2023年秋、25周年を迎えたパティスリー、ピエール・エルメ・パリ。パリに先んじて、世界初のショップを日本にオープンするほど、日本との絆が深いパティスリーでもある。この四半世紀、お菓子を通して、人々とどのようにつながろうとしてきたのか。来日したピエール・エルメさんに話を聞いた

BY KANAE HASEGAWA

画像: クリスマスのための特別なマカロン3個詰め合わせ「レザドラーブル」¥2,484 2023年は「バルサミコ」「アンフィニマン トリュフ ノワール」、「トリュフ ブランシュ エ ノワゼット」の3種が赤いボックスに詰められて

クリスマスのための特別なマカロン3個詰め合わせ「レザドラーブル」¥2,484
2023年は「バルサミコ」「アンフィニマン トリュフ ノワール」、「トリュフ ブランシュ エ ノワゼット」の3種が赤いボックスに詰められて

 パリのパティシエ、ピエール・エルメ。お菓子に目がない人でなくても、その名前を聞いたことはあるだろう。バニラ、ピスタチオ、シトロン、バラにスミレといった果実や花のみならずターメリック、ワサビ、トリュフ、フォアグラ、、、意表を突く食材やスパイスの入った彼のマカロンは、一口食べれば誰もが驚き、笑顔になる。

画像: ピエール・エルメ。4代続くアルザスのパティシエの家系に生まれ、14歳のときガストン・ルノートルの元で修業を始める。創造性あふれる菓子作りに挑戦し続け、独自の“オート・パティスリー”(高級菓子)のノウハウ伝授にも意欲を燃やす

ピエール・エルメ。4代続くアルザスのパティシエの家系に生まれ、14歳のときガストン・ルノートルの元で修業を始める。創造性あふれる菓子作りに挑戦し続け、独自の“オート・パティスリー”(高級菓子)のノウハウ伝授にも意欲を燃やす

 14歳でルノートルのもとで修行し、フォション、ラデュレのお菓子作りに関わってきたピエール・エルメが大切にしていることは、ひとつ。お菓子で人々を笑顔にすること。だから、砂漠へ、北極圏へ、そして宇宙空間へと、過酷な環境のもとにもの自身のマカロンを届ける。そのためには労力をいとわない。2017年、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士トマス・ペスケさんを甘いマカロンで喜ばせようと、宇宙空間にマカロンを送った際には新たなマカロンづくりに一年を費やした。というのも、宇宙ステーションに持っていくためにはアメリカ国立航空宇宙局(NASA)から細かな条件が提示されたから。

画像: マカロンを楽しむフランスのトマ・ペスケ宇宙飛行士(2017年、国際宇宙ステーションにて)

マカロンを楽しむフランスのトマ・ペスケ宇宙飛行士(2017年、国際宇宙ステーションにて)

「長期に及ぶミッションのため、賞味期限は6か月以上であること、一口で食べやすく、頬張ったときにぼろぼろと砕けないこと。無重力空間でマカロンの生地が崩れて飛び散ちり、宇宙ステーションの精密機材の間に入ったりしたら、大変なことになりますから。また、宇宙飛行士が喉を詰まらせる危険も避けなくてはなりません。ゆえに、マカロンのメレンゲは通常より長く焼き上げ、鮮度が求められるクリームの代わりにゼリーのフィリングとし、一口で食べることができるように通常のマカロンより小ぶりの直径3センチのサイズに落ち着きました」と、ピエール・エルメさん。

画像: 2017年のマカロンデーの店内。チャリティーの趣旨を説明した冊子などが添えられている

2017年のマカロンデーの店内。チャリティーの趣旨を説明した冊子などが添えられている

 お菓子はたらふく食べなくていい。ひとつ食べただけで満足できればいい。でも、いつでもどこでも、どんなときでも食べられることーー。そんな思いを胸にお菓子作りに向き合うこと25年。そのまなざしは、病の関係で思うように甘いお菓子を食べることができない子どもたちにも向けられてきた。19年前、難病をわずらう子どもたちの医療や暮らしを支えるNPOを支援しようと、パリのピエール・エルメ・パリのブティックで始めたのが「マカロンデー」だ。
「お店に来たお客さんにマカロンひとつを無料で振る舞い、お客さんの任意による募金をNPOに届けるというチャリティーイベントです」
 お菓子を口にすることができない子どもたちの力に少しでもなりた。そんな思いから始まったこの「マカロンデー」は毎年開催されている。日本においては「認定NPO法人 難病のこども支援全国ネットワーク」の活動の支援につながっている。

画像: すべて植物性の材料を用いたデセール。ヘーゼルナッツのコクと、爽やかなユズの見事なハーモニー。コクのあるヘーゼルナッツ風味のクリームやクランブルに、ユズのピュレやコンフィ、ソルベなどがさわやかなアクセントを添え、みごとなハーモニーがお皿の上に広がる。「デセール ウレア ヴェジタル」¥2,400

すべて植物性の材料を用いたデセール。ヘーゼルナッツのコクと、爽やかなユズの見事なハーモニー。コクのあるヘーゼルナッツ風味のクリームやクランブルに、ユズのピュレやコンフィ、ソルベなどがさわやかなアクセントを添え、みごとなハーモニーがお皿の上に広がる。「デセール ウレア ヴェジタル」¥2,400

 近年、力を入れて取り組んでいるのが、“味わう楽しみと感動"と良識ある"低カロリー"を両立させたスイーツ”の開発だという。「健康上、食事制限を余儀なくされる人にも、甘いもので幸せを感じてもらいたいので、通常より30%糖分を控えたスイーツの研究開発を進めています。乳製品の摂取を控えている人にも味わってもらいたいから、プラントベースのスイーツにも力を入れています」。誰もが心置きなく、甘いものを食べる喜びを感じてほしい。そんなピエール・エルメさんの思いからイノベーティブなお菓子が次々と誕生しつつある。

画像: ニコラ・ビュフが手がけた「太陽と月の王国のものがたり」を用いたパッケージ PHOTOGRAPHS:COURTESY OF PIERRE HERME PARIS

ニコラ・ビュフが手がけた「太陽と月の王国のものがたり」を用いたパッケージ

PHOTOGRAPHS:COURTESY OF PIERRE HERME PARIS

 お菓子でひとを笑顔にしたい。その思いはピエール・エルメ・パリが放つエンターテインメント性において体現される。「私は1989年から建築家、詩人、写真家、アーティストなど、お菓子以外のフィールドで活動するクリエイターとの対話を重ねてきました。ダイアログを通して、そうしたクリエイターのみなさんから独創的な表現が生まれました」
 それらはピエール・エルメ・パリの店舗を包むアートワークやお菓子のパッケージとなって人々の心を捉えてきた。たとえば2016年、一年を通してピエール・エルメ・パリの店舗からマカロンのパッケージを飾ったのが、日本在住のフランス人アーティスト、ニコラ・ビュフのファンタジー溢れる絵画作品だった。ギリシア神話やマンガ文化、及びルネサンス芸術を着想源に、ビュフが描き下ろした空想上の「太陽の王国」と「月の王国」の物語は、季節ごとのパッケージに展開された。物語はピエール・エルメ・パリのグローバルウェブサイトで少しずつ公開された。ユーザーがインタラクティブに物語の世界観を楽しめる仕掛けがそこかしこに用意され、ストーリーの次の展開を心待ちにするファンも多かった。自由な発想から生まれるエンターテインメント性が、ピエール・エルメ・パリのおいしいお菓子にさらなる楽しみと付加価値を与えているのだろう。

問合せ先
ピエール・エルメ・パリ青山
公式サイトはこちら

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