さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第17回は『週刊少年ジャンプ』編集長の中野博之さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

 1968年に創刊した『週刊少年ジャンプ』(以下ジャンプ)。2017年、39歳で第11代編集長に就任したのが中野博之さんだ。多くの漫画家や編集者をまとめるのは、どんな人物なのだろう? ジャンプきっての“おやつ好き・手土産上手”との噂を聞き、編集部をのぞいてみた。

 整頓された編集長のデスク横には、街の駄菓子屋を彷彿とさせる、よりどりみどりのお菓子が揃うおやつコーナーが。「あ、これは僕の趣味で、おやつを補充したり、ここをきれいにするのは僕の役目なんです。おやつを食べに来た部員からついでに相談されたり、逆に『あれ、どうなった!?』と何気なく質問できたり。編集長としての実利もひっそり兼ねています(笑)。このコーナーに欠かせないのは、『ブルボン』のお菓子。理由は美味しくて、そしてずっと変わらないところ。個人によって好みはさまざまですが、僕はルマンド派。もともと実家に置いてあることが多く、大学受験の勉強で腹が減ると、よく食べていましたね。ホワイトロリータにエリーゼ、チョコリエール、ルーベラ……ブルボンのお菓子はネーミングも秀逸なので、擬人化して漫画にしたいくらい(笑)」

画像: ブルボン「ルマンド」¥150(希望小売価格) ブルボン お客様相談センター TEL.0120(28)5605 ジャンプの「おやつコーナー」のスタメン「ルマンド」。薄く繊細なクレープ生地を幾重にも重ねて焼成し、ココアクリームでコーティング。愉快痛快なグルメ漫画『トリコ』(右)は、中野さんの思い入れのある漫画のひとつだ © 島袋光年/集英社

ブルボン「ルマンド」¥150(希望小売価格)
ブルボン お客様相談センター
TEL.0120(28)5605
ジャンプの「おやつコーナー」のスタメン「ルマンド」。薄く繊細なクレープ生地を幾重にも重ねて焼成し、ココアクリームでコーティング。愉快痛快なグルメ漫画『トリコ』(右)は、中野さんの思い入れのある漫画のひとつだ
© 島袋光年/集英社

 威圧感が全くなくて、柔和な雰囲気の中野さん。どんな少年だったのだろう?「漫画は『ドラえもん』に始まり『キン肉マン』『キャプテン翼』…、本なら『キンダーブック』シリーズや世界の童話……。幼稚園児の頃から漫画を含めた本全般が大好きで、それさえあれば2時間でも3時間でも動かない、手がかからない子だったみたいです。小学生の頃は、ファミコン全盛期だったのですが、友達の家に遊びに行っても、ゲームよりも友達の本棚に目がいっちゃって。ゲームは戦ったり、点数を競ったり、ロールプレイングなら前に進まないといけない。でも漫画と本はそれをしなくて済む―—今思えば、争うことが苦手だったんだと思います(笑)」。高学年になる頃には、ジャンプの読者投稿ページ「ジャンプ放送局」に応募するようになり、”県別優勝”したことも。それが漫画好きにさらに拍車をかけることになった。

 大学時代も本と漫画の世界に没入し、単純に“好き”という理由で出版社に入社。週刊少年ジャンプ編集部に配属された。「ジャンプの編集者の役割は主に2つあり、1つ目は“連載作品を守り、育てること”。そして2つ目が、“原石を発掘し、新しい漫画を立ち上げること”。僕は最初は『世紀末リーダー伝たけし!』の連載を引き継ぎ、同じ島袋光年先生で、10年ほどかけて2008年に『トリコ』を立ち上げました。コミックスは1・2巻同時発売だったんですけど、発売日、打合せの後、駅構内の書店をのぞいたら見当たらない。『人気のため売り切れです』と書店員に言われたときは、うれしいやら安堵するやらで、電車の中で涙が止まらなくなってしまって。“重版出来”のその上をいく“即日重版”を味わえたのは、人生で一番気持ちいい瞬間でした」

 毎週〆切が迫ってくるハードな日々に癒しをくれるごほうびおやつが、焼き菓子だそう。「特にバウムクーヘンが好きで、僕にとっての三大バウムクーヘンは、ふわっとした『クラブハリエ』、しっとりめの『治一郎』、やや固めでバターたっぷりの味わいの『ねんりん家』。ある程度日持ちがして個包装で、価格も良心的なので、プライベート用はもちろん、現場への差し入れに買っていくことも。余っていたら、一個もらいます(笑)」。この他にも、デパ地下のスイーツから地方の銘菓のことまで、挙げだしたらキリがないくらい、本当に詳しい。

画像: 「三大バウムクーヘン。タイプが全然違ってそれぞれ魅力的。一番は選べません」 (左より) 銀座 ねんりん家「マウントバーム しっかり芽」1本¥700 ねんりん家 TEL.03(5347)0230 クラブハリエ「バームクーヘンmini」<8個入り>¥3,000 クラブハリエ TEL.0120(295)999 「治一郎の バウムクーヘンカット」<4切れ入り10個>¥2,700 治一郎 TEL. 0120(81)5061

「三大バウムクーヘン。タイプが全然違ってそれぞれ魅力的。一番は選べません」
(左より)
銀座 ねんりん家「マウントバーム しっかり芽」1本¥700
ねんりん家
TEL.03(5347)0230

クラブハリエ「バームクーヘンmini」<8個入り>¥3,000
クラブハリエ
TEL.0120(295)999

「治一郎の バウムクーヘンカット」<4切れ入り10個>¥2,700
治一郎
TEL. 0120(81)5061

 編集長というポジションは、漫画家や編集者をサポートし、まとめる立場。「すべての責任は負うけれど、実際に漫画を作るのは漫画家と担当編集です。僕の考えや好みはひとまず置いておいて、『面白いと思うならやってみなよ。だめなら次』と声をかける役目。また、近年、映画・テレビ・舞台とメディア展開が増え、それぞれのクオリティを保つために担当編集がそこに深く入り込み、作品の核をしっかり伝えていく必要性が増しています。担当は脚本を作る会議にも出ますし、映画のコンテも見るし、アフレコの現場に立ち会い、DVDやグッズのチェックもする。削られつつあるけれど最も大切な“漫画家と作品の打ち合わせをする時間”を確保し、増やしてあげたいと思っています」

 最後に、大事にしていることを聞いてみた。「それは間違いなく漫画家の才能。その才能に常に寄り添い、リスペクトする編集部でありたいなと思っています。今、漫画界は、大きな過渡期です。紙の雑誌の部数は少し落ちていますが、デジタル版の需要が増えて、漫画を読む人口としては増加傾向にある。むしろアプローチが増えた分、賞の選考をしていても新しい才能にあふれていていて、選考現場は熱くて面白い。編集者の手が加わって読者のもとへ届くときには、見たこともないような漫画が生まれてくるんじゃないかな、という期待にあふれています」

中野博之(HIROYUKI NAKANO)さん
1977年福井県生まれ。大学時代は日本文学を専攻し、2000年集英社入社。週刊少年ジャンプ編集部に配属。2011年に『最強ジャンプ』の創刊時に副編集長に。2014年に古巣に戻って副編集長に就任し、2017年より現職に。担当した漫画は、『世紀末リーダー伝たけし!』『トリコ』『BLEACH』、『NARUTO-ナルト-』のメディア担当、『べるぜバブ』『魔人探偵脳噛ネウロ』など多数。筋金入りのインドア派
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