BY NORIO TAKAGI
スーツに似合うのは、シンプルなドレスウォッチーーというのは、過去の常識。スーツの手元に、頑強なダイバーズウォッチがあっても、違和感はない。そのきっかけとなったのは、紳士の国イギリスの諜報部員ジェームズ・ボンドだった。1964年公開の映画『007 ゴールドフィンガー』でのワンシーンで、白いタキシードを着こなすショーン・コネリー演じるボンドが身に着けていたのは、ロレックスのダイバーズウォッチ「サブマリーナー」だったのだ。映画のヒットともにタキシード×ダイバーズウォッチのミスマッチも注目され、広く一般的になったとも言われている。
カジュアルはもちろん、スーツにも合わせられ、優れた防水性能で普段使いもしやすいダイバーズウォッチは、長く人気を保ち続けてきた。また装飾品でもある腕時計の人気は、ファッショントレンドに少なからず影響を受ける。ヴィンテージの復刻モデルやミリタリーウォッチが売れているのも、近年のファッションの傾向を鑑みれば、うなづけるだろう。
「TUDOR(チューダー)」は、これらダイバーズウォッチ、ヴィンテージ、ミリタリーという要素をすべて兼ね備えるコレククションを持つ。2018年10月31日、日本へ本格上陸。そう聞くと新興ブランドのようだが、創業は1926年。創業者は、ロレックスを創立したハンス・ウイルスドルフ。彼は、「ロレックスの技術と信頼性をもって、確固たる品質と先駆性を備えた腕時計を作りたい」と願い、チューダーを設立した。
そのロレックスの技術とは、当時最も頑強な防水性能を誇っていた「オイスターケース」と、高効率な自動巻き機構「パーペチュアルローター」。そして1952年、これら2つが備わるファーストモデル「チューダー オイスター プリンス」を発表。同じ年、イギリス海軍による北グリーンランドの科学探検に採用され、北極圏で屈強さが証明された。1954年には、初のダイバーズウォッチ「チューダー オイスター プリンス サブマリーナー」が誕生。後にフランスやアメリカの海軍に正式採用され、ミリタリーウォッチとして不可欠なタフネスさを磨いてきた。
2012年に登場した「ブラックベイ」は、この海軍採用のダイバーズウォッチをルーツとし、その歴史を精査して生まれた。ゆえに前述したような、ヴィンテージ感とミリタリー感とを兼ね備える。しかもその匙加減が、実に絶妙である。他社が多用する復刻の手法に頼らず、インデックスは1954年製の初代から、大型リューズは1958年製モデルから引用。そして1969年製モデルから、ひし形が先端に備わる特徴的な時針を受け継ぐ。この針を名付けて、スノーフレーク。各時代の特徴的なディテールを組み合わせることで、決して過剰ではないヴィンテージ感が創出され、一目でそれと分かるアイコニックな外観も生み出された。さらに逆回転防止ベゼルには、発色が鮮やかになるアルマイト製リングを採用し、ブラックとブルー、バーガンディの三色を展開。しかもこれらは、単なる色違いではない。ブラックは潜水スケールの0位置に赤を注し、ブルーは針と植字インデックスをシルバーとするなど、色の個性に合わせてアレンジすることでスタイリッシュな印象を高めている。
それぞれベゼルの色に合わせたファブリックとエイジドレザーのストラップにブレスレットを展開。中でもファブリックストラップは、フランスのジャカード織りの老舗「ジュリアンフォール」と提携。それぞれの幅に合わせて織られたストラップは、丈夫な上に柔軟性も併せ持ち、レザーでは到底得られないカラーリングや複雑な柄がかなえられた。その上質さとデザイン性は、時計界随一である。