BY ALICE NEWELL-HANSON, PHOTOGRAPH BY TERRY GRAHAM, TRANSLATED BY YUMIKO UEHARA

「トーリントンズ・フィッシュバー」のポテト。ブラバソースとアイオリソースを添えて。
伝統的な英国料理について語るなら、どうしても「イギリスの食事は地味で茶色くてべちょべちょ」というステレオタイプな説明を繰り返すことになってしまう。フィッシュパイは牛乳で煮たタラにマッシュポテトを重ねた単調な見た目。マッシーピーズは茹でた豆をピュレ状にしただけ。サマープディングも、鮮やかなフレッシュベリーを包んだパンがびっちょりしている。イギリスの人類学者ケイト・フォックスは、2004年の著書『Watching the English』で、この国の人々と食事の関係を「曖昧で不協和で、多くの場合は表面的」と表現した。ピューリタン(清教徒)が贅沢を避けたことが由来なのか、産業革命時代の囲い込みで労働者階級が土地から切り離されたせいなのか、あるいは第二次世界大戦中の配給生活の影響なのか、いずれにせよイギリス人が食事に対して、フランス人やイタリア人のように濃厚な情熱を捧げることはめったになかった。食べるものへの執着は恥とされてきた。
20世紀半ばになると、インド、パキスタン、カリブ海の西インド諸島など元英領からの移民が増え、イギリスの食文化に新たな味を加えた。さらにここ20年間でロンドンのレストランシーンは世界レベルとなり、タイのスープ料理、トリニダード・トバゴのロティ、ナイジェリアのバーベキューなどを提供する人気店が話題だ。そして今、伝統的な英国料理もようやくアップデートされつつある。小皿ばかりで副菜にピンセットを添えるような気取った美食文化が世界的にもてはやされる時代に、英国式の素朴さが新鮮に感じられるようになってきたのだ。数年前には「Old Dry Keith」と名乗るイギリス人インフルエンサーがバターを塗ったトーストとゆで卵という質素なランチを紹介し、中国のSNSで話題になった。2023年にはイギリスのファッションブランドであるバーバリーが、古典的な英国大衆食堂を再現するカフェとして2020年にロンドンでオープンした「ノーマンズ・カフェ」と、期間限定で手を組んだ。チップバティ(フライドポテトをパンに挟んだ、炭水化物だらけのサンドイッチ)などおなじみのでんぷん料理とともに、バーバリーの新作コレクションを楽しむという趣向だ。

イエロー・ビターン」のダブリンの郷土料理「コドル」。
これらは、イギリスらしい素っ気なさ─写真家マーティン・パーがソーセージやベイクドビーンズを写した奇妙な作品に象徴される─を面白がる流行であり、労働者階級の食事を模倣する一種のコス
プレ遊びでもあるのだが、その一方で、新しい世代のシェフたちによる真剣な挑戦の表れでもある。
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