ロンドンの大英博物館で、ファッションショーが開催された。モデルが着こなすのは明日のデザイナーを夢見る日本と英国の学生の作品。山本寛斎はショーに参加する学生を指導した。そのイベントを経て、彼が改めて語った、仕事の流儀とこれから

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 大英博物館のグレイトコートで開かれたイベント「Late -Manga:Colour and Style」でのファッションショー Ⓒ 2019 CLIVE ARROWSMITH

大英博物館のグレイトコートで開かれたイベント「Late -Manga:Colour and Style」でのファッションショー
Ⓒ 2019 CLIVE ARROWSMITH

「ロンドン中が、寛斎を待っていた!」。大英博物館の会場でデザイナーの山本寛斎は、スタッフや観客にそう歓迎された。

 今年7月、寛斎は大英博物館の「グレイトコート」で開催されたファッションショーに参加した。ただし、発表されたのは、寛斎のコレクションではなく、日本と英国、両国の学生による作品だ。このショーは、このとき博物館で開催されていた日本のマンガ文化をテーマにした『マンガ展』の特別イベント「Late-Manga: colour and style」の一環で、“若き才能たちの国際交流の場を創りたい”という寛斎の想いからはじまった企画。学生たちを寛斎自らが指導し、未来のデザイナーたちの檜舞台、文化交流の場を用意した。寛斎の役割は、いわば、応援団長だ。

 近年、講演会やイベントなどを通じて、若い世代と向き合ってきた寛斎はこう話す。「彼らの気持ちに寄り添って、喜びや苦しみをシェアすることが自分にとっても良い時間になっているんです」。また「そうやって、若い世代とこんな風に未来を作りたいなと考えると同時に、“彼らを応援することが、これからの私の仕事なのか”と強く思うようになりました」とも。

“もっと行け! 世界で挑戦しろ!”とメッセージを送り、若者たちを力強く鼓舞する。ただ、自身も現役のクリエイターだ。「そうやって学生を応援しながらも、どこか競争心のようなものがふつふつを沸き起こってくるんですよ」と寛斎。そして、「6月に六本木ヒルズで行なった私のプロデュースしているイベント『日本元気プロジェクト』でも、日本の学生の作品を先立って披露したんです。その学生たちの頑張りを見て、ここ大英博物館でのショーでは、私の作品も持っていくことにしたんです」と楽しげに話した。

画像: (写真左)『リボンの騎士』に着想を得た加藤双葉(ドレスメーカー学院)のドレス (写真右)日英の要素をコラージュしたという小口大輔(東京モード学園) Ⓒ AMBER MUIR 2019

(写真左)『リボンの騎士』に着想を得た加藤双葉(ドレスメーカー学院)のドレス
(写真右)日英の要素をコラージュしたという小口大輔(東京モード学園)
Ⓒ AMBER MUIR 2019

画像: 山本寛斎と、寛斎デザインの衣装を着たモデル Ⓒ AMBER MUIR 2019

山本寛斎と、寛斎デザインの衣装を着たモデル
Ⓒ AMBER MUIR 2019

 ロンドンは、約50年前、山本寛斎がはじめて世界に挑戦した場でもある。1971年、寛斎はここロンドンで日本人初となるファッションショーを開いた。発表したのは、華美でカラフルな装飾的なルックの数々。“わびさび”と対極にある、“婆娑羅(ばさら)”という日本のアヴァンギャルドな美意識を前面に押し出したコレクションだった。また、歌舞伎の“引き抜き(早着替え)”の要素を取り入れた従来とは異なる演出にも、現地のジャーナリストは衝撃を受けた。その後、寛斎はデヴィッド・ボウイのツアー衣装を手掛けたことで、英国の現代カルチャーの礎である“グラム・ロック”の形成に大きく関与することになる。世界的に活躍する日本人ファッションデザイナーはたくさんいるが、英国人にとって、寛斎は自国のデザイナーのような存在だ。

 そのショーを行う2年前、寛斎が人生初の海外として訪れたのもロンドンだった。そこで蛇柄のスーツを着た金髪でアフロヘアの寛斎に対し、ショップの店員らが店先から出てきて“あなた、素敵な格好ね”と声をかけてくれたという。「日本では敬遠された格好も、ロンドンでは個性として歓迎されるんです」。そのとき、ある記者が撮影したスナップ写真が、雑誌『LIFE』の特集「世界のかっこいい10人の男たち」にも取り上げられた。

「いま、ロンドンを歩けば、もちろん当時とは異なる面もありますが、50年前と変わらず私を受け入れてくれる。実は今回の滞在中、ナンパされてね。レストランで会計が済むのを待っていたら、若いお嬢さんが“一杯飲みに行きませんか?”って(笑)」

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.