RECIPE BY YOKO ARIMOTO, PHOTOGRAPHS BY YUKI SUGIURA, TEXT BY MIKA KITAMURA
Vol.1 フライドポテト
「揚げものは、油の質が大切です」
情報が氾濫する今、私たちは“体によい”と言われればその食材を選び、反対ならやみくもに避けてしまっていないだろうか。例えば、揚げもの。おいしいけれど、“カロリーが高くてヘルシーではないから”、“太りたくないから”と控えている方も少なくないだろう。
「古い油を使っていたり、揚げてから時間が経ったりしたものは、油が酸化し、体にいいとは言えませんね。新しい油を使い、揚げ立てをいただけば、油の酸化は最低限で済むのです。だから、揚げものは家庭でするのがおすすめね」と有元さん。
「揚げる作業は大変と思われがちですが、調味に凝る必要はなく、油の力で素材の味を閉じ込めてくれるので、揚げるだけでおいしくなるんです」
まず大切なのは、油の選び方。「原料は何か、どうやって作られているかを知ってから選んで欲しいのです。ラベルにすべてが書かれているわけではありませんが、せめて生産国は確認しましょう。私はイタリア産のオリーブオイルと、日本で作られた太白ごま油を使っています」
そして、油の使い方にもコツがある。「最初は、野菜の素揚げに使います。二回目は、かき揚げなど衣をつけた野菜類や、ドーナッツなどの甘いお菓子。最後に、肉や魚を揚げておしまい。
油は早めに使いきることが大切です」
今回はおろしたての油を使って、フライドポテトを。コツは、じゃがいもをゆでておくこと。じゃがいものでんぷんで、揚げ上がりがねっちりなってしまいがちだが、ゆでることででんぷんが流れ落ち、表面がカリッ、サクッに。次から次へと手が伸びるおいしさ。余ったら(多分、余らない…)、フライパンににんにくとバターを熱してフライドポテトを合わせ、溶き卵を加えて、薄焼きのフリッタータ(オムレツ)に。
<材料>
じゃがいも
塩
揚げ油
<作り方>
Vol.2 ミラノ風カツレツ
「おいしくヘルシーな揚げ物は、油選びと保存の仕方も重要」
第2回は「揚げ物・第2弾」として、ミラノ風カツレツの作り方を習う。本来、ミラノ風と名付けられたカツレツは仔牛肉で作るが、豚肉でおいしくできる。
「日本で仔牛肉はほぼ手に入りませんから、私は豚肉で作ります。仔牛肉に食感が似ているのはヒレ肉ですが、揚げ上がりのパサつき感が気になるので、肩ロース肉を選んでいます」と有元さん。
パン粉は市販の生パン粉をフードプロセッサーで挽いてさらに細かくする。細かければパン粉が吸う油の量は少ないので、よりヘルシーに。肉にはあらかじめ塩をせず調理し、揚げたてにおいしい塩を振ってから、たっぷりのミニトマトとパセリを添える。おすすめの塩は、フランス産ゲランドの「フルール・ド・セル」。同様に鶏肉でも作れる。サクサクの衣とジューシーな肉、ソース代わりのトマトの甘み&酸味のコンビネーション。よく冷えた白ワインが合う。
おいしくて体に優しい揚げ物は、油選びがまず大切。揚げ油は生産国と原材料が明記されているものを選ぶとよい。有元さんはイタリア産のオリーブオイル、日本の太白ごま油を常備している。
有元さんは、揚げ油の使いまわしは3回まで、と言う。最初は野菜の素揚げ、次にかき揚げなどの衣をつけた野菜類やドーナッツなどの甘いお菓子。最後に肉や魚を揚げておしまいにするという。今回は肉を揚げたので、油はこれにて終了。
ちなみに野菜の素揚げやかき揚げをした後の油は、速やかにキッチンペーパーを2枚重ねてざるにのせて漉し、保存瓶などに入れて冷蔵庫で保管する。家庭の揚げものではそれほど多くの油が残るわけではないので、保存に大きなオイルポットは必要ない。有元さんは手許にある瓶などを利用している。
<材料(2人分)>
豚肩ロース肉 約 150g を2枚
にんにく 2片
小麦粉、溶き卵、生パン粉 各適量
揚げ油 適量
おいしい塩 適量
ミニトマト 1パック
イタリアンパセリ 適量
レモン汁 1/2 個分
<作り方>
Vol.3 春巻き
「常温から徐々に油の温度を上げて、カリッサクッの食感に」
第3回は、常温の油に入れて揚げていくカリカリ、サクサクの春巻き。少なめの油でじっくり揚げていく方法をご紹介する。
「ゆっくり揚げれば、時間をかけた分、水分が抜けていくので、カリッとした仕上がりになります。低めの温度で揚げますから焦げませんし、具材を春巻きの皮で包んであるので、油もはねません。油が多すぎると、春巻きが油の中でぐるぐる回ってしまいます。そのため、油をひたひたよりも少なめにします」。
鍋に敷き詰めるように春巻きを入れても大丈夫。しばらくは触らず、泡が小さくなってしゅわしゅわという音になったら、裏返して同様に揚げる。全体においしそうな揚げ色になったら出来上がり。何回かに分けて揚げる場合は、一旦火を消して、温度を下げてから同様に揚げる。
チキンや肉だんごなどを揚げるときも同じようにすれば、表面がカリカリに。熱々がおいしいので、すぐ召し上がれ!
<材料(作りやすい分量)>
春巻きの皮(ミニ) 1袋(10枚)
小麦粉 適量
玉ねぎ(小) 1個
桜えび 40g
太白ごま油
塩
<作り方>
Vol.4 ステーキ
「肉は塊肉を買ってたっぷり食べる。ステーキの厚さは譲れません」
「自他ともに認める野菜好きですが、たまにたっぷり肉を食べたくなります。そんなとき、肉は必ず塊で買います。時々ですから、ちょっと贅沢してよい肉を選ぶんです。そして調理はシンプルに」と有元さん。いちばん好きなのは、2cmくらいに厚く切った牛肉を調味せず、さっと焼いただけのステーキ。塩や醤油、薬味類を用意して、各自が好きな味で。「お店で切ってもらうより、塊肉を買って自分で切るほうがなぜかおいしいのよ」。
ステーキなら、火力は「薪、炭、ガス、電気」の順においしく焼き上がるのだとか。家庭で薪や炭は難しいが、ぜひ、フライパンを使ってガス火で焼いてみよう。おいしく仕上げたいなら、フライパンは鉄製で。高温に熱したフライパンに肉を入れ、たんぱく質をしっかり固めておいしい肉汁を逃さないようにするのが必須。それには鉄製が最適。
肉の部位の特徴を知って選ぶのも、料理上手への近道だ。おおまかに、脂肪が少なくてやわらかいのがヒレやもも。有元さんは、もも肉の中で比較的やわらかなランプが特におすすめと言う。また、煮込みには肩ロースやブリスケをよく使うのだとか。適度な脂肪があってキメが細かく食べやすいロース肉の中でも旨みのある肩ロースや、肉質は硬めで旨みのある胸の部分のブリスケは煮込みにぴったり。
ステーキを食べたくなったら、どのような塊肉を買い、使い切るかを教えてもらった。選ぶのは、ステーキによく合うランプや少し脂が欲しければイチボを塊で800〜1kg。これを厚さ2㎝に人数分切り分けてステーキに。残ったものはタリアータにしたり、醤油に漬けておいて次の日にさっと焼いて丼にしたり。タリアータは、イタリア風の牛たたきのこと。薄切りにして、好みの味で。
<材料(1人分)>
牛ランプ肉 厚さ2㎝ 1枚
きゅうり 1本
セロリ 適量
薬味と調味料(大根おろし、わさび、アリッサ*、すだち、七味唐辛子、醤油、塩) 各適量
オリーブオイル 適量
*モロッコのスパイシーな調味料
<作り方>
残った塊肉でタリアータ
<材料>
牛ランプ肉 800〜1kg
粗塩、胡椒 各適量
塩漬けケイパー、ローズマリーの葉先、オリーブオイル、バルサミコ 各適量
<作り方>
Vol.5 豚のポットロースト
「作り方は超簡単、香りも見た目もご馳走感満載」
肉は塊で買うのがいちばんと有元さん。「豚肉も、塊肉が便利です。せっかくですから、白金豚や黒豚など銘柄豚を選ぶと失敗がないですね。今回は塊肉をそのまま料理しますが、自分で切り分けて冷凍することもあります。自分で切れば、料理方法に合わせて切り方を変えられ、市販品にない切り方ができるのが魅力です」。例えば、繊維に沿って切れば歯応えを、繊維を断ち切ればやわらかさを楽しめる。6〜7㎜幅の細切りにして野菜炒めや、きのこと合わせてクリームパスタに。小さく角切りにすれば、粉をはたいて揚げものに。塊肉は量が多いので、有元さんは真空パックをして冷凍保存している。真空パック器がなくても、ラップで空気に触れさせないようにピシッとくるめば充分だとか。
ポットローストは、鍋で肉を蒸し焼きにする料理。鍋ひとつで手軽にできて、見た目も豪華。「鍋は厚手のものを使ってくださいね。にんじんや玉ねぎ、じゃがいも、さつまいも、ごぼう、れんこんなど根菜系の野菜を加えてもいいでしょう」。
今回はロースト可能な土鍋を使い、肉の表面を焼いてからオーブンへ。もちろん、ガス火などにかけておいてもOK。時間はかかるが、放っておけるので、その間に簡単な前菜とサラダを作ることもできる。
「ローリエとローズマリーを枝ごと入れれば、見た目も素敵でしょう?ハーブの香りが漂っているお部屋にお客さまをお迎えするのも、充分なおもてなしです」。
<材料(作りやすい分量)>
豚肩ロース肉(塊) 800g〜1kg
にんにく 3片
ローリエ 3〜4枝
ローズマリー 2〜3枝
粗塩 5本指で2つかみくらい
黒胡椒 適量
マスタード 適量
<作り方>
Vol.6 とろける醤肉ジャンロウ
「ひたすら煮込むだけ。とろける牛肉の贅沢な味わいをどうぞ」
「醤肉(ジャンロウ)」は牛肉の中国風醬油煮。長時間煮て、とろけるようになった肉はお箸でちぎれる。牛の脂をしっかり取り除き、酒と醤油だけで煮込むので、すっきりキレのよい仕上がりに。酒の肴によし、白いご飯のおかずにもよし。
「お肉の料理ではありますが、肉の旨みを吸った干し椎茸と昆布のおいしさは格別です。我が家では、干し椎茸と昆布の料理と呼んでいるほど」
牛の「ブリスケ」という部位を使う。ブリスケとは、前足の付け根あたりの前側部分。よく動かすところなので、筋肉質で硬め。コラーゲンが多く、煮込み料理によく使われる。手に入らなければ、すね肉でもよい。「牛肉は煮ると縮みますから、半分に切ったりせず、大きいまま煮込みます。ことことひたすら煮込むだけなので時間はかかりますが、手はかかりません。せっかくならたくさん作って、残りは切り分けて牛丼に、ラーメンに。刻んで粒山椒と一緒にご飯に混ぜても」
上手に作るポイントは、塊肉がちょうど入る深めの鍋を用意すること。クッキングシートと落とし蓋をして水分が蒸発しすぎないようにし、煮汁を対流させて味が全体に均一にしみこむようにする。また、クッキングシートについた余分な脂を取り除けば、すっきりした味わいになる。2日間かけてじっくり煮込むので、味がしっかりしみて、口の中でスッと溶けるような肉のやわらかさを味わえる。
<材料 作りやすい分量>
牛のブリスケ 800g〜1kg
昆布 25cm角1枚
干し椎茸(どんこ) 7〜8枚
生姜 大1個
酒 1カップ
醤油 1/2カップ〜1カップ
<作り方>