三つ星レストランの新しいビジネスモデル「ノーマ・プロジェクト」が始まった。デンマーク「ノーマ」のオリジナル調味料が日本に今夏初上陸し、家庭の食卓で世界最高峰のガストロノミーの味が楽しめるようになったのだ

BY MIKA KITAMURA

画像: 「ビーチローズ」は1950年代に防風のために、デンマークの海岸線に植えられた野性のばら。「ノーマ」のスタッフが1枚1枚手で摘み、高濃度にブレンド。繊細でバランスのとれた華やかな香りと繊細な味わいのビネガーが誕生した

「ビーチローズ」は1950年代に防風のために、デンマークの海岸線に植えられた野性のばら。「ノーマ」のスタッフが1枚1枚手で摘み、高濃度にブレンド。繊細でバランスのとれた華やかな香りと繊細な味わいのビネガーが誕生した

「noma(ノーマ)」。「世界一のレストラン」と称賛され、最も予約の取れないレストランのひとつ。たった1軒が、デンマークの経済に多大な貢献をし、その効果を語るのに、「Nomanomics(ノマノミクス)という言葉が生まれたほどだ。

 オーナーシェフのレネ・レゼピがスタッフと家族103名を引き連れて、今年の3〜5月にポップアップレストランを京都で開催したのは記憶に新しい。レゼピは京都で弊誌のインタビューに語ってくれた。「ノーマは変わらなくてはいけない。新たな経済基盤を築くためにレストランを来年いったん閉店し、ノーマ・プロジェクトを始めたのです」。

 ノーマ・プロジェクトとは何か。長年、ノーマのリサーチ&開発のトップとして活躍し、世界で唯一の姉妹店であった東京「INUA(イヌア)」(2021年閉店)のヘッドシェフを務めた料理人、トーマス・フレベルに話を聞いた。

画像: Thomas Frebel(トーマス・フレベル)。1983年ドイツ生まれ。2009年「noma」入店。リサーチ&開発のトップとして活躍。2015年に東京のポップアップレストランのために来日した際、日本の食材や文化に魅了される。2018年「INUA」のヘッドシェフ就任。2020年「ミシュランガイド東京2020」で二つ星。2021年3月「INUA」閉店。デンマークに戻り、現在は「noma」のクリエイティブ・ディレクター・共同経営者

Thomas Frebel(トーマス・フレベル)。1983年ドイツ生まれ。2009年「noma」入店。リサーチ&開発のトップとして活躍。2015年に東京のポップアップレストランのために来日した際、日本の食材や文化に魅了される。2018年「INUA」のヘッドシェフ就任。2020年「ミシュランガイド東京2020」で二つ星。2021年3月「INUA」閉店。デンマークに戻り、現在は「noma」のクリエイティブ・ディレクター・共同経営者

「私たちは料理に既存の調味料は使いません。一期一会のお客様のために、時間をかけてあらゆる調味料を開発し、それを用いた料理を提供してきました」。
 ノーマでは、「メニュー開発」「厨房」、「発酵研究」の3チームが一丸となって料理を作る。フレベルは新しい調味料の開発にも長年携わってきた。
「開発チームの間では『こんな味が家で食べられたら最高だね!』と言い合いながら、将来、一般の家庭にこの味を送り出せたらーーそんな妄想をしていたんです」。

 新型コロナウイルスの影響もあり、世の中の流れが一気に加速し、10年は早まったとフレベルは言う。「僕らのことを、ローリング・ストーンズだと思ってみてください。僕らの歌は、あるカフェでしか聴けない。CDもない、ダウンロードもできない。予約するのは相当に難しく、飛行機に乗り、ホテルに泊まって、そのカフェへ来なければならない。ノーマはこれまで、そういう状態でした。僕らは、もっと大勢の人たちに歌を聴いてほしい。そのためにノーマ・プロジェクトが始まったのです。でも、これが始まるのは10年後くらいかなと、レネもスタッフも考えていたんですが」。

 コロナ禍の影響で、お店をしばらく閉めなければならなかった期間、レゼピもスタッフも、自分たちのビジネスがいかに脆弱なものであるか認識したと言う。従業員の生活を守らなければならず、広い庭のメンテナンスも必要だし、家賃などの支出も多い。そこで、このプロジェクトを早く実現し、レストランが取り組む新たなビジネスとして追求することにしたという。

ノーマの味を家庭へ。日本でのプロジェクト第1弾は「Dashi RDX」

 2009年にレゼピが、そして2015年にはフレベルが初めて日本を訪れた。
「伝統文化をしっかり守りつつ、海外の情報も取り込んで革新的な挑戦をし続け、洗練さを極めていく日本の食文化に、ふたりとも魅了されました」。
 その影響はすぐキッチンに及んだ。黄色のえんどう豆と大麦麹で味噌を作り、「ピーソ」と名付けた。そのピーソから生まれた「たまり」にスタッフたちは感動を覚えた。
「僕らはたまりに心を奪われました。ただピーソからできるたまりは少量です。たまりのためにピーソを大量に作ることは避けたいと、たまりと同様の旨みを引き出すため、ナチュラルでシンプルな濃縮還元技術を開発しました。これが「Dashi RDX」となり、レストランの厨房でずっと使っていました。日本でのプロジェクトの第1弾は、この国にインスパイアされて作った調味料にしました」。
 出汁は、羅臼昆布、鹿児島産の鰹節で撮り出汁をとり、ノーマオリジナルのスモークマッシュルームガルムを加え、日本の伝統的な技法と発酵・濃縮技術を組み合わせることで、“旨み”を重ね、ノーマらしいインパクトのある味になっている。

画像: 昆布、鰹節、きのこから抽出した出汁を濃縮し、香ばしいシロップ状に仕上げた液体調味料。「Dashi RDX(だしリダクション)」100ml ¥5,000

昆布、鰹節、きのこから抽出した出汁を濃縮し、香ばしいシロップ状に仕上げた液体調味料。「Dashi RDX(だしリダクション)」100ml ¥5,000

 これは料理を作るときに使うのではなく、「料理の最後の味の決め手にしてほしい」と言う。
「たとえば、蒸したとうもろこしにひと刷毛、みたいなファイナルタッチに使ってほしい」。ローストやソテーした肉、魚、野菜にも。だし巻き玉子や玉子焼きにも、あるいはご飯にひと垂らしして海苔で巻いてもいいと、フレベルは楽しそうに話してくれた。

画像: 「冷奴とほうれん草、スパイシーセサミドレッシング」。ごまとわさびのマヨネーズソースとごま油を塗って塩を振った豆腐、ゆでたほうれん草を器に盛り、ネギと大根おろしを添える。最後に「Dashi RDX」を垂らす

「冷奴とほうれん草、スパイシーセサミドレッシング」。ごまとわさびのマヨネーズソースとごま油を塗って塩を振った豆腐、ゆでたほうれん草を器に盛り、ネギと大根おろしを添える。最後に「Dashi RDX」を垂らす

画像: 「アボカドトースト」。トーストしたパンにアボカド、チーズ、クレソンをのせ、塩、胡椒をし、オリーブオイル、レモン汁をかける。最後に「Dashi RDX」を振りかける

「アボカドトースト」。トーストしたパンにアボカド、チーズ、クレソンをのせ、塩、胡椒をし、オリーブオイル、レモン汁をかける。最後に「Dashi RDX」を振りかける

繊細で華やか、「ワイルドローズビネガー」

「Dashi RDX」の次は、「ワイルドローズビネガー」が登場する。デンマークの海岸に育つビーチローズは、毎年わずか数週間しか咲かない。この花びらをスタッフが1枚1枚手で摘み、繊細でバランスのとれた華やかな香りと繊細な味わいのビネガーが誕生する。ノーマの味のアイコン的な存在で、京都のポップアップレストランでは、北海道からハマナスの花を取り寄せて、炊いた緑米に花びらがたっぷり散らされていた。このビネガーは、塩味の料理からデザート、カクテルなど、あらゆる料理に活躍してくれる。

 たったひと振りでノーマの味が目の前に現れる魔法の調味料。ノーマの「歌」に、あなたも食卓で耳を澄ませてほしい。

画像: 創業当時からノーマのキッチンの定番調味料。「ワイルドローズビネガー」¥4,400 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF NOMA

創業当時からノーマのキッチンの定番調味料。「ワイルドローズビネガー」¥4,400

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF NOMA

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