ウォッチジャーナリスト高木教雄が、最新作からマニアックなトリビアまで、腕時計にまつわるトピックを深く熱く語る。第10回は、イタリア発祥の「パネライ」にスポットを当てた。機械式時計再興に一役買った国で生まれたミッションウォッチは、時計界にブームを巻き起こし、新たなトレンドを生みだす

BY NORIO TAKAGI

 デザイン大国にして、ファッション大国、そして食と恋に情熱を注ぐアモーレの国――イタリアが生んだ、あるいはイタリアから始まったトレンドは過去に数多い。腕時計も、またしかりである。

 1970年代、スイス時計業界は冬の時代にあった。1969年に日本の時計メーカーが発表した、量産がたやすく、安価で、精度にも優れるクォーツ・ムーブメントが短期間で時計市場を席巻。機械式を製作していた多くの時計ブランドや部品メーカーが、倒産・休眠を余儀なくされたのだ。これを称してクォーツショック。時計学校ですらクォーツしか教えなくなったほどに、機械式時計は一気に衰退した。そんな時代遅れの遺物に、1980年代初頭、イタリアのファッション誌が注目した。大人の男性は機械式時計を持つべきだと、当時市場にあふれていたヴィンテージのロレックスを度々紹介したのだ。そして多くのファッショニスタが、これに賛同。ヴィンテージ・ロレックスは、イタリアで一大ブームとなり、やがて他のブランドのヴィンテージ機械式時計にも注目が集まるようになってきた。そのトレンドは、やがて各地に伝播する。欧州諸国へ、アメリカへ、そしてバブル全盛期の日本にも。イタリアでファッションと結びついたことで、ヴィンテージ機械式時計は再評価されたのだ。これを1つのきっかけに、スイスの各時計ブランドは機械式時計製作に注力するようになり、長き冬の時代を抜け出ることとなる。

 パネライは、機械式時計再興のきっかけを作ったイタリアを代表する時計ブランドである。その歴史は1860年にフィレンツェで創業した、パネライ家が営む「スイス時計店」に始まる。その名の通り、スイス製時計を取り扱い、その修理も担っていた。さらにはイタリア初の時計学校としても機能していたという。時計を売るだけでなく、修理し、職人も育成していたスイス時計店は、1930年代に入ると時計製作にも着手。しかし、パネライ・ウォッチの存在は、長く秘匿されてきた。何故なら、どれもイタリア海軍からの依頼で製作された軍事機密のミッションウォッチだったからだ。
 
 1938年からパネライは、イタリア海軍専属の時計メーカーであり続けた。しかし1990年代初頭、転機が訪れる。東西冷戦の終結である。それに伴いミッションウォッチも、役目を終えたのだ。イタリア海軍という唯一の顧客を失ったパネライは、民生用への転身を決意する。まず1993年にイタリア市場向けのモデルを発表。1997年にはヴァンドーム・グループ(現リシュモン・グループ)傘下となり、世界デビューを果たすこととなる。

 イタリア発のニュースターの登場に当初、時計ファンの多くは戸惑った。ケースはどれも巨大で厚いクッション型で、ダイヤルには4方向に大きなアラビア数字を配し、他に比べるものがない独創性を放っていたからだ。こうした特徴的なスタイルは、イタリア海軍納品モデルからの継承である。大きく厚いケースは海中でのミッション遂行に必要な防水性と耐衝撃性を得るための、4方向アラビア数字は視認性を高めるための、工夫から生まれた。一目でパネライだと分かる独創性は、実は真のミッションウォッチとしての合理性から導き出された機能美である。そう気付いたクリエイティブ業界の感性鋭い時計ファンにパネライは大歓迎され、やがて世界的な大ヒットへとつながっていった。さらには巨大で厚いケースは多くのフォロワーを生み、デカ厚時計ブームを巻き起こした。やはり時計のトレンドは、イタリアから生まれる。

画像1: Vol.10 
高木教雄の「時計モノ語り」
――真のミリタリーを出自とする
「パネライ」の機能美

 今もパネライは、ミッションウォッチ時代のスタイルを堅持し続けている。これら2つの「ラジオミール」は、1940年代に納品されたモデルに範を採る。当時と同じクッション型ケースは、一方は45ミリ、もう一方は42ミリと、やはり巨大。畜光塗料を塗ったディスクに、数字とバーの各インデックスをくり抜いたディスクを重ねた特徴的なサンドイッチ構造のダイヤルも、1940年代に生まれた。これも、海中での強い発光が求められる軍用ならではの機能的な工夫。そんな本物のミリタリーダイヤルが、様々な色味のブルーラッカーを塗り重ねたグラデーションで、実にエレガントな印象を手に入れた。

画像: ラジオミール-42MM PAM01144 <ケース径42mm/SS、手巻き、アリゲーターストラップ>¥960,000

ラジオミール-42MM PAM01144
<ケース径42mm/SS、手巻き、アリゲーターストラップ>¥960,000

画像: ラジオミール-45MM PAM01078 <ケース径45mm/チタン、自動巻き、アリゲーターストラップ>¥1,230,000 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF PANERAI

ラジオミール-45MM PAM01078
<ケース径45mm/チタン、自動巻き、アリゲーターストラップ>¥1,230,000
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF PANERAI

 イメージしたのは、陽光が差し込む深い海だという。ストラップもダイヤルと色味を合わせたブルーを用い、ステッチはインデックスや針に施した畜光塗料と同じベージュでコーディネイト。そして裏側では、それぞれに異なる自社製ムーブメントの姿を覗かせるサファイアクリスタル製の透明な窓に波模様が躍る。実にスタイリッシュなブルーの「ラジオミール」は、どちらも今年誕生した“メディテラネオ”エディションと名付けられたブティック限定モデル。現在、パネライは東京と大阪に各2店舗ずつ、そして名古屋と広島でブティックを展開しているが、それ以外のエリア在住者は、移動の自粛が求められている中、入手が困難……では、ない。パネライは全国どこからでもブティック限定モデルが買える“電話”販売を、4月10日からスタートしているのだ。

 なぜ、電話なのか? 実は本格的なEコーマスを展開する前段階として始めたのだとか。その評判は、オペレーターといろいろと相談しながら対面販売と近い感覚で購入が決められると、なかなかの評判の様子。全国どこからでも、家に居ながらにして電話1本でブティック限定モデルが買える。電話販売は、時計界の新たなトレンドになる……かも。

※電話販売受付:パネライ クライアントリレーションズセンター
フリーダイヤル:0120-18-7110
受付時間:月曜~金曜 11:00~19:00(祝日を除く)

問い合わせ先
オフィチーネ パネライ
フリーダイヤル:0120-18-7110
公式サイト

高木教雄(NORIO TAKAGI)
ウォッチジャーナリスト。1962年愛知県生まれ。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアなどライフスタイルプロダクトを取材対象に、各誌で執筆。スイスの新作時計発表会の取材は、1999年から続ける。著書に『「世界一」美しい、キッチンツール』(世界文化社刊)があり、時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ』(幻冬舎刊)も監修

 

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