが、その「ムードボード」の一部が会場に置かれている。あるときはイラストレーターのアントニオ・ロペスにインスパイアされ、ホリデイで行ったタヒチが着想源になったシーズンもある。
「たとえばこのムードボードは、私が好きな40年代がテーマだったんだけれど、実際のコレクションではロックなブーツを合わせたり、ビビッドなカラーのウィッグでヘアをアレンジしたの。伝統をどう打ち破れるかーーそれが、いつも私が挑んでいることね」
改めて彼女のコレクションを振り返ってみて思うのは、アナのなかには、ファンタジーやおとぎ話のように“ずっと好きなもの”が変わらずにあって、それに世の中の女性たちが自然と共感してしまうのだということ。そして、アナの生み出すデザインがつねに革新的な要素を秘めていることだ。前述の書籍によれば、彼女が初のランウェイで見せたルックは“スパイスとして、シャネルとヒップホップを組み合わせた”ものだった。パワードレスがトレンドだった当時、彼女のコレクションは、新しいことが始まる予感に満ちていたという。音楽とファッションなど、異なるカルチャーや時代性をミックスするのは彼女の真骨頂。ウィメンズのウェアを男性モデルに着用させ、メイクアップしてランウェイを歩かせることもした。年齢やジェンダーに縛られない多様性やハイブリッドなスタイルなど、近年のモードが提案する概念をいち早くかたちにしてきたのは、ほかでもないアナ・スイである。
今年は、ちょうど彼女のコスメライン「アナ スイ コスメティックス」がローンチされて20周年のアニバーサルイヤーでもある。東京展ではそれを祝して、歴代のプロダクトや広告ビジュアルも展示。これまでのコレクションルックに並んでテーマごとにコスメも置かれている。「ファッションでもコスメでも成功している数少ないデザイナーですね」と言うと、アナは「本当に私はラッキーだと思う」と応えた。「私はインディペンデントで、成功も失敗も自分次第だから、確かに不安はあるけど、一方で、ファッションにもコスメにも、同じようにファンタジーと愛情を注ぎ込んで、自由に世界観を表現できる。ランウェイのドレスを着るのも、リップスティックを使うのも、同じように人を興奮させるものでありたい。そんな私のものづくりの哲学を貫ける環境に身を置くことができているのは、本当に幸せよ」
インタビューの終盤、アナはドールヘッドのコスメに目を向けた。彼女はドールヘッドのコレクターであり、自宅はもちろん、NYのブティックにもそのコレクションが飾られている。「フリーマーケットで見つけて購入したり。また自分でも作ったこともあったわ」とアナ。ちなみに、このコスメが日本ではじめてお披露目されたとき、多くのジャーナリストが興奮したことを伝えると、彼女は瞳を輝かせた。
「それは私にとっていちばん嬉しいこと! だって私がフリーマーケットで大好きなドールヘッドを発見した時と同じ興奮を、みなさんにも感じてもらえたということだから」
<期間限定ショップ>
ANNA SUI COSMETICS SHOP
アナ スイ コスメティックス20周年を祝した期間限定のブース「ANNA SUI COSMETICS SHOP」もオープン。ここだけでしか買えないオリジナルグッズも展開。
会期:〜8月19日(日)
会場:テレ朝夏祭り会場内(六本木ヒルズアリーナ)
東京都港区六本木6-9-1
時間:11:00〜19:30
THE WORLD OF ANNA SUI
会期:〜8月26日(日)
会場:テレビ朝日本社ビル1階 けやき坂スペース
住所:東京都港区六本木6-9-1
時間:11:00〜20:00
フリーダイヤル:0120-735-559(アナ スイ コスメティクス)
特設サイト