BY HIROKO NARUSE, PHOTOGRAPH BY SATOSHI YAMAGUCHI

1960年代に写真家セシル・ビートンによって撮影されたジャンヌ・トゥーサン。1933年から70年までジュエリー制作を統括した。
COURTESY OF CARTIER
20世紀初頭、産業革命や万国博覧会を背景に、ヨーロッパのモードや芸術の分野で異国趣味(エキゾチシズム)が大流行した。それはアンリ・ルソーが描いたような南国の動植物、なかでも人気を集めたのが豹(パンテール)だ。強い意志を秘めた目や美しい毛並み、躍動感あふれるしなやかな動きが、たちまち人々の心をとらえた。そして当時、“ラ パンテール”の異名をもつ女性がいた。1933年からカルティエのクリエイティブディレクターを務めた、ジャンヌ・トゥーサンがその人だ。女性が職業をもつことが稀だった時代に、彼女は自らの才能を仕事に生かす道を切り拓いた先駆者。自由に生きる、自立した女性だった。

カルティエが初めてパンテールをモチーフにした作品。デザイナーのシャルル・ジャコーによるジュエリーウォッチ。1914年制作。
COURTESY OF CARTIER

1948年に制作された「パンテール クリップブローチ」は、ウィンザー公爵が夫人のためにオーダーしたもの。116ct以上のエメラルドカボションに、カルティエ初の具象的なパンテールが座している。
彼女の発案により、それまで斑点模様による抽象表現だったパンテールが、立体的な具象モチーフとしてジュエリーに用いられるようになった。メゾンが初めてパンテールの全身を登場させた作品が、ウィンザー公爵夫人のためのブローチ(上の写真)。イエローゴールド製で筋肉の動きまで緻密に表現され、今にも飛びかからんばかりのリアルさを見せる。トゥーサンとともに働いたデザイナーのピエール・ルマルシャンは、パリ郊外のヴァンセンヌ動物園に足繁く通い、パンテールのスケッチに没頭したという。ふたりの協力により、カルティエのジュエリークリエイションを代表するテーマが、新たな一歩を踏み出すことになった。
トゥーサンが創造したパンテールは、時代に即した新しい女性像を投影したものだった。20年代に登場したギャルソンヌと呼ばれる女性たちは、長い髪を切り、身体の線を強調しないストレートシルエットのショートドレスをまとい、カフェで煙草をくゆらせた。さらに二度の大戦を経て、女性の社会進出が大幅に進んだ。それまでの常識にとらわれない女性たちにふさわしいジュエリー、それがパンテールだといえる。

パンテール ジュエリーに用いられているサヴォアフェール(職人技)の中で、最も象徴的なのがペラージュセッティング。メタルを引き伸ばした微細な糸で宝石を囲み、パンテールの毛並みを再現する独自の技法。
COURTESY OF CARTIER
抽象と具象、二つの顔を手に入れたパンテールは、トゥーサンの自由な魂を受け継ぎ、さまざまな形に変容しながら輝き続けている。パンテールからほとばしる力強さ、人を惹きつける魅力、際立つ個性。これらを備えた女性像を象徴することが、時を超えて世界中で愛され続ける秘密なのだ。

1914年、カルティエから顧客に送られた展示会の招待状。当時の人気イラストレーター、ジョルジュ・バルビエによって描かれた水彩画《貴婦人とパンテール(DAMIER A LA PANTHERE)》が用いられた。
ILLUSTRATION BY GEORGE BARBIER. CARTIER PARIS, 1914. CARD AND TRACING PAPER. 22.3×17.2cm. INV. MF03/INST/03 CREDIT: GEORGE BARBIER, ARCHIVES CARTIER PARIS © CARTIER
生命力あふれるパンテールが
自由に生きる歓びを謳う

「パンテール ドゥ カルティエ」ブローチ〈WG、ダイヤモンド、エメラルド、オニキス〉¥32,076,000(参考価格)/カルティエ
カルティエ カスタマー サービスセンター
TEL.0120-1847-00
今にも動き出しそうなパンテールには、先に紹介したペラージュ技法に加えて、さまざまな匠の技が施されている。一見ランダムなオニキスの斑点は、実は斑点どうしの間隔や、間にあるダイヤモンドの数などを計算し尽くした位置にある。また多辺形の斑点は、背中などの膨らんだ部分では大きく、側面では小さく、不規則な形にひとつずつ手作業で切り出され、セットされている。メゾンの熟練職人だけがなし得る、伝統技法がここに。









