常に未来を見据え、独自の視点と感性で"現在"にフィットするものを手繰り寄せるテキスタイルデザイナーの皆川魔鬼子。毛織物の産地・尾州の工場をはじめ、信頼を寄せる職人とともに作りあげた2025年秋冬のアイテムに、そのものづくりの真髄を読む。

BY NAOKO ANDO, PHOTOGRAPHS BY TAKAY, STYLED BY FUSAE HAMADA, HAIR BY ASASHI, MAKEUP BY ASAMI TAGUCHI, MODEL BY ANGELA RAYNOLDS

画像1: ゆっくり、ふわりと。
人の速度で織りあげていく
HaaTのものづくり

 今季の「HaaT(ハート)」のテキスタイルのエッセンスは「スプリンクル」。ディレクターの皆川魔鬼子はそれを「ケーキに振りかけるトッピングのようなキラキラしたもの。日本語でいうと、ふりかけ」と言う。
 写真のジャケットは「ROVING NEP」と名付けられたシリーズ。太さがまばらなスラブ糸、さまざまな色のカラーネップ糸、ループ糸など、形状と太さの異なる糸をタテヨコに組み合わせて織りあげられ、目を喜ばせる表情の複雑さとともに、奥行きのある色合いと同時に軽さを備えている。
 織ったのは、愛知県一宮市を中心とする日本最大の毛織物の産地、尾州(びしゅう )の工場だ。皆川はその技術力に大きな信頼を寄せ、つき合いは50年以上にわたる。

「"ションヘル織機" という低速の旧(ふる)い織機で織られています。不規則に糸を配することで、それぞれの糸の特徴がわかるように織る。生産性は高速織機の約5分の1ですが、この柔らかさや軽さ、風合いは、この織機でなくては出せないものです。ヨコ糸を打ち込むシャトルが行き来するテンポが、人間の鼓動に近い。人間の速度で織られた生地です」
 中に着たワンピースは「SPRINKLED KABIRA」というシリーズ。インドの繊細な職人技によるもので、染色した生地に2 種類のブロックプリントを重ね、さらに大小のドットを散らして仕上げる。
 カラフルなネップ、白のドットがランダムに散る様子は、まさに"スプリンクル"。

画像: ところどころに小さなネップ(かたまり)のある、ゆるく撚った糸(ロービング)を用いて作られる「ROVING NEP」シリーズ。鮮やかなブルーのジャケットはその新作。ションヘル織機で空気をふわりと含んで織りあげられたツイードは、まとえば実に軽やか。フードや袖口、ポケットなど随所に出現する風合いに富むフリンジも、この織機ならではの醍醐味。紡がれた糸からゆっくりと織りあげられ、丁寧に一着の服に仕立てられていく物語を感じて。 ジャケット¥165,000・ワンピース¥291,500・パンツ¥74,800/HaaT ISSEY MIYAKE INC. TEL.03-5454-1705 ブーツ/スタイリスト私物

ところどころに小さなネップ(かたまり)のある、ゆるく撚った糸(ロービング)を用いて作られる「ROVING NEP」シリーズ。鮮やかなブルーのジャケットはその新作。ションヘル織機で空気をふわりと含んで織りあげられたツイードは、まとえば実に軽やか。フードや袖口、ポケットなど随所に出現する風合いに富むフリンジも、この織機ならではの醍醐味。紡がれた糸からゆっくりと織りあげられ、丁寧に一着の服に仕立てられていく物語を感じて。

ジャケット¥165,000・ワンピース¥291,500・パンツ¥74,800/HaaT

ISSEY MIYAKE INC.
TEL.03-5454-1705

ブーツ/スタイリスト私物

しかし、このランダムさの実現は、職人にとって最も難しいことの一つであるはずだ。発注者の意図を正確に汲み取り、自らのセンスも必要とされる。だが、皆川はその点について特に苦労はないと言う。まさに、長年培った信頼関係のたまものだろう。
「今は、見せるための服の時代ではない。服単体が目立つのではなく、環境や周囲に調和し、着る人に寄り添う─そんな服を作っていきたいです」と言う皆川。生産過剰を極力避け、リサイクルウールの活用に尽力するなど、環境に負荷をかけない服づくりにも取り組む。

 積み重ねてきた高い土台の上に立つぶん、遠くまで見通せるであろう皆川の、未来を見据えたものづくりがこれからも続く。

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