BY NANCY HASS, PHOTOGRAPH BY DANILO SCARPATI, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
「皇帝のルビー」は、ロシア皇帝が代々所有してきた宝飾品のひとつだ。255カラットを超える大きなラズベリー・シェイプの宝石に、ゴールドとグリーンエナメルでできた葉があしらわれ、ペンダントトップとして加工されている。だがのちにルビーではないということが明らかになった。
この宝石には、さまざまな持ち主の手に渡ってきた歴史がある。最初の持ち主とされているのは、フランス国王シャルル9 世。彼が1574年に死去したのち、その妻であるエリザベートは、故郷オーストリアにこの宝石を持ち帰った。その後、三十年戦争の間にスウェーデンが略奪。最終的にロシアのエカチェリーナ2 世へと贈られることになった。しかし1922年、ロシア所有の宝石コレクションを調査していた際に、鉱物学者のアレクサンドル・フェルスマンが驚きの発見をした。「皇帝のルビー」は、実はトルマリンの一種であるルベライトだったのだ。半貴石に分類される石ではあるが、こういったマンガンを含む深く美しい色あいのトルマリンは、実のところルビーより稀少価値が高いものなのである。
そして現代、138年の歴史を持つローマ発のラグジュアリーブランドであるブルガリは、スカーレットルビーと、柔らかいローズピンクの色合いのトルマリンをともに用いて、イヤリングを制作した。このピンクゴールドのシャンデリアイヤリングは、コーラルレッドのきらめきが首筋に沿って弾けているかのよう。かの「皇帝のルビー」はその深い色みで世界中の注目を浴びたが、この流れ落ちるようなキャスケード型のイヤリングは、その歴史を彷彿とさせながら、さらなるエレガンスを加えている。
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