BY T JAPAN

2005年に登場した「トラディション」は、初代ブレゲが開発した当時としては革新的な懐中時計の構造をルーツにブレゲの美学と技術を象徴するコレクションとして、独自の進化を続けてきた。この腕時計の最大の特徴は、通常はケース裏に収められるムーブメントを文字盤側に現す構造にある。左右対称に整えられた機構やブリッジの配置、繊細な仕上げまでも視覚的に伝えるこの設計からは、機械としての合理性と美しさの両立がうかがえる。そこには創業者アブラアン-ルイ・ブレゲが追求した思想が、現在のものづくりにも自然に受け継がれている。

2026年の新作では、このコレクションにさまざまなアップデートが加えられた。グラン・フー エナメルの採用やムーブメント仕上げの刷新、新たなストラップの導入に加え、一部モデルではアラビア数字への切り替えも行われている。こうした変更は、歴史的なディテールを踏まえながら、現代的な佇まいへと静かに重心を移す試みといえる。

トラディション7038 ベゼルには58個のダイヤモンドが施され、さらにストラップのピンバックルには25個のブリリアントカット・ダイヤモンドが配されている

トラディション 7038
なかでも印象的なのが、ダイヤモンドをあしらった「トラディション 7038」。ブラックのアベンチュリンガラスを用いた文字盤は奥行きのある光を宿し、ブラック仕上げのムーブメントと響き合う。ベゼルには58個のダイヤモンドが配され、さらにバックルにもセッティングを施すことで、機械式時計とジュエリーの要素がバランスよく共存する一本に仕上がっている。

トラディション 7037
最も注目すべきは、12時位置の文字盤。ホワイトゴールドをベースにして作られた文字盤は、一般的なギヨシェ彫り文字盤に取って代わり、伝統的なグラン・フーエナメルでホワイトに仕上げられ、さらにはローマ数字もアラビア数字に置き換えられている。¥7,612,000
「トラディション 7037」は、ホワイトのグラン・フー エナメル文字盤とブルーのムーブメントのコントラストが際立つモデル。アラビア数字の採用により視認性を高めつつ、歴史的背景にも即したデザインが選ばれている点も興味深い。

トラディション GMT 7067
時刻表示の文字盤に初めてグラデーションのグリーンが用いられている。グラン・フーエナメルでこれを実現するには非常に高度な技術を要するという。¥10,571,000
また「トラディション GMT 7067」は、グリーンのグラデーションを描くエナメル文字盤を初めて採用。ローカルタイムとホームタイムを表示する機構とともに、実用性と表現の両面に広がりをもたせている。
過去の遺産を受け継ぎながら、現代の感性で磨き上げる——「トラディション」の新作は、ブレゲの揺るぎない軸と進化の両方を静かに物語っている。
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF BREGUET





